『One-Sided Game』×『飲み込みすぎた煌めき』

ここではない世界の誰かの記憶が「そこに行け」と囁く

【character select】


『One-Sided Game』より安藤モア(アンゴルモア)、参宮拓三


『飲み込みすぎた煌めき』

https://kakuyomu.jp/works/16817330653849406581


【time stamp】


『One-Sided Game』での2022年7月23日


【START】


 今日はタクミを連れてウナギを食べに行くぞ。土用の丑の日なのだから。土用の丑の日はウナギを食べる日だと、ネットニュースで見た。もその日は予約でいっぱいでてんやわんやしていた。けれども、今日という日にかこつけて行かなければ、行く機会を逃してしまう。その危険性が高い。タクミは「なんでウナギ?」から始まって、我に理由を求めるだろうからな。


 シゲに会いたい。


 シゲは我のことを覚えていないだろう。当たり前ではあるが、この姿で行っても、我が誰だかわからない。ユニは前世のことを覚えているようだが、ユニ以外にそういう人間に出会っていないから、なおさらわからないだろう。


 アニー。

 オルタネーターとしてこの世に、いや、この世の一個前の世界、我の言うに誕生した生命。ウナギ屋に雇われ、シゲと恋をして、異常個体として処分された代替品。世が世ならシゲと結ばれていたに違いないが、世が世でなければ生まれなかったであろう存在。実際、こちらの世界ではオルタネーターのオの字も出ない。漆葉はヒソヒソと研究しているようだが、彼の研究が日の目を見ることが果たしてあるのだろうか。


「なんか、めっちゃ高そうなお店じゃん」


 タクミが店の外観を見て萎縮している。普段着で来ちゃったけど大丈夫かな、なんて思っているのが聞こえてきた。お昼時ならまだ……。門前払いされるようなこともない、と思うぞ!


 本当はおばあさまやユニも連れてきたかったのだが、我の持ち金では予算オーバーだぞ。かといっておばあさまやユニに支払わせるわけにもいかない。我が我の自己満足でこの店に来たのだから。うむ。


「行くぞ!」


 ここまで来て別の店にしようか、はなかろうて。我はタクミの手を引いて入店する。顔馴染みの、――アニーにとっては、顔馴染みの給仕が我らに気付き「本日はご予約のお客様のみとなっておりまして」と申し訳なさそうに言ってきた。


「ふむ」


 言われていることの意味ぐらいはわかるのに、タクミが「ダメだってさ」とわざわざ要約してきた。我らはそのご予約のお客様ではない。


「二名様でご予約の参宮だぞ!」


 ご予約をしてあるぞ。抜かりなく!

 ふんふん。ネットで予約するとドリンクが無料で付いてくるのでな。


「……失礼いたしました」


 若い二人が土用丑の日だからと乗り込んできたように見えたのだろう。そういう客も多いだろうな。道すがらウナギ屋を見かけてふらっと入ってくるような輩が。


「ご案内いたします」

「うむ!」


 レジの中にある予約管理表に参宮の名前を見つけたようで、表情が変わる。


「参宮で予約してるんだ……」

「そうだぞ?」


 やがては我も参宮モアとなるのだから間違いではなかろう。


「まあ、いいけど」


 うむ。

 履き物を脱いで、案内されたご予約の席に座った。隣とは障子で分けられていて、個室のようにはなっている。声は聞こえてくるが。


「ランチの鰻重! 特上を二つ! それとう巻き! ……飲み物、タクミは何がいい?」


 ランチなら肝吸いがついてくるからわざわざ頼まなくともいいか。アニーの頃とメニューは変わっていないな。茶碗蒸しも食べたいが、う巻きがたまごだから被る。やめておこう。デザートのアイスもいい……ゆずの皮が乗せられていて……。


「お金ある?」


 タクミが珍しく我の所持金を心配している。メニューを開いてその金額にびびっておるな。心配するのもわかる。我の母星には貨幣経済がなかったから、地球へ来たばかりの頃は苦労したものだが、今は違うぞ。


「ある!」


 あと、ドリンクは無料だぞ。


「烏龍茶でいいよ」

「なら、我もそれで……烏龍茶二つ!」


 ウナギっ、ウナギっ。


「かしこまりました」


 やはり我がアニーだとは気付いていないようで、給仕はそろりと出て行った。……我がアニーというのもちょっとニュアンスとしてはおかしいか。しかしオルタネーターはみな我のようなものだからなあ。おなかも空いてきたぞ。

 ウナギは注文が入ってから捌いて焼くから、その間にスッとテーブルに出されたお通しの漬物を食べる。女将さんが漬けている美味しい漬物。今日はかぶときゅうりのぬか漬け。


「ネットで調べたの?」


 お茶にも手をつけず、居づらそうにキョロキョロとしているタクミに聞かれて「話すと長くなるぞ!」と前置きする。どう話せばいいか。別の世界にはオルタネーターという存在があり、オルタネーターの内部にはコズミックパワーが備わっているので、すなわち我と記憶が共有されている。そのオルタネーターのうちの一体、アニーがその世界でのここのウナギ屋で働いていたからここに来た。これでいいか。

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