『あの娘が空を見上げる理由』×『One-Sided Game』

北の国へと2023初夏 《前編》


【character select】


 堀井菖蒲作『あの娘が空を見上げる理由』シリーズより、木全正人、谷口美葉

 https://kakuyomu.jp/users/holyayame/collections/16817330653992661504


『One-Sided Game』より安藤モア(アンゴルモア)


【time stamp】


『あの娘が空を見上げる理由ー赦しー』本編終了後


【START】


 北海道、当別。

 試される大地、とも言われる北海道の地にて、試練を受けるのは人間のみならず。


「ふむ」


 ひまわり畑を眺めながら、その長い足を腕で抱え込み――体育座りをしているがいた。

 スチール撮影用の強いライトに当てられても崩れないその顔面は物憂げな表情を作り出している。


 見る人が見れば彼女をモデルの『十文字零じゅうもんじれい』とし、なぜこの当別の地にいるのかを訝しむだろう。


「やはり人類は滅ぼすべきか……」


 十文字零はそんなこと言わない。


 ――彼女はアンゴルモア。

 またの名を安藤モアとする。

 宇宙の果ての小さな惑星で生まれた生命体、要は宇宙人である。


 1999年の7の月に初来日。

 そのとき参宮拓三さんぐうたくみと運命的な出会いを果たし、紆余曲折あってようやく結ばれる運びとなった。


 今回、モアが遠路はるばるこの地を訪れた理由としては「人類を滅ぼす」目的を達成するためではない。

 本来のモアの役割は「人類を滅亡させて地球を侵略すること」ではあるが、今回は違う。


 場面は小一時間前に遡る。


「たのもー!」


 立て付けが悪ければ破壊していたであろう勢いで入り口の扉を開け放つモア。

 さすがにの看板を掲げるだけあって、ちょっとやそっとでは壊れない。

 壊れてもが直すだろう。


「ここがかの有名な『樹々』か?」


 モアの勢いに気圧されつつも、一人の見目麗しい女性が立ち上がる。

 彼女の名前は谷口美葉たにぐちみよ

 家具工房『樹々』の主人――というわけではないが、経営を手伝うデザイナーである。


 その風貌を見たモアは、口には出さずに(タクミを連れてこなくてよかった!)と自らの単独行動を是とした。

 もしタクミを連れてきていたら美葉にだろう。

 彼女モアという存在を横に置きながら。


「ええ、そうです」


 人の美しさには種類がある。

 十文字零の美しさがパッと目を惹くバラのような華々しさとするならば、応対するこの女性の美しさには地面にしっかりと根を張って太陽にへと伸びていくヒマワリのようなパワフルさがある。

 他には可憐な美しさなどもあるが、この二人両者ともに『儚げ』という言葉とは縁遠い存在である。


「家具を作ってほしいぞ!」


 モアはポシェットから貯金箱を取り出した。

 おばあさま(※参宮拓三の祖母にあたる人物)のススメで始めた『五百円玉貯金』である。


 開封してはいないが、この重さであれば望みのものを造れるだろう。

 と、モアは思っている。


 余るようなことがあれば、道すがら見かけたレストラン『新風じんふぁ』へ行きたい。

 大食いのモアには『ビュッフェ』の文字は非常に魅力的で、さらに『シュラスコ』なる料理も気になるところだった。


 お土産には団子を買って帰る。

 こちらは決定事項だ。


「でしたら、細かいご要望を承りたいので、こちらに」


 突然の来訪者は待望の客だった。

 ともすれば閑古鳥が鳴きそうな『樹々』に、本業のらしい依頼が舞い込むチャンスとあって、美葉は浮き足立つ。

 この際宇宙人でもいいから家具を買ってくれないか、と思っていた矢先の出来事だった。


「うむ。よくぞ見破った。我は宇宙人だぞ」


 カウンターに座るなり、モアは自身の出自を明らかにした。

 アンゴルモアは侵略者であり、人間の思考を読み取ることができる。


「そうは見えませんけど」


 きっとジョークだろう。

 美葉は営業スマイルでかわした。


 まさかね。


「コーヒーを淹れようとしているのなら、我はコーヒーが苦手だから遠慮するぞ!」


 よく見ている。


 子ども連れのお客さんも想定し、挽きたてのコーヒーだけではなくはちみつレモンの用意もある。

 これは波子さんお手製のもので、のどに効くと好評だ。


「どうぞ」


 ソーダ水で割ったものを用意する。

 自称宇宙人の美人さんは、満面の笑みになって「いただきます!」と手を合わせた。


「美味しい!」


 コマーシャルばりの豪快な一気飲みで、あっという間にグラスが空っぽになってしまう。

 提供する前にかき混ぜはしたが、まだ原液が氷の下に沈澱していた。


「それでな、我はおっきなベッドを作ってほしい! タクミと一緒に寝られて、」


 ここで何を思ったか、頬を赤らめる。


「その、タクミは大きいから、動いても壊れなさそうな頑丈なもので……とにかく、そんな感じの……」


 最初の勢いはどこへやら、最後は消え入りそうな声になってしまった。


「キングサイズのベッドですね。希望の材質はありますか?」


 自身を宇宙人と称するわりに、なんだかかわいいところがあるじゃないの。

 美葉は自然な笑みを浮かべつつ、事務的な質問を投げかける。

 『樹々』は、人に寄り添って家具を作り上げていく。


「ざいしつ?」

「木にも色々あるんです。長く使うものなので、触って、しっくりくるものを選びませんか?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る