青春リベンジ 社畜が灰色の青春ライフを繰り返す
堕落した猫
第1話 チュートリアル
目の前の女子小学生が、突如口を開いてこう話し出した。
「時間が無いので簡単に説明します。
彼女が満足する幸せな夏を過ごせないと、あなたは永遠に中学2年の夏を繰り返すことになります。」
「あなたは、彼女の無意識が呼び寄せた助け人です。」
「この世界は、彼女を中心に回っています。
あなたは、彼女が一番都合良く利用できる人間として選ばれました。
彼女が満足する未来にたどり着くまで貴方は同じ夏を繰り返すことになります。」
まだ小学生なのに中二病を発症しているとは、生きずらそうだなと心の底で思いながらも、このチュートリアルを受けた。
背中がぞわぞわして、恥ずかしさのあまり顔を覆いたくなるような説明も真面目に聞かざるを得ない状況だったからだ。
俺はすでに5回目の周回の夏の日を繰り返していた・・・・
俺の故郷は、人口3400人 周囲117km 本土からフェリーで3時間かかる超絶なる田舎の絶海の孤島だった。
高校になってからは、本土に渡りそのまま大学・就職と本土に住み着いてしまい社会人13年目になってからも島に帰省することは無かった。
それなのに、今俺は中学2年生の身体で学校への道を女子小学生と歩いていた。
社会人13年目 35歳になった俺は、会社で徹夜で仕事をしていた時に関東一帯を揺るがす大地震に巻き込まれ、気が付いたらこんな状況となっていた。
◇
「何とか今回工事の図面出図は間に合ったな・・・」
俺は生産部へ出図の連絡メールを作成しながら、独り言をつぶやいた。
深夜に一人で仕事をしていると独り言が増えてしまう。
大学を卒業した後、東京に本社を置く産業機械メーカのサラリーマンとなった。
職種は機械設計者と説明すれば、合コンでの聞こえも良いが有体に言えばサラリーマン。
営業とお客様の忠実な奴隷として、仕様書という名の要望にマッチするように既設製品をカスタマイズした図面を生産部に文句を言われながら出図する。
正確に出来て当然、出来ていなければ設計が悪いと、昇進に響き・同期と比較して 倍以上の仕事をしているつもりであるが、昇給は周回遅れとなっていた。
正直生きるのも辛くなってきていたサラリーマン生活。
産業機械の機械設計者と社畜のダブルネームもいたに付いてきたあの日。
その夜、会社で始発まで一眠りした後、一旦帰宅してシャワーを浴びた後会社に出社するつもりだった。
しかし、その夜 関東全域で発生した大地震でビルの倒壊に巻き込まれた。
緊急地震速報が鳴り響き、上下に突き上げられるような大きな揺れと共に屋根が落ちてきた。
避難訓練で地震が発生したら机の下に潜り込めと言われるが、実際は潜り込んでいる余裕なんてないな・・・
眼前に迫った、屋根と床を目の当たりにしながら俺の社畜人生は一瞬にして終った。
そして、気が付いたら、懐かしき故郷の島を我が懐かしの母校に向けて歩いていたという訳だ。
◇
「うだるように暑い・・・」
俺は、学校へ向かう最後の登り坂を登りながらそうつぶやいた。
今日は、俺が中学2年生となった7月の中日で海の日だ。
島では、海開きとなる祝日の海の日に合わせて島唯一の砂浜である外浜海岸の清掃活動を小中学校合同で実施する決まりとなっている。
夏も真っ盛りとなり、学校へ向かう坂道を登るのはとても億劫だった。
しかも、我が家は清掃場所の外浜海岸を一旦通り過ぎて学校へ向かわないと行けない場所にある。
なぜ現地集合でなく学校集合なのか・・・
毎夏、不思議に思っていた懐かしの課外活動だった。
「状況はわかったけど、チュートリアルを女子小学生にさせるとかどうなのよ?」
俺は深夜の倒壊した会社に床と屋根にサンドイッチされ、突如中学2年の身体と夏の島へ精神だけトリップさせられた。
しかも、すでにこの夏は5週目だ。
4回共ともスタートは同じこの中学2年の海の日、学校へ向か道からのスタートだった。
学校への坂道で前を歩くのは通学路沿いに住んでいる近所の女子小学生。
たしか、島でただ一組の姉妹の妹さんだっけか・・・・
腰近くまで伸びた綺麗な黒髪と真っ赤なランドセルを背負い、グイグイと風を切って俺の前を坂道を登って行っている。
俺が社会人のままだったら間違いなく駐在さんがやって来て不審者扱いされてるな。
何の気無しに一人ごっちていると、
「お兄ちゃんが何度も繰り返して失敗すので、仕方なく口を挟むことにしました。」
そう前を歩く小学生から声を掛けられた。
そうして、俺は現状置かれている状況を説明されているのだ。
彼女の姉が死んだ直後の俺の意識を未来からこの時代に無意識に呼び寄せたこと。
呼ばれたこの世界が俺が生きていた世界と同一ではなく平行世界にあること。
彼女の望みを叶えないと永遠にこの夏を繰り返すことになること。
そして、彼女の姉の望みを叶えることが出来ず、すでに俺が4回の繰り返しを行っていることを聞かされた。
「お兄ちゃんが何度も失敗するので、仕方なく声を掛けることにしました。」
彼女は不貞腐れながらも、もう一度そう言って状況を足早に説明してくれた。
島内唯一の中学校は、小学校・中学校合同の小中学校で全校生徒は6人。
まさに限界集落だった。
全校生徒の人数が少ないこともあり、俺をこの世界に呼び出した女の子が誰であるかすぐにわかった。
俺は、あの地震から数えて、5回目の夏を海の日の祝日と共に迎えていた。
「お兄さん失敗しすぎです。
姉バレ覚悟で、状況説明と補助が必要だと判断し今回の周回から私がサポートとして付くことにしました。」
彼女の姉が満足する未来にたどり着くまで俺は同じ夏を繰り返すことになるらしい。
ゴールの形が見えてくれば、正解に容易に辿りつける気もしてくる。
折角、中学から人生をやり直せるのだ。
ブラックな社会で学んで知識と経験を生かして、俺のくそみたいに灰色だった青春にリベンジをかけてやるぜ!!
続く
青春リベンジ 社畜が灰色の青春ライフを繰り返す 堕落した猫 @kippaa
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