第39話 操の縦
「それでは三組目の方こちらにお越しください。」
待ち時間の間に読んでいた源三のマニュアルを鞄にしまう。
手荷物をロッカーに預け、試験官についていく。
茶色ががった光沢のある昆虫型メカ。足は四本で頂部に六枚の羽がある楕円形の機体。
外見は二人乗りメカ『ニ・モ』に瓜二つ。
それが横一列に十一体並んでいる。
平太郎は試験官の指示に従い昆虫型メカに乗り込む。
真っ暗な機内をモニター画面が照らす。
操縦席に座りシートベルトを締めていると無線が入った。
「これより十五分後より試験を開始します。それまでの間、皆さんは慣らす為にも敷地内であれば好きに操縦して頂いて構いません。」
試験官からの無線が切れると右隣のメカは勢い良く空に飛びあがった。
平太郎も試しにエンジンを掛けてみる。
「おお。」
エンジン音と共に機体が少し揺れだし、メカが起動したことを実感する。
サイドに付いているレバーをゆっくりと倒すと、機体はそのまま徐々に浮いていき離陸する。
上部に付いている羽の音が天井を伝ってどんどん大きくなる。
メカを二メートルだけ浮かしたら目の前にあるレバーを使って前方に移動させる。
低空飛行ではあるがこの浮遊感は他では味わえられない。
摩擦や傾斜といった制限に囚われない飛行型メカは好きなように加速させられ、また好きなところを飛び回ることが出来た。
地面に沿って滑らかに飛んでいると機内に無線が入った。
「時間ですので、皆さん元の位置に戻ってください。」
画面の斜め下にある後方カメラの映像を見るとほとんどの人が元の場所に戻っていた。
急いで旋回して列の中に入る。
最後の一人が列に戻ると試験は開始した。
「それでは一番の方から順番に試験官についてきてください。」
そういえば機内の足元に番号が振られていたのだった。この機体の番号は『8』。
脚に赤い布を巻いたメカが試験官が乗っているメカ。
それを追いかけて一体ずつ飛んでゆく。
隣のメカが飛んだので平太郎もそれに続く。
十一体のメカが空中で一列になって飛んでいる様子を、地面から五人の試験官が目を凝らして見ている。
それを意識するとレバーを持つ手に緊張が走る。
前の機体の後部を追いかけ上昇と降下を繰り返す。
これは先頭の試験官機の動きを真似してどの位操作ができるかという試験。
下からはメカの列が波を打つようにうねる動きを見ることができるであろう。
次は左右に揺れる動きを試験する様子。
高度は一定のまま左に飛行し、少しして右に舵を切る。元居た位置を大きく通り過ぎる程右に機体を移動させ、最後は左の元の位置に戻る。
それが四、五回繰り返し行われた。
後ろはどうなのか知らないが前方の七体の受験者のメカに脱落者はいない。
「これより少し複雑な動きをします。列から出てしまった人は安全のため列に戻らないようにして下さい。」
試験官からどこか緊張感を煽る無線が入った。
するとモニターの下部分に文字が表示された。
【列から外れたからといって問答無用で失格ということにはなりませんので安心して下さい】
多分。ここまで警告するということは、過去の試験で無理にでも戻ろうとした者がいるのだろう。
片方ずつ手汗を拭いてその試験に挑む。
遠くに見える試験官機が動きを見せた。
その動きが伝播するように徐々に後ろに伝わる。
二つ前の機体を見てどのようにメカを操作するか理解した。
時計回りに機体を動かす。
一見。複雑には思えない動きだが操縦席からは違った。
高度を操作するサイドのレバー。左右移動に特化した目の前のレバー。
縦方向に円周上の動きをするには、その両方を扱わなければならないのである。
両手でそれぞれ違う動きをする。頭でわかっていても体がそれに素直に応じるかは分からない。
そんな中。平太郎の前の機体が右回りに動き出した。
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