第6話 点の検

「今日は混んでいるな。」


 百人以上を乗せる大きなエレベーターの前には行列が出来ていた。


 エレベーターの扉が開き、止まっていた人々の足が動きだす。


「地下ってどんなところなんだろう。」


 平太郎は未知の世界に心を躍らせていた。


 源三と二人でエレベーターに乗る。かごの中は結構広く、人と人との感覚にゆとりがある。


「下へ参ります。」


 アナウンスが鳴ると同時に、浮遊感を感じた。


 【降下中】いうテロップがエレベーター内のモニターに表示される。


 しばらくして、その文字が消えると「到着しました」とアナウンスが流れた。


 身長の二倍もある大きな扉が重々しく開く。


「迷子になんなよ。」


 源三にそう言われる。


 扉の向こうは薄暗く、ぽつぽつと灯りがあるのが見えた。


 

 平太郎は降りて天井を見上げる。地面からは金属の柱が等間隔で天井まで伸びている。ひらけた。という意味では、とても大きなドームスタジアムを真っ暗したという感じ。


 あちらこちらにパイプが張り巡らされていて、天井の見たこともない大きな換気扇がある。その隙間から太陽の光が微かに差す。


 

 工業的な場所かと思えば、それは少し違った。


 エレベーターの出口から直線上に延びた道の両側には、ネオンっぽい看板のお店が至る所にある。


 工場の街は、レトロな雰囲気も持ち合わせていた。


 そんな地下街を二人は、ひたすら歩く。


 繫華街を越えたあたりで歩みを止める。ここら辺はカラフルな看板もなく、無機質でシンプルな建物が多い。


 二人の目の前には、天井にも届きそうなほど大きな倉庫型の建物。


「入ろう。」


 源三が金属の引き戸を力強く開ける。


 室内は結構明るい。



「どーもー。点検頼んだ者なんですが。」


 源三がそう挨拶すると、奥の方から四、五十代男性がやってきた。


「こんにちは。って源三さんじゃないですか!」


 どうやら彼は源三のこと知っている様子。


「お、おう。」


 途端に目を逸らす源三。


「全く。出撃後は毎回点検するように言っているのに。」


 男性の口調が強くなった。


「...。」


「そもそも点検は義務付けられているのであって。」


「...ちょっと。孫の前だから勘弁してくれよ~。」


 しょうがないと肩を落した男性は説教を止めて、平太郎を見た。


「この子がお孫さん?」


「そうですけど...。」


 不思議そうに答える。


「いやね、どっかで見たことある顔なんですよ。」


 すると男性の後ろから軽快な足音が聞えた。


「お父さんもしかして。」


 平太郎と同年代の女子がタブレットを持って男性に近づく。


「ああ!新聞の!」


 その女の子が平太郎の前まで来て。


「ねね。こっちきて。」


 と手招きする。


 どうしたらいいのか分からない平太郎は源三の顔を見る。


「いっておいで。」


 と言われたので女の子についていく。



「私。菊田きくた加奈かな。よろしく。」


「よろしく。」


 平太郎返事をすると、突然。加奈が振り向く。


「って今のとこは自己紹介する流れじゃないの?!」


「ああ...。俺は八島やしま平太郎。」


 戸惑いながら名を名乗る。

 

 前を歩く彼女に平太郎は疑問を投げかける。


「あのさ。」


「ん?」


「どうして俺に話しかけたの?」


 加奈は歩くスピードを少し落とす。


「あー。それは、平太郎がメカに興味あるのかなーって思って。」


「どうしてそう思ったの?」


「メカに無関心な人はこんなとこ来ないから。」


「たしかに。」


 またまた彼女が振り返る。


「それで。どうなの?メカ、好きなの?」


「どうだろう。」


 彼女の顔がムッとした。


「もー。好きか嫌いかのどっちかで答えて。」


 どうやら、冗談であって怒っているわけではないようだ。


「どっちかというと...」


「いうとー?」


「好きかな。」


「やったー!」


 なんだか喜んでいる。


「なんで喜んでるのさ。」


 理由を訪ねるべく思ったままを聞いた。


「それは私がメカを好きだからに決まってるじゃない!」 


 それに対する彼女の答えは非常にシンプル。


 気付く頃には、彼女の後ろにずらりと色んなメカが並んでいた。

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