第7話 紹の介

 メカが綺麗に並んだその前で菊田加奈は語りかける。


「平太郎はさ。どんなメカが好きなの?」


 正直言ってどんな機体があるのかを平太郎は知らない。


「加奈はどんなのが好きなの?」


 一旦話を逸らす。


 知り合ったばかりの人の名前を呼ぶのは少し、こそばゆい。


「質問に質問を返すかぁ。まあ私は有脊椎型...動物の形のメカかな。」


「へえ。」


「それで平太郎は?」


 話題がすぐに戻った。


「えっと...『ネオ・ジャージー』かな。」


 平太郎は真夜中の出来事を思い出す。彼が海岸で目を輝かせたあのメカを。


「いいよねー。『ネオ・ジャージー』人型だもんね。」


 加奈も知っているようだ。


「でもごめん。俺、最近興味持ち始めたから他のは知らないや。」


 がっかりさせてしまいそうだが、素直に言った方がいい気がして打ち明ける。


「なんだ。」 


 加奈は並んでいるメカの左端まで歩いた。


「じゃあ私が教えてあげる!」


 立ち止まると、にこやかな顔で平太郎を見た。


「うん、教えて。」


 平太郎はホッとした。


 彼女は巨大でしなやかな羽根を持つ昆虫型のメカの前に立つ。


「これが無脊椎型。外骨格を有する怪獣を加工して造ったの。」


「俺が乗ったのはこれだ。」


 二人乗りメカ『ニ・モ』を思い返す。


「え?!」


 加奈は驚いたような声をあげる。


「どうしたの?」


 突然、話が止まったので不思議に思う。


「平太郎って搭乗したことあんの?!」


「うん。」


 彼女は信じられない顔をしていた。


「平太郎って今何歳?」


「十五歳。」


「だよね。そんな歳でメカに乗る人なんて初めて聞いたよ。」


「そうなんだ。」


 きっと、源三の会社は人手不足なのだろう。


「それでどうなの?メカの乗り心地は。」


「結構揺れるかな。」


「なるほど。なるほど。」


 加奈は頷く動作をみせる。


 その後も数回、質問が続いた。



「怪獣はやっぱ怖いよ。」


 平太郎も本題を忘れて答えている。


「あっ。ごめん。つい熱くなっちゃった。」


 加奈の方が先に話しがそれていることに気付いた。


「そういえば何の話してたんだっけ?」


「私がメカのこと教えるって話だよ!」


 頬を赤らめた彼女は、一度咳払いをしてから話題を戻す。


「それでね。無脊椎型メカは、怪獣の外骨格はそのままに内側だけくりぬいて使うから結構安価なの。多分、どの企業も持ってる。」


「メカって怪獣から造るのか。」


「そうよ。言ってなかったっけ?」


 加奈は少し歩く。虎やジャガーのようなネコ科の見た目をしたメカの足元で立ち止まる。


 角張った見た目は美しい曲線ある無脊椎型メカとは対照的。


「これが有脊椎型メカ!どう?かっこいいでしょ?」


「うん。」


 首を縦に振る。


「無脊椎型の虫と比べると近接攻撃を得意とするの。虫に大きな爪や牙はないでしょ?」


「たしかに。」


 『ニ・モ』の攻撃手段が射撃だけだったことを頭に浮かべると説得力が増す。


「このメカの元になった怪獣は外骨格はないから、その骨組みを利用して金属の装甲を皮膚のようにして組み立てるの。」


「こいつは遠くの目標に攻撃する手段はないの?」


「ええあるわ。小型ミサイルや弾丸も発射できるのよ。」


 誇らしげに腕を組んでいる。


 ここまで言われると無脊椎型の上位互換のように思える。


「でも、有脊椎型はそれなりの技術と費用がかかるからあまり見ることがないのよね。」


 彼女は残念そうな顔をした。


 するとまた歩きだす。


「そして、そして。大目玉がこれ。」


 縦長の角張った金属の塊が二つ並んでいるところで止まる。


 黒い見た目のそれには、僅かに色の違う無数の線が入り乱れていた。


「人型メカだー!」


 彼女がそう声を上げたことでこれがメカの足だと理解した。


「もっと近づいてごらん。滅多に見れないよ。」


 近づくと徐々に全貌が見えてくる。そこには恐怖すら感じる巨大な人型の金属が横たわっていた。


 さっきまで見ていた二つ金属の塊はメカの足の裏だったようだ。


 思わず息を吞む。


「すっげー。」


「人型メカは怪獣の死骸を使わない人類の叡智の塊なのだよ!!」


 と加奈は豪語した。


 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る