第5話 取の材
「怪我はないかい?」
コックピットから降りてきた三人。真ん中に白人男性、右側には長髪の黒人男性、反対側に赤髪の女性というように立っている。
そのうちの真ん中の男性が平太郎にそう訊ねた。
「はい。」
ガードレールを境に、そう答えた彼の周りを報道陣が囲っていた。
「こっちに顔を!」
「一言いいですか?」
人が殺到して、フラッシュの集中砲火を浴びせる。
ガードレールを押し倒す勢いの報道陣に、平太郎も押しつぶされそうになっていた。
それに困惑するパイロット三人。
白人男性が平太郎と会話をしようとするが、その声は人混みによってかき消されてしまう。
その様子を隣で覗いていた黒人男性が「もう帰るぞ。」と耳打ちをした。
しょうがないと肩を上げた二人は人型メカに戻っていく。
「気を付けるんだぞ。」
と平太郎に言い残し、長髪の男性も二人を追いかけた。
三人が乗るとメカは目を発光させる。それを見た報道陣はより強くフラッシュをたく。
気にする気配もない人型メカは、海岸の真ん中まで歩いて停止。
少しすると、地面が動きメカは地下にエレベーターの要領で徐々に下がっていった。
被写体を失った報道陣のカメラは平太郎に集まる。
嫌な予感。
一度シャッターが切られる。すると他のカメラも一斉に鳴りだす。
その後は質問攻めになった。
「『ネオ・ジャージー』とはどの様なご関係で?」
「『ネオ・ジャージー』の乗組員のご家族とか?」
何となくであるが、『ネオ・ジャージー』とはあの二足歩行メカのことだろう。
必死に平太郎が彼らとは無関係であると伝えると、記者達は蜘蛛の子を散らすように帰っていった。
翌日。
いつもの通りに仏壇のある寝室で寝ていると、珍しく源三が起こしてきた。
「起きて。起きて。」
体を揺らす源三の手には、タブレット端末が見える。
「どうしたの?」
指で目やにをかすめ取り、重い瞼を開く。
「どうもこうも、これ平太郎だろ?」
視線をタブレットに移す。確かに自分だ。
【『ネオ・ジャージー』少年を救出】
「そうだけど。...なにこれ?」
「今朝、新聞みたら載ってたんだよ。心当たりあるか?」
不安そうな目で源三は見てきた。
「昨日の帰りにちょっとね。」
「そのちょっとを教えてほしいんだよ。」
それからお湯が沸くまでの間。平太郎は帰りの出来事を話した。
ポットの湯が沸くと源三が立ち上がりインスタントみそ汁を作る。
「そうか、そうか。珍しいもんが見れてよかったな。」
笑顔でそう言い、両手に持ったお椀をちゃぶ台に置く。
「まあね。写真を撮られたのは災難だったけど。」
「いいじゃねえか。世界中に自分の顔見られるんだからよ!」
「それが嫌なんだよ。」
二人で手を合わせる。今日の朝食は白米にみそ汁、コンビニで買った焼き鮭と玉子焼きだ。
「いただきます。」「頂きます。」
食器を片付けると、源三が出掛ける準備していた。
「どこいくの?」
「今日は『ニ・モ』の点検にな。」
それを聞いて昨日の事を思い出す。
すると、何故だか背中を押されたような気がした。
「あのさぁ。俺も行きたい。」
源三は目を輝かせた。
「行こう!」
二人でまた、車に乗る。今日は逆方向に進んだ。
狭間島の中心地は、殺風景の海岸とは対照的にとても栄えている。それを象徴するように世界最大級の高層ビルが三本も立ち並ぶ。
周辺の建造物も近代的であり、ガラスとコンクリートを中心とした幾何学的な建物で構成されている。
そんな街並みの中で一際目立つお洒落な巨大施設があった。
二人を乗せた車はその建物に隣接する立体駐車場に向かった。
「よし降りよう。」
エンジンを切った源三がそう言う。
シートベルトを外して車から降りると、エレベーターとエスカレーターを経由して大型施設の一階に赴いた。
「ここは?」
平太郎が訊ねる。
「ここは地下と地上を繋ぐ...まあ駅みたいなとこだな。」
「へえ。なんで地下に?」
続けて質問する。
「メカ関係は大体。地下ってのが相場なんだ。」
モダンな雰囲気のロビーに特大エレベーターが到着した音が鳴った。
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