第4話 人の型

「私。山枝やまえだ友子ともこ。よろしくねー!」


 平太郎歓迎会を誰よりも楽しんでいる女性は、そう名乗った。


「よろしくお願いします。山枝さん。」


「友子でいいよー。」


 それに苦笑いで返事。


 完全にお酒が入っている。


 友子が画面で注文をしている隙に、社長と一対一で話している源三のところへ移動した。


「どうした?」


 距離が近くなったことに気づいた源三は真っ赤な顔で訊ねた。


「そろそろ帰りたいんだけど。」


 ここ一年引きこもっていた平太郎は外出するだけでも一苦労。


 それに加えてメカの操縦、飲み会の付き添い。もう疲労困憊の域を超えている。


「ああ、いいぞ。気を付けて帰れな。」


 源三はそんな様子を顔から察したのか、すぐに了承してくれた。


「わかった。気をつけるよ。」


 

 居酒屋の自動ドアが開き、熱帯夜に足を踏み入れる。


「もうちょっとクーラー浴びていればよかったかなぁ。」


 店の近くに並んでいる建物は明かりを消していて、昼間にはない物静かさが何だか新鮮だ。


 真夏の夜空を見上げながら昼間のことを思い出す。


 未だに自分が体験したとは思えない。脳裏に浮かべるだけで高揚感が溢れ出る。


「寄り道...しようかな。」


 日中、闘いを繰り広げた海岸に足を進めた。



 ガードレールを跨いで超える。一面コンクリートの海岸には数個のテントが張ってあった。


「ここなんだな。」


 海に沿ってまばらな間隔で設置された外灯の光が、優しく反射する真夜中の海。

 

 それを眺めながら、明かりの裾に座りこんだ。


「なんだか凄い一日だったなぁ。」


 波の音が心地よく思わずうっとりしてしまう。


 

 数十分経っただろうか、平太郎は僅かな違和感を感じた。


 無風であるにもかかわらず、波の音が徐々に大きくなっている気がするのだ。


「ん?」


 気になって、海面を覗き込む。


 その時。海に映る一列の外灯の光が大きく湾曲したのをみた。


 歪みはどんどん大きくなり、海面が背の高さを超えて巨大な海水の山を作る。


「!!」


 膝下を冷たい海水が勢い良く流れて、違和感が恐怖になった。



 目の前に出来た大きな海水の山。


 その水のベールはみるみる剝がれる。内側から鋭い牙をもった、船だって飲み込めそうな特大サイズの大顎が露わになった。


「うっ...!」


 海岸一面に広がる波に押され、尻餅をつく。


 巨大な顔面が接近してくる。


 


 自分の死すら覚悟したその時。


「ヘイ!ベイビー!そんなとこにいるとケガするぜ!!」


 背後から眩い光と、スピーカーから発せられたような声が聞こえた。


 グッと閉じていた瞼を開けると、目の前に小さな手の『巨大ワニ型怪獣』。

 

 後ろには二足歩行メカ。人型で青く、身体中に牛を彷彿させるデザインが施されていた。


「なんで人がいるんだよ!立ち入り禁止じゃねえのかよ!」


 さっきとは別の男性の声が人型メカから聞えた。


 起動音を鳴らした巨大メカは、両腕でがっしりワニを掴み抑え込む。


「まあいいさ。それより、ここは危険だ!海から離れるんだ!」


 言われるがまま平太郎は海岸の向こうの道まで走る。


 いなくなったことを確認すると人型メカは、取っ組み合い状態だった怪獣との肉弾戦が始まった。



 夜空に火花を散らすブルーの拳は、平太郎の瞳に輝いて映った。


「すっげー!あんなメカもいるんだ。」


 動物型のメカは知っていたが人型は生まれて初めて見る。



「そろそろきめるぞ!」


 蒼の巨体は背中に付属いている二本の細長い棒のうち、一本を引き抜き構えた。


 腰から排気ガスを噴出し、目にも止まらぬ速さで一突き。


 二足歩行の『ワニ型怪獣』は体液を流しながら動きが止まる。


 メカは、怪獣の背中まで突き抜けた棒状の物を引き抜く。


 怪獣は傷口から火花を上げながらその場に倒れた。


「任務完了!」


 人型メカはくるりとこっちを向き、平太郎の目の前まで来て停止する。


 コックピットから三人降りてきた。


「怪我はないかい?」


 真ん中に立つ男性がそう訊ねる。

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