第30話
「こんにちは♪ 3人でなにしてるの?」
麻里が言ったなにかを探して辺りをきょろきょろしていると、突然知らない人に声を掛けられた。
3人とも大学生くらい? いきなりなんだろう?
「えっと? お買い物、ですけど」
「そうなんだ。じゃあ時間あるよね? 道教えてほしいなって思ってさ」
「あぁ道ですか。大丈夫ですよ。どこですか?」
「えっ、ちょっと朱莉」
道を聞きたいと言われたので対応しようとすると、深月に腕を引っぱられて呼ばれてしまう。
深月が話を遮ってくるなんてめずらしい。でも、今はちょっとだけ待ってもらえるとありがたいんだけど。ダメかなぁ。
「深月どうしたの? なにかあった?」
「いや、なにかって⋯⋯」
「みっきーみっきーいいから。ちょっと待って」
「なんで、全然よくないんだけど」
わたし達がコソコソ話している間、お兄さん達はもちろん放置されている。
えっ、大丈夫? さすがにちょっと失礼じゃない?
「3人とも可愛いってやばくね? ショートの子まじタイプだわ」
「俺ロングの子がいいなぁ。めちゃくちゃ美人」
「そうか? キツそうじゃん。俺は断然、にこにこしてるポニーテールの子がいいね」
ポニーテールってわたしだよね? わたしが対応した方がいいってこと?
ふたりは、なんか話してるしいいか。
深月と麻里を見るとふたりはまだ話してるようなので、わたしは待ってくれているお兄さん達に話しかけることにした。
「あの、お待たせしちゃってごめんなさい。どこ行きたいんですか?」
「あっ、朱莉! ちょっと麻里ちゃん手離してよ!」
「まぁまぁ、大丈夫だから」
またなんか揉めてるし。なんでこのふたりはすぐ揉めるかなぁ。まぁ深刻そうでもないし、とりあえず後回しでいいよね。
「おっ! やったね、意外と積極的?」
「積極的? 道ですよね?」
「ん? ⋯⋯あっ、そうそう道ね。ここなんだけどわかる?」
そう言って見せられた携帯には、商業施設の目の前にあるカラオケのホームページが映し出されている。
良かった、これならわたしでも案内できそうだ。
「ここならあっちの扉から出て、エスカレーター降りたらすぐですよ。車道挟んですぐ向かいなんで、行けばわかると思います」
「そうなんだ。ありがとう。良かったら一緒に行かない?」
「えっ? なんでですか?」
「なんでって、あれ? いや、道教えてくれたお礼に奢るから、一緒に行かないかなと思って? みたいなやつ?」
「そんな、大丈夫ですよ。道教えたくらいで悪いです」
「いやいや、そういうことじゃなくて⋯⋯。これはただのきっかけ作りというか⋯⋯」
「⋯⋯? よくわかんないですけど、わたし達これからお買い物行くんで遠慮しておきますね」
「あっ、じゃあ俺らその買い物に付き合うよ!」
「えっ? 買いに行くの水着ですよ?」
「あー⋯⋯ね。期待させといてそんな断り方ありかよ⋯⋯」
えっ、なに? なんか落ち込んじゃったみたいだけど、急にどうしたんだろ。
でも、知らない人に買い物付き合ってもらうなんて悪いし。どうしよ⋯⋯。
「みっきー、おわかりいただけましたでしょうか。こちらの機種は、迎撃機能が標準搭載されているタイプになっておりまして、このようにほっておいても勝手に蹴散らしてくれる仕様となっております」
えっ、麻里? なにいきなり言いだしたの?
「そういうことね⋯⋯。まさか鈍感力に感謝する日が来るとは思わなかった」
なぜか深月に通じてるし⋯⋯。なんだかんだこのふたり、仲良いよね。
「そういうこと。こうやって、過去何人が蹴散らされるとこを見たことか」
「うわぁ⋯⋯。えっ、ちょっと待って。私この機能と戦わなきゃいけないの?」
「まぁそうなるよねー。 じゃあ、そんなわけで。お兄さん達はお疲れ様でしたー。また機会があったら声かけてね。たぶん誰も落とせないと思うけど。バイバイ」
ふたりでよくわからない会話を繰り広げていたと思うと、突然麻里が歩き出す。
「えっ? 麻里、ちょっと待ってよ」
「待たないよ? もう道教えたしいいでしょ。早く水着見に行こうよ」
「もー、自由だなぁ。じゃあ、わたし達もう行きますね。さようなら」
3人で水着売り場に向かうなか、ふと隣を見るとなぜかすっかり意気消沈している深月がいる。
「深月? 元気ないけど、どうしたの? 麻里にいじめられた?」
「まーたあたしのせいにするー」
「だって、さっきまたなんか揉めてたでしょ。深月大丈夫?」
「大丈夫⋯⋯。感謝と驚愕と、絶望と鼓舞する気持ちとか、色々な感情が複雑に絡み合ってて⋯⋯」
「⋯⋯? なんかよくわかんないけど、それ大丈夫じゃないよね? 相談乗ろうか?」
「相談。その手があった⋯⋯。いや、でも⋯⋯」
えっなに。なんかめちゃくちゃ真剣な顔で見てくるんだけど、そんな深刻な内容? ちょっとふたりから目を離した隙に、一体なにがあったの。
「麻里ちゃん。相談ってパターンはどう思う?」
「んー、痛し痒しってとこかな。うまくすれば意識させられるかもしれないけど、予想外な方向に勘違いしそうでもあるよね。むしろそっちの方が可能性は高いと思う」
「やっぱりそうだよね⋯⋯」
「変に小細工するくらいなら、ストレートにいった方がいいんじゃない? 基本的にカウンター覚悟だけど」
「わかった、そうする。ありがとう」
えっ? あれ?
わたしに相談は? なんか麻里と話して解決した?
⋯⋯なんかこのふたり、急に仲良いじゃん。
「はいはい、そういうことで水着選びますよー」
なんとなく釈然としないままもんもんとしているうちに、いつの間にか水着売り場に到着していた。
色とりどりの水着を前にして、なぜかわたしの気持ちは一向にふくらまない。
別にいいんだけどさ。なんとなく腑に落ちないっていうの? ⋯⋯あっ、この水着、深月に似合いそう。
「朱莉、元気ないけど大丈夫? 水着気に入るのない?」
ぼーっと水着を眺めていると、深月が心配そうに寄ってくる。
「そんなことないよ。なんとなく、さっきのが気になってるだけ」
「さっきの? まさか、あの声掛けてきた人達? もしかして、朱莉あぁいう人が⋯⋯?」
「⋯⋯? 違うよ、さっきの相談。麻里が乗ってたから。わたし、深月の力になれないなぁって。内容もよくわかんなかったし」
「そっちか⋯⋯。良かった」
「えっ? 良かったの?」
「あっ、違くて。えっと、あれはそういうんじゃないから」
そういうって、どういうのだろう。やっぱりよくわかんないなぁ⋯⋯。
「朱莉が私の力になれないなんて、そんなことあるわけないから。むしろ朱莉がいてくれるから頑張れるくらいだし」
「そーかなぁ⋯⋯」
わたしなんて相談乗れないし。なんか、麻里と急に仲良いし⋯⋯。
「そうなの。ねぇ、朱莉?」
「なに?」
「水着、選ぶの一緒に考えてくれない? 私ひとりじゃよくわからなくて。朱莉に選んでほしいな」
「えっ? わたしが深月の水着選んでいいの?」
「うん、朱莉の好きなの選んで。お願いしてもいいかな?」
「もちろんいいよ! さっき見たこれとか深月に似合うんじゃないかなと思ってたんだよね」
深月が頼ってくれたことが嬉しくて、しぼんでいた気持ちがふくらんでいく。
我ながら現金だなぁと思うけど、落ち込んでても仕方ないしね。そんなことより深月に似合う水着、絶対に見つけるんだから。
やっぱり、可愛い系より綺麗系がいいかな?
そうして、わたしは目の前に広がる色とりどりの水着にわくわくした気持ちで挑んでいった。
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