第29話


「だーかーら ー! 女子高生には女子高生の着るべき水着があるんだってば!」

「ちょっと麻里!? こんなところでいきなり叫ばないでくれるかな!?」


 わたし達は今、麻里が言い出したプールに向けて水着を見に行こうということになり、放課後3人で大きめの商業施設に来ていた。そして、なぜか施設にある広場で麻里が叫んでいる。


「だって朱莉、全然乗り気じゃないじゃん」

「わたしだってプールは楽しみだよ? ただ、そのためにわざわざ水着を新しく買うことあるのかなーって思っただけで」

「わかってないなー。うちら、もう高校生なんですよ? 去年の水着って中学生の水着ですよ? そんなんダメに決まってるでしょ」

「えー⋯⋯、そうなのぉ?」

「そうなの! ね、みっきーならわかるよね?」

「えっ?」

 突然話をふられた深月が、目を丸くして驚いている。

 

 っていうか、


「みっきー? なにそれ、深月のことだよね?」

「そうそう。長谷川さんって、呼ぶの長いしよそよそしいからさ」

「深月じゃだめなの?」

「いやー、そう呼ぶのって朱莉だけじゃん? 名前の呼び捨てはやっぱり嫁特権かなって」

「ちょっ、ちょっと渡辺さん!?」

 なぜか深月が隣で慌てている。

 あだ名呼び嫌なのかな? 麻里はいつも突然言い出すからなぁ。深月が嫌ならやめさせないと。


「はい、それ。私のことも渡辺さんじゃないと嬉しいんだけどなぁ?」

「えぇ⋯⋯、急に?」

「こういうのは勢いだから」

「ちょっと麻里、無理強いしないでよ」

「苗字呼びをやめてほしいなんてささやかな願い、別に無理強いじゃなくない?」

「じゃあ、麻里⋯⋯ちゃん」

「ふむ、まぁいいでしょう。じゃあそういうことで!」

「もー、麻里ってば強引だなぁ」

 まぁたしかに、いつまでもふたりが苗字呼びしてるのはわたしとしても寂しいからいいけど。やっぱり友達が仲良くなるのは嬉しいしね。


「でっ! 水着だよ!」

「もう、わかったから。おっきい声で水着水着言わないでよ」

「そもそも朱莉、去年の水着なんて着るの無理じゃない?」

「えっ? なんで?」

「いやだってさ? 胸入るの?」

 麻里がわたしの胸を触りながら、現実を突きつけてきた。去年の夏と比べると、明らかに成長してしまったその部分に目を向ける。


「⋯⋯たしかに」

「ちょっと! 朱莉にさわらないでよ!」

「あぁ、ごめんごめん。みっきーもさわりたかったよね?」

「ちっ、ちがっ! そういうことじゃない!」

 麻里がニヤニヤしながら深月をからかってる⋯⋯っぽいんだけど? どういうこと? 麻里だけさわったから?


「深月もさわりたいの?」

「えっ!? あっ。いや、その⋯⋯。さわりたくない、わけじゃないけど⋯⋯」

「⋯⋯? 別にさわってもいいけど」

「ダメでしょ!?」

「うっわ、天然こわっ」

「えっ、なんで!?」

 仲間はずれにされたみたいで嫌だったのかなと思ったんだけど、違うの? むしろこれじゃ、わたしのほうが仲間はずれなんだけど。


「はいはい、朱莉が理解するの待ってたら夏終わっちゃうから水着買いに行こうねー。特設会場はこちらでーす」

「うぅ、また教えてくれないし⋯⋯」

 わたしの疑問を置き去りにして、麻里が水着売り場に向けて歩き出す。

 

「ねぇ、朱莉?」

「ん? なに、深月」

「朱莉はその、胸おっきい人の方が⋯⋯、好きだったり、する?」

 んん? どういう意味だろう。深月も胸のサイズ気にしてるの?

「サイズよりバランスじゃない? 深月スタイルいいし気にすることないと思うけど」

「そっ、そっか。⋯⋯良かった」

 不安そうだった深月が笑顔になったのを見て、わたしも嬉しくなる。

 深月は可愛いしスタイルいいし、そんなこと全然気にしなくていいのに。やっぱり胸のサイズって気になるものなのかな?

 

「大丈夫。深月の彼氏になる人は、こんなスタイルいい彼女もてて幸せだと思うよ?」

「えっ、私の彼氏⋯⋯」

 私が励ますと、なぜか深月の表現がみるみる曇っていく。

 なんで!? わたしなんか変なこと言った!?

 

「みっきー、上げて落とすのが基本攻撃だからね。気をつけて」

「頑張るぅ⋯⋯」

「えっ、なにどうしたの? 深月、具合い悪い?」

「大丈夫。ありがとう朱莉」

 えぇ⋯⋯? 全然大丈夫な表情してないんだけど。

 

「まぁ、たしかに大変だけどさ? みっきーにとっては案外悪いことばかりでもないんだよ?」

「どういうこと? 今のところダメージしかないんだけど」

「んー、説明してもいいんだけどさ。この3人で歩いてれば、そのうちわかると思うよ?」

「麻里ちゃんの言うことって、いつも少しだけ意地悪だよね」

「全部話したらつまんないでしょ?」

「またニヤニヤしてる⋯⋯」

「麻里、あんまり深月からかわないでよ?」

「愛情表現だって。あっ、たぶん来たかな?」

 来た? なにが?

 麻里の視線を追ってみるも、そこには特になにもなくて⋯⋯。


「こんにちはー、今ちょっといい?」

「うわっ! みんなやばいくらい可愛いじゃん!」

「3人でなにしてたのー?」

 

 麻里の言うことがよくわからないまま辺りを見回してると、突然現れた知らない男の人達に話しかけられてしまった。

 



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