第24話 side深月


「やっと終わったー!」


 今日で試験が終わり、帰り道で渡辺さんが叫んでいる。

 朱莉と渡辺さんは試験が終わったことが嬉しくて仕方ないらしく、打ち上げをしようと今3人でカフェに向かっている。

 私としては、朱莉と放課後も毎日一緒にいれたテスト週間のほうが良かったんだけどな⋯⋯。


 そんなことを思いながら、隣を歩く朱莉の薬指を軽く摘んでみる。朱莉はほんのり頬を赤らめ照れたように笑い、私の手を握り返してくれた。

 思わず頬が緩むのが自分でもわかる。 


「おやおやぁ? 相変わらず仲良しですなぁ?」

「麻里、からかわないで」

「えー? からかってないよ。事実じゃん。長谷川さん朱莉のこと好きだよねー?」

「うん、大好き」

「深月も即答しないでくれるかな!?」


 えっ? だって間違いなく好きだし。

 なにかおかしかったかな?


「ふーん? 朱莉、うまく話せたんだ?」

「いや、どうかな。話せはしたけど、結局なにもできなかったと思う」

「まぁ、少しでも納得できたならいいじゃん。あたしとしても泊まらせた甲斐が有るってもんだ」

「やっぱりあれわざとか」

「さすが、あたしのことはちゃんと理解してるね」

「なにがしたかったの? またろくでもないことを考えてるんでしょ」


 なんの話だろ。

 ふたりはたまにこうしてふたりだけの話をする。幼なじみに対してだからか、朱莉の渡辺さんに対する態度も私より気安いように感じる。

 ふたりで過ごした時間の方が、私より長いから仕方ないことなんだろうけど⋯⋯、モヤモヤする。


「深月どうかした?」

「えっ? なにが?」

「なんだか難しい顔してるから」

「そう、かな?」

 朱莉に指摘され、私が頬をむにむにしていると、渡辺さんが「なるほど、やっぱりそこからか⋯⋯」なんて呟いてる。どこだろう?


 そうこうしてるうちに目的のカフェに到着したみたいだ。

 それぞれ好きなドリンクを買って、混み合う店内から、ようやく見つけた小さめの丸い席を確保する。朱莉の左隣に私が座り、渡辺さんは私とは反対側の朱莉の隣に座る。私の正面に渡辺さんがいる形だ。


「いやー、混んでるね。テスト明けでみんな考えること一緒なのかな? あっ、朱莉それ新しいやつ? あたしまだ飲んでない、ひと口ちょーだい」

「いいよ、はい。前のやつよりわたしは好きかな」

 朱莉が差し出したドリンクを、渡辺さんは受け取るでもなくそのまま飲む。そういえば、朱莉も肉まんをそうやって食べてたし、ふたりにとってはそれが当たり前なんだろうな。なぜかモヤモヤした気持ちが加速する。


 会話の主体は朱莉と渡辺さんだ。テストの話から始まり、話題が目まぐるしく変わっていく。空になったドリンクのストローをいじりながら、私はなんとなく携帯で時間を確認する。

 カフェに来て1時間くらいかな?


「深月、疲れた?」

「ううん、大丈夫だよ」

「そう? 疲れたら解散するから言ってね」

「うん、ありがとう」

「相変わらず朱莉は長谷川さんに過保護だなぁ」

「そんなことないけどなぁ。麻里に気使ってないだけじゃない?」

「うわ、そのどや顔ムカつくわぁ。あたしのことも甘やかせし」

「やーだ」

 ふたりが楽しそうにじゃれ合う。

 そんな顔、私にはしないくせに⋯⋯。


「とにかく朱莉ちゃん? そんなことじゃいつまでたっても進展しないですよ?」

「だーかーらー、進展ってなに?」

「んー、朱莉に説明してたら日が暮れそうだからいいや。もう片っぽに、少しスパルダでいきます?」

「なんかよくわかんないけど、失礼なこと言われたことはわかった。なに? 変なことしないでよ?」

「なにそれ、フリ? 期待には応えちゃうよ」

 なんの話だろ。朱莉もよくわかってないみたいだし、私には余計わかんないなぁ。


「あっ、そうだ。ねぇ、朱莉ちょっとこれ見て」

 渡辺さんが携帯を朱莉に見せながら顔を寄せる。

「ん? なになに?」

 朱莉が渡辺さんの携帯を覗き込む。渡辺さんは、携帯を見る朱莉の頬にキスをした。


 ――はっ?


「ちょっと麻里、なに急に」

「んー? ちょっとした刺激?」

「刺激? どういうこと?」

「すぐわかるよ。いや、朱莉はわかんないかも? あっ、ちょっとほっぺ拭かないでよ、失礼だなぁ。もう1回しちゃうぞ?」

 渡辺さんが朱莉に手を伸ばす。

 

「朱莉にさわらないで」

 思わず渡辺さんの手首を掴む。

「えっ? 深月なに怒ってるの?」

「わぁ、思ったよりストレートな反応」

 朱莉に伸ばした手を私に阻まれた渡辺さんは、なぜか嬉しそうだ。私は手を離し、にこにこしている渡辺さんを睨みつける。

 

「いきなり無断でキスするなんて有り得ない」

「長谷川さんは大袈裟だなぁ。口にしたわけじゃないんだからいいじゃん」

「そういう問題じゃない」

「朱莉は気にしてないみたいだよ? ってか、初めてじゃないしね? ね、朱莉」

「あー、まぁ、そうだけど」

「幼なじみだからね。キスくらい、してるよね?」


 渡辺さんは朱莉に話しかけながら、視線だけをこちらに向けてニヤリと笑う。


 なに? 挑発されてる?


「とにかく朱莉に謝って」

「えー? お断りかな。朱莉が嫌がってないし」

「ちょっと待って、嫌がってなくはないからね?」

「嫌よ嫌よも好きのうち?」

「麻里の奇行に慣れただけ」

「えっ⋯⋯、渡辺さんと、慣れるくらいキスしてるの?」

「してるよー」

「してないから!」


 口じゃないから、初めてじゃないから、幼なじみだからいいなんて言われても納得できない。

 ずっと嬉しそうにしてる渡辺さんが何考えてるのかわからないけど、絶対謝ってもらう。

 



―――――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る