第22話


 なに? どういうこと?

 っていうか、わたし聞いてよかったの?

 お母さん殺したって⋯⋯、普通に意味わかんないんだけど。


 あー⋯⋯もう、本当に全然わかんない。なんでそんな全部諦めたみたいな顔してるの⋯⋯?


「深月、ごめん! 全然わかんないから、わたしの言葉で深月のこと傷つけるかもしれない。でも聞くから。だから、嫌だったらごめん!」

 わたしはベッドに正座で座り直し頭を下げる。

 

 もう、開き直った! わかんないものは、いくら考えてもわかんないから聞く!


 いきなり勢いよく謝りだしたわたしに深月がびっくりしているけど、もうそんなことかまってられない。

 こっちだってプチパニックだ!


「お母さん殺したってなに? だからひとり暮らししてるって言われても、なにひとつ結びつかないんだけど。その前に深月のお母さんは亡くなってて、お父さんは生きてるってことであってる? それともご両親いないの? いやいや、だとしたらあんなマンションにひとりで暮らすお金はどこから⋯⋯。はっ、深月!? なんか人に言えないような悪いことしてないでしょうね!?」

 途中から自分の言葉に興奮して、深月が返事をする隙を与えず詰め寄ってしまう。


「あっあの、朱莉、さん? ちょっと落ち着いてくれると嬉しい、です」

「⋯⋯なんでいきなり敬語なの?」

「⋯⋯わかんない、なんとなく」

 お互いの間に気まずい空気が流れる。 

 

「はぁ、ごめんちょっと焦りすぎた」

「あぁうん、大丈夫。あの、悪いことはしてない、です」

「ですよね、ごめんなさい⋯⋯」


 うぐぅ⋯⋯、いきなり失敗したんだけど。まさに自爆クリティカルヒット。

 あー、もぉ! こんなことでめげるかぁ!


「ごめん、仕切り直させて」

「え? あっうん、わかった」

「改めて⋯⋯、どういうこと?」

「えっと、どれのこと?」

「いやもう、どれとかじゃなくて全部なんだけど。とりあえず順番に聞いていい?」

 今のところなにひとつ⋯⋯、悪いことはしていないことしかわかってない。


「えーと、なにから聞けばいいんだろ。お母さんが亡くなってるのは喩え話とかじゃなくて、本当に亡くなってるの?」

「うん、私が殺した」

「あー、もう。そこがいきなりわかんない。深月がお母さんを殺したって、そんなことしたら深月、捕まるじゃん」

「うん、捕まればいいのにね」

「みーづきぃ⋯⋯。そんなんじゃいつまでもわかんないよ。聞かない方がいいの? 話したくない?」

 のらりくらり、なんとなくかわしてるだけなのか、それとも本気で聞かない方がいいのか判断できない。


「⋯⋯ごめん、私もよくわかんない。誰かに話したことないし。話したら朱莉の負担になりそうで怖いけど、私のこと朱莉に知ってほしいって気持ちもある」

「負担かぁ。内容聞いてないからわかんないし絶対にないなんて言えないけど、深月のことなら負担になっても別にいいよ?」

「うん⋯⋯。もしかしたら、自分で勝手に重たく感じてるだけで、本当は大したことない話かもしれなくて、もしそうならこんなこと話すのも申し訳ないなって」

「大したことないなら、それはそれでいいじゃん。申し訳ないなんて思う必要ないよ」

「そっか⋯⋯。そうなの、かも」


 もし大したことない話なら、深月は大袈裟だなぁって笑い話になるだけだ。

 むしろその方がいいに決まってる。


「深月、手かして。両手」

「⋯⋯? はい」

 素直に差し出された深月の手を握る。

 

「話してて辛くなったり話せないって思ったら手離して? そうしたら、それ以上は聞かないから」

「⋯⋯わかった」

 深月が握られた手を見つめながら答える。

 

 本当はわたしが気づいてあげて止めたりできたらいいんだけど、正直自信ない。でも、踏み込むって決めたから、後悔はしたくない。


「えっと、深月がお母さんを殺したってどういうこと? お母さん、どうして亡くなったの?」

「自殺したの。育児ノイローゼだったって」



 全然大したことある話だった。むしろ、大したことしかないんだけど。間違いなく大してる。

 だめだ。後悔はしてないけど、既に動揺はしてるかも。日本語がおかしくなってる。




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