第21話
わたしは自分のベッドに寝転がりながら、クッションを抱きしめラグの上に座る深月の横顔を眺めていた。
深月がまたおかしい。
ぼーっとして話し掛けても上の空。
あれからお母さんはすぐ帰ってきて、わたしは夕飯の手伝いをすることになった。作ってる間に悠莉も帰ってきて、深月は悠莉の受験勉強も見てくれてたらしい。
その後お父さんも帰ってきて、出来上がった夕飯をみんなで食べた。
ちなみにお父さんは深月と麻里がいるのを知らされていなかったらしく、「帰ってきたらいつの間にか娘が増えた」と、よくわからないことを呟いていた。
疲れてるところ騒がしくしてたら悪いなと思ってたけど、なんだか嬉しそうだったし別に気にしなくていいかな。
夕飯の後は順番でお風呂に入って、お風呂上がりにみんなでアイスを食べて、麻里は悠莉と話して言っていたとおり自分の家に帰っていって⋯⋯。
うん、どこもおかしなとこはなかったと思う。
そのはずなんだけど、目の前の深月は様子がおかしい。
「深月」
「うん⋯⋯」
「ご飯、嫌いなものとかなかった?」
「うん⋯⋯」
「1+2は?」
「うん⋯⋯」
うん、答えは3だね。
わたしの部屋に来てから深月はこんな調子だ。
さて、どうしたものか。
話そうにも上の空で、深月にはわたしの声が聞こえていない。
わたしは深月の髪に手を伸ばして、その髪をひと束すくい取る。
「深月」
名前を呼ばれ髪にふれらた深月は、びくりと肩を揺らした。
「ぼーっとしてどうしたの?」
「⋯⋯」
深月はわたしを見つめたまま無言だ。深月の髪がさらさらと指から落ちていく。
「深月?」
「⋯⋯」
依然として無言の深月は、おもむろにクッションを置いて立ち上がったかと思えばベッドにあがってくる。
「どうしたの? もう寝る?」
「寝ない」
ようやく口を開いた深月は、そのままわたしを抱きしめた。
――えっ?
「みっ、深月!? どうしたの急に!?」
リアクションが欲しくて動いたのはわたしだけど、予想外の反応すぎて理解が追いつかない。
慌てるわたしをよそに、深月は無言のままわたしを抱きしめる腕に力を込める。その表情はなにかに堪えるようで、きつく目を閉じた眉間には皺が寄っている。
「⋯⋯深月? 大丈夫?」
深月はずっと黙ったままで、わたしを抱きしめる様子も、いつもの過度なスキンシップとは意味が違うように見えた。
わたしは軽く息を吐き、相変わらず返事をしてくれない深月の背中を軽く撫でる。
「みーづーきー、話してよ」
「⋯⋯うん」
「泊まるのやだった?」
「やじゃない」
「ならいいけど。そうだ、悠莉に勉強教えてくれたんでしょ? あの子ちゃんと勉強してた?」
「うん、朱莉に似てて素直で可愛かった」
「そっか、悠莉の勉強見てくれてありがとうね」
「うん」
悠莉がやたら深月に懐いていたので、関係は悪くないと思ってたけど、実際に深月の口から聞けたことで安堵する。
「じゃあみんなでご飯食べたの疲れた?」
「それは⋯⋯少し疲れた、かも」
深月は少し気まずそうに言った。
「騒がしかったかな? ごめんね?」
「ううん、楽しかったよ。それに、朱莉が謝ることじゃないから。私が慣れてないだけの話」
「慣れてないって?」
「みんなで⋯⋯、家族でご飯食べることに」
「あぁ、そっか。深月ひとり暮らしだもんね」
たしかに、いつもと違うことをしたら疲れちゃうよね。
――これ、踏み込んでいいのかな⋯⋯?
普段ひとり暮らしで家族とご飯食べることがないにしても、深月の様子は変じゃないだろうか?
慣れない食事に疲れたってだけじゃないよね? なんでそんなに辛そうなの? なにか他にも理由あるんじゃないの?
ふと、麻里と話したことを思い出し、自分で自分の背中を押す。
⋯⋯うん!
そうだよ、嫌がったら謝ればいいよね。自分は待ってるだけで、話してくれないなんて思うのは傲慢だ。
「深月、嫌だったら話さなくていいんだけど⋯⋯、なんで深月はひとりきりで暮らしてるの?」
「⋯⋯私がお母さんを殺したから」
深月は、感情のない声で淡々と告げた。
なるほど。そういうことね。理解した。
相変わらず、深月の言うことはまったくわからない!
いや、ちょっと、本当に待ってほしい。
なにそれ。⋯⋯どういうこと?
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