第20話


 時計の針が10時をさす頃、深月からそろそろ駅に着くと連絡があったので迎えに行く。今日は朝からテスト勉強をする予定だった。


「深月! こっち」

 わたしが駅に着くと、むこうもちょうど着いたとこなのか、改札前で辺りを見回していた深月を見つけ声をかける。名前を呼ばれ、わたしが迎えにきてることに気づいた深月が笑顔で寄ってきた。 

  

「朱莉。おはよう」

 そう言いながら、当たり前のように深月はわたしの手を握ってくる。

 うわー⋯⋯。なんかもう、めちゃくちゃ可愛いんだけど。 

 初めて見るわけでもないのに、私服姿の深月にテンションが上がる。今日の深月は、白のキャミにシアーシャツ、デニムでシンプルにまとめていた。

 清潔感がありつつカジュアルでよく似合ってる。

 ついついシャツの透けた先に目が向か⋯⋯。

 

 いやいや!? 変態か、わたしは!?


「おはよう。えっと、遠くなかった?」

 なんとなくぎこちなくなって⋯⋯、なんかない。はず。

 

「大丈夫。迎え来てくれてありがとう」

「うん、じゃあいこっか」 

 駅から家まで、とりとめのない話をしながら深月と並んで歩く。

 そういえば、久しぶりにふたりでいる気がするな。

 

「ねぇ、朱莉。渡辺さんは?」

「麻里はうち知ってるから勝手に来るよ」

「そっか、まだ結構歩く?」

「いや、そこ曲がってすぐ」

「もう着いちゃうんだ」

「なに? 深月も勉強したくないって思うんだ?」

「いや、そういうことじゃ⋯⋯」

 わたしがクスクス笑いながらからかうと、深月は気まずそうに言葉を濁し、軽く繋いでいたわたしの手を強く握った。

 深月でも勉強って嫌なんだなぁ。まぁ、誰だってやりたくないよね。


「着いたよ、ここが我が家です」

 高級マンションに引けを取らない我が家。

 なんてことあるわけない、なんの変哲もない一軒家だ。

「今日家族みんな出かけてていないから、遠慮なく入って」

「うん、おじゃまします」

「お茶とかあとでいい? とりあえず先に部屋案内するね」

 階段を上がり、自分のネームプレートが付いた部屋の扉を開ける。

 部屋に入ると、そこには、ベッドでくつろいでいる麻里がいた。


「ふたりともおかえりー」

「ちょっと、どうやってうち入ったの」

悠莉ゆうりがちょうど帰ってきて入れてくれたー」

「えっ? 悠莉いた?」

「着替えてまた出てったよ」

「部活に顔出すって言ってたけど、早く終わったのかな」

 

「朱莉」

 深月が袖を引っ張りながら、話しかけてくる。

「ん? なに?」

「悠莉ってだれ?」

「あぁ、ごめん。悠莉はわたしの妹だよ」

「あたしらの一個下で、うちの高校受ける予定なんだよー」

「渡辺さん、妹さんとも仲良いんだ?」

「まぁね。子供の頃から知ってるし、我らがバスケ部の後輩でもあるのだ」

 なぜか麻里がドヤ顔で答える。

 

「ねぇ、朱莉? 悠莉、高校でもバスケ部入るって言ってた?」

「えっ? ちゃんと聞いてないけど、たぶん入るんじゃない? 引退したばっかで早速顔出してるくらいだし。っていうか、さっき会ったなら聞けば良かったのに」

「なんか急いでるっぽかったからさー。次会ったら聞いてみるか」

「そうして。さぁ麻里、いつまでも寝転がってないで勉強始めるよ」

「はーい」

 今日の目的は勉強だからね。

 


 ――休憩をほどよく挟みながら、苦手教科を中心に勉強を進めていった。午前中から始めただけあって、だいぶやれたんじゃないだろうか。

 ⋯⋯もう6時か。今日はもういいかな?


「ふぅ、そろそろ終わりにする?」

「さんせー。疲れたー」

 わたしの提案をチャンスとばかりに、麻里がそそくさと筆記用具を片付けていく。

「ふたりとも夕飯は? 食べてく?」

「あたしはどっちでもいいかなー。おばさん何時くらいに帰ってくるの?」

 携帯を確認してみるも、お母さんから連絡はない。

「んー、夕方には帰ってくるって言ってたんだけど⋯⋯。帰るの待ってたら遅くなるし、わたし作るよ」

「あっあの、朱莉? お昼もご馳走になったのに、夕飯もいいの?」

「深月、もしかして遠慮してる? どっちにしても、夕飯作ることに変わりないんだから、少しくらい人数増えても大丈夫だよ」

「そうそう。そのうち悠莉も帰ってくるだろうし、あたしも食べてくよ」

 参考書や筆記用具をすべてしまい終わった麻里から、遠慮しなくていいと声がかかる。

 うんうん、遠慮なんでまったく必要ないからね。

 

「ってか、明日はどうするのー? 明日も今日みたく昼前から勉強するなら、長谷川さん朱莉んちに泊まってけば?」

「えっ?」

「あぁ、たしかに。予定もなくて往復するだけならめんどくさいよね」

「えっ、えっ?」

 わたしと麻里が話を進めていく傍で、深月が会話に着いてこれず、あわあわしている。

 

「深月さえ良ければ、夕飯食べてそのまま泊まっていきなよ」

「⋯⋯いいの?」

「もちろんいいよ」

「なら⋯⋯、泊まってく」

 嬉しそうな様子で深月が頷く。


「じゃあ明日も今日と同じくらいに来るねー」

「えっ? 渡辺さんは泊まっていかないの?」

「あたしは家すぐそこだし、泊まる必要ないからね」

「あっ、そっか⋯⋯」

「朱莉のベッドじゃ、狭くて一緒に寝れないし」

「狭いは余計だから」

 麻里のベッドも似たようなもんだからね!


「まぁまぁ、怒りなさんなって。ふたりで寝る分には大丈夫だからいいじゃん」

「えっ? 一緒のベッドで寝るの?」

「いや、逆に長谷川さんどこで寝るつもりなのよ」

「わかんないけど、床とか?」

「深月、さすがにそれはないから。嫌じゃなければ一緒のベッドで寝ようよ」

「もちろん嫌なんかじゃないよ! ⋯⋯じゃあ、おじゃまします」


 こうして深月のお泊まりが決まる⋯⋯、と同時に明日もみっちり勉強することが決まってしまった。

 ⋯⋯よし! あと1日頑張ろう! そのあとまだテストがあるんだけど、今は気にしたら負けだ!

 とりあえず、ご飯なに作ろうかな?




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