第19話 side麻里


 それぞれコンビニでゲットした肉まんやお菓子なんかを持って、長谷川さんの部屋に戻ってきたあたし達は、もうひと踏ん張りするべく今は休憩中だ。


「はー、肉まんうま。買って正解だったわー」

「人が食べてるとこ見ると食べたくなるんだよね。でも、今そんなに食べたら夕飯食べれなくなりそうだしなぁ」

「ひとくち食べる?」

「えっ、やった。食べる」

 朱莉の前に肉まんを差し出してやれば、朱莉は私の手を掴んで遠慮なく肉まんにかじりつく。

「んー、んまー。ありがとう麻里」

「どういたしまして。長谷川さんも食べる?」

「えっ? あっ、いや大丈夫」

「いらないの? 遠慮しなくてもいいよ?」

「してないよ。ありがとう」

 

 肉まんを見ているので、食べたいのかと思ったけど違うらしい。となると? 気になるのは同じ肉まんを食べたことか、あたしが手ずから食べさせたことか。

 いらないならばと続きを食べはじめると、肉まんを目で追っていた長谷川さんと視線が交わる。軽く首を傾げてみるも、無言でそっぽ向かれてしまった。

 あらまぁ? これって、やっぱりねぇ?

 

「ちょっと、トイレ借りるね」

 朱莉がタイミングよく席を外したので、あたしはにっこり笑顔で長谷川さんをつついてみる。


「ねぇねぇ、長谷川さん? ほんとはあたし抜きで勉強したかった?」

「渡辺さん抜きで? なんで?」

「朱莉とふたりきりになりたかったかなぁって。あたし邪魔じゃない?」

「えっと⋯⋯? よくわからないけど、そんな風に思ってないよ?」

 

 あたしが言ってることが心底理解できない様子で、長谷川さんはキョトンとした顔をしている。

 あれー? あたしの読み違い?


「ただいまー。そろそろ勉強始める?」

 朱莉が戻ってきてしまったので、この話題は強制終了だ。だったら。


「朱莉、土日はどうするの?」

「ん? 勉強するかってこと?」

「そうそう、するなら久しぶりに朱莉の家に行きたいなぁって思って」

「いいよ、うちでする?」

「うん。じゃあ週末は朱莉の部屋で仕上げと行きますかー」

 

 ってなわけでこっちの仕上げも⋯⋯。

「はせが」

「深月はわざわざ来ないでしょ? 放課後はふたりして頼りっぱなしだったからさ。深月、自分の勉強出来てなくない? 来てもらうのも悪いし、週末は麻里とふたりで頑張るよ」

「えっ、そんな⋯⋯」

 

 おぉ、さすがは朱莉。安定に鈍い。

 あたしが長谷川さんにかまをかけようと言いかけたセリフより、朱莉のほうがよっぽど切れ味が鋭いんだけど。

 あーあ、長谷川さんショックでフリーズしてるじゃん。可哀想に。

 そもそもふたりで勉強したいわけじゃないから、長谷川さんが来ないことには話が始まらない。


「いやいや、朱莉ちゃん? いきなり週末だけ仲間はずれはないでしょ。どんな意地悪よそれ」

「えっ!? あっ、いや、そんなつもりなかったんだけど⋯⋯。深月、わたし達にかまってばっかで、自分の勉強出来てないんじゃないかと思って」

 朱莉が焦りながら弁明している。鈍い上に、世話のやける子だ。


「あたしは朱莉と付き合いながいから、さっきのが気遣いなのわかるけどさー? 普通はまず誘うもんでしょ。それに人に教えるのも、自分の復習になっていいって聞くよ?」

「たしかに、それ聞いたことある⋯⋯」

「距離が気になるなら、明日も長谷川さんちお邪魔すればいいしね。久々に行きたかったのは本当だけど、あたしはいつでも朱莉の部屋行けるからさ」

 フリーズしていた長谷川さんが、あたしの言葉に再起動する。

 おー、なかなか不機嫌そう。こういう顔も、ある意味レアだよね。


「そっか⋯⋯。深月ごめんね? 週末どうする? 一緒に勉強してくれるなら、教わるのこっちだし、わたしたちが深月の部屋くるよ?」

「あっ、いや、大丈夫」

「一緒に勉強してくれない?」

「違うよ! 明日は私が朱莉の部屋いくよ」

「本当? ちょっと遠いけど無理してない?」

「してないよ、大丈夫。それに、朱莉の部屋、私も見てみたいし」


 前半は蕩けるような笑顔で朱莉に、後半は睨むような目つきであたしを見ながら長谷川さんが言った。


 それさ、やっぱりやきもちじゃないのかなぁー? もしかして自覚ないとか?

 安定に鈍い朱莉と、自覚なしの長谷川さんの組み合わせじゃ、永遠に進展しないじゃん。朱莉の鈍いはもう直らないとして、ここは長谷川さんに成長してもらいますかね。

 あたしはニンマリ笑顔でふたりを見ながら、本日の課題を終わらすべく古文の参考書を開いた。




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