第18話


 月曜から一週間みっちりと勉強した金曜日。今日も今日とて深月の部屋で勉強中だ。深月は、わたしと麻里がわからないところがあれば丁寧に教えてくれる。深月自身の勉強ができているのか心配になるくらい丁寧だった。


「――で、これはなりの已然形」

「あっ、そっか。ありがとう」

 麻里が今教えられた部分にマーカーを引いていく。

「朱莉はそこ間違えてるよ。いつもそこ引っかかってるのと、多分テストに出るから気をつけて」

「えっ? ⋯⋯⋯⋯あー、ここかぁ」


 古文、苦手だなぁ。正直、現代に生まれてこんな言葉使わないんだから、こんな勉強しなくて良くない? なんて子供っぽいこと考えてしまう程度には苦手。

 そして、集中力、切れました。


「あー、もうだめ。休憩する!」

「またぁ? ほんと朱莉は、昔から間違うと集中力切れるよね」

「そういう麻里も、わたしに便乗して休憩する気満々に見えるんだけど」

 さっさとペンを置く麻里をジト目で見ても、当の本人はどこ吹く風だ。


「あたし甘いもの食べたいし、コンビニでも行こうかなー」

「あっ、わたしも行く。チョコ食べたい。深月は? 一緒にコンビニ行く?」

「うん、ついてく」

「おっけー、じゃあみんなで行きましょー」

 麻里の掛け声と共に3人でコンビニに向かった。


 


「肉まん食べたいなー」

 麻里がシュークリームとお菓子を持ったまま、ホットスナックのコーナーを物色している。

「えっ? 麻里甘いもの食べたいって言ってなかった? 肉まんも買うの?」

「わかってないなー、甘いのとしょっぱいのはお互いを引き立てるのですよ? ねぇ、長谷川さんならわかってくれるよねー?」

「えっ、私あんまり甘いもの食べないけど、たぶん?」

「たしかに深月ってお菓子あげてもそんないっぱい食べないよね」

「ほほぉ? それがこのスタイルを維持する秘訣ですか?」

「ひゃっ!?」

 ふいに麻里が深月のおしりを撫でるものだから、突然撫でられた深月から可愛い悲鳴が上がる。


「こら、いきなりセクハラしない」

「えー? これくらいでセクハラ判定されるー? こんなのみんな普通にやってるじゃん」

 麻里はわたしの胸に手をあてながら文句を言う。

 実際、学校ではみんなやってるから反論しづらい。女子校なことも手伝ってか、この程度なら挨拶判定レベルだ。誰も気にとめないだろう。

 たしかに気にとめないだろうけどさ?


「ここ、コンビニだから」

「あれ? 朱莉少し胸おっきくなった?」

「話聞いてくれるかな!?」

 相変わらず、まったく反省してないしね。そして当たりだし⋯⋯。いやいや、服の上からさわってもわかるの怖いんだけど!?


「こういうのが普通⋯⋯?」

 わたしと麻里のやり取りを見て深月がつぶやく。

「そうそう、こんなの普通だね。部活後の更衣室なんてもっと凄いよ? バスケ部に限ったことじゃないしねー」

「そうなんだ」

「やけに真剣な顔で頷いてるけど、そんな真面目に受け取る話でもないからね? っていうか、麻里も深月に変なこと吹き込まないでよ」

「変なことなんて言ってないしー。仲良くなる秘訣みたいなもんだよ。ねぇ、長谷川さん?」

「秘訣⋯⋯」

「深月も鵜呑みにしないの」

「えっと、朱莉?」

「ん? なに深月」

「朱莉も、その、私のおしりさわる?」

「さわらないよ!?」

「そっ、そっか⋯⋯」


 いきなりなに言い出すかな!? いや、なんでそんなしょんぼりしてるの!? っていうか、元凶の麻里は隣でケラケラ笑ってるし!


「はぁー、うける」

 笑いすぎてちょっぴり涙目になった麻里が涙を拭いている。

「もう、あんまり変なこと言わないでよ。深月が落ち込んじゃったじゃん」

「ふーん? 相変わらず、朱莉ちゃんはそういうとこ鈍いですねぇ?」

「なにそれ、なんのこと?」

「いやいや、それでこそ朱莉だからそれでいいよ。これ買ってくるねー」

「あっ、待ってよ。わたしもチョコ買うから」

 よくわからない話に疑問は残るものの、手に持ったチョコを購入すべく、わたしも麻里の後を追ってお会計を済ませた。




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