第16話 side深月


 お昼、教室ではみんながそれぞれ好きな席でご飯を食べている。私は前の席に座る朱莉と食べるのが日常で、特に移動することなく自分の席でお昼ご飯だ。今も目の前には美味しそうにウインナーを頬張る朱莉がいる。

 いつも通りなのに、なんとなく今日は食欲がわかなくて、残りひと切れのサンドイッチを掴んだままぼーっとしてしまう。


「深月、もうお腹いっぱいなの?」

「えっ? あぁ、そうかも」

「そっか、それ残す? 無理して食べなくてもいいんじゃない?」


 朱莉は私の手の中にあるサンドイッチを見ながら、残せばいいと甘やかす。


「でも、もったいないから」

「誰かにあげちゃえば? 麻里とか運動部の子なら食べるんじゃないかな」

「⋯⋯いい、自分で食べる」

「そう? 普段からそんな食べないんだから、無理しないでね」

「うん」


 渡辺さんの名前を朱莉が呼ぶと、なぜか落ち着かない。つい、食べる宣言してしまった手の中にあるサンドイッチを、仕方なしに頬張る。


「朱莉はさ、渡辺さんとずっと仲良いの?」

「麻里と? んー、そうだね。小学生の頃からの付き合いになるし、仲良いと思うよ。中学では麻里が本格的に部活やるようになって、クラスも違ったし一緒のグループってわけじゃなかったけど、それでも遊んだりはしてたし」

「そうなんだ」

「クラス違っても仲良よかったの、家が近いせいもあるかなー」

「そんな近いの?」

「歩いて10分くらい。麻里の家に遊び行ってたし麻里もうち来てたし、ある意味幼なじみみたいな感じかもね」

「幼なじみ⋯⋯」


 なんだろう、この感じ。モヤモヤして、なんとなく面白くない。いつもなら美味しいたまごサンドも今日に限って美味しくなくて、ひと口食べたあと手が止まってる。


「やっぱりお腹いっぱいなの無理してない?」

「大丈夫。食べるよ」


 面白くない気持ちをたまごサンドにぶつけるように噛み砕こうとするも、柔らかいパンとたまごはそんなものを受け止めてくれはしない。


「はぁ⋯⋯」


 私はよくわからないモヤモヤした気持ちと、いつもより美味しくないたまごサンドを、無理やりお茶で飲み下した。




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