第15話


 月曜日の朝、今日からテスト週間になる。部活も今日から活動休止になり、学校全体が試験に向けて本格的に取り組む雰囲気だ。


「朱莉、おはよー」

「おはよう、麻里。今日から一緒に勉強するでいいんだよね?」

「うん、今日から部活休みだからね。ついにテストまで1週間だよー。勉強やりたくなーい」

「まぁ、ね。でも、わたし前回あんまり良くなかったから頑張んなきゃ。1年で落ちぶれるのはさすがにつらい」

「あはは、それは確かにしんどいわ」

 そう言って麻里は無責任に笑うが、こちらとしては切実だ。


「麻里は部活やってるのに成績いいよね。わたしは帰宅部なのにこのままじゃまずいよぉ」

「まぁ、なんとかなるでしょ。うちらには優等生様がついている!」

「結局人頼みじゃん。はぁ」

 

 ついつい、麻里と試験の愚痴を言い合ってしまった。だってねぇ? 試験みんな嫌いでしょ?

 そもそもな話。なんでこんな進学校に来てしまったんだ、わたしは。中学生独特の万能感に目が眩んだとしか思えない。こう、わたしならなんにでもなれる! みたいなやつ。中学の時はそこそこ成績も良くて、自分が頭良いと信じて疑わなかったんだよね。

 あー、もう。わたしってやつは――


「朱莉、おはよう」


 わたしがひたすら黒歴史に身を焦がしていると、いつの間にか隣に深月がいた。うん、今日も笑顔だ。抜群に可愛い。


「おはよう、深月」

 ⋯⋯当然のように手握ってくるしねー。

 ここでなにを言っても離してくれないのは、いい加減学習済み。余計なことを言えば、麻里にからかわれるのも目に見えている。話を進めてくのが得策だ。


「ふたりとも、ここで勉強したいとか希望ある? 図書室は混みそうだし、学校近くのカフェも勉強に使われて入れなそうだよね」

「あー、確かに。朱莉とふたりなら地元もありだけど、長谷川さん連れてくのは迷惑だろうしね。どうしよっか?」

「私は別にどこでもかまわないけど」

「んー、混んでるのを承知で図書室に行ってみるか、いっそ誰かの家でやる?」

「あ、それいいね。あたしと朱莉は同じ駅だけど、長谷川さんってどこ住んでるの?」

「学校から2駅隣」

「えっ!? めっちゃ近いじゃん! いいなぁ」

「家から近いからこの高校にしたから」


 えっ、そんな理由で進学校って受けるもの?

 頭いい人って異次元だなぁ⋯⋯。


「じゃあ、長谷川さんちってのは? だめ?」

「別に私はいいよ」

「やった! じゃあ今日から⋯⋯、毎日はさすがにまずいか」

「ひとり暮らしだから大丈夫」

「長谷川さんひとり暮らしなんだ? すごいね」

「ひとり暮らしってすごいの?」

「えっ、だってご飯とか全部自分でしょ? あたし料理できないし。ね、朱莉」

「いや、わたしは料理できるけど」

「えー、裏切り者じゃん」

「なにが裏切りか知らないけど、バレンタインに生チョコとかブラウニーとかあげたじゃん。あれ全部手作りなんだけど忘れちゃった?」

「あぁ、たしかに。おいしかったわ」


 勉強する場所決めのはずが、話が脱線して料理のことで盛り上がる。そして、たいして決まることなくタイムアップ。チャイムが鳴ってしまった。


「やば。無駄話してたらチャイム鳴っちゃった」

「ひとまず、深月のうちお邪魔するでいい?」

「うん、大丈夫」

「じゃあ麻里、詳しくはまたあとで。行こう深月」


 程なくして先生が教室に入ってきて、1限目の授業開始を告げた。




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