第4話


 体育の時間。コートの中心で、深月が無双していた。


 今はバスケのミニゲーム中だ。相手チームがパスしたボールをあっさりとカット。すぐさま体を反転させ、ドリブルからそのままゴールを決める。 

 途端、黄色い声援が飛び交うが、当の本人は涼しい顔したまましらんぷり。

 いや、あれは自分に対しての声援だと思ってすらいないんだろうな。


「朱莉、次うちらの順番だって」


 体育館の隅みにいた私に、麻里が声をかけに来てくれた。麻里はそのまま私の隣に座って、一緒に試合を観戦する。

 

「次ね。わかった。ありがとう」

「しっかし、相変わらず長谷川さんは凄いね」

「だよねぇ? 運動もさらっと出来ちゃうなんて、本当に深月は欠点がないよね」

「やっぱバスケ部入ってくれないかなぁ」


 麻里は中学からバスケ部だ。以前、深月を勧誘してふられていた。

 深月はなんでも出来るのになにもしない。バスケ部に限らずいくつか声をかけられていたが、興味がないらしく帰宅部だ。

 

「あっ、長谷川さんまたゴール決めた。もうひとりで何点目?」

「いやいや、流石に数えてないけど」

「そんなことじゃ嫁失格じゃない?」

「嫁じゃありませんからー」

「結婚式には呼んでね」

「これから嫁になるわけでもないから!」


 他愛ないおしゃべりをしていると、コートでは終了のホイッスルが鳴り響く。審判をしていた先生から、深月のいたチームの勝利が告げられ、すぐさま次のチームが呼ばれた。


「よし、じゃあ行きますか」

「長谷川さんに声掛けないの?」


 麻里に言われ深月を見ると、深月は床に座り明後日な方向を見つめぼーっとしていた。

 どこ見てんだろ?


「深月、タオル。汗ふきなよ。風邪ひく」


 放っておいたらそのまま何もしないだろう深月に、苦笑いしながらタオルを渡しておく。

 軽く投げられたタオルをしっかりキャッチした深月は「うん」と頷き、汗をふきはじめた。素直でよろしい。

 

「いってくるね」

「いってらっしゃい。頑張ってね」

 深月が汗をふきながら手を振って送り出してくれる。


 コートに入ると、麻里がニヤニヤしながら近づいてくる。わたし達の様子を見ていた麻里に「やっぱり嫁じゃん」とからかわれ、思わずジト目になってしまった。

 嫁じゃなくて、友達だから!




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