第3話 side深月


 朱莉が、元気な挨拶と共に教室に入ってきた。

 渡辺さんと挨拶して会話を終えたあとも、席に着くまでみんなが朱莉に話しかけている。


 朱莉はクラスでも人気者だと思う。

 誰にでも優しく、頑張り屋で、それでいていつも明くて笑顔だ。仮に朱莉の事を嫌いな人がいるとしたら、それは朱莉じゃなくてそっちに問題があるのではないだろうか。


「おはよう深月」


 朱莉はこんな愛想の無い私にも、笑顔で挨拶をしてくれる。本当に優しい子だと思う。私の毎日は、朱莉の笑顔から始まる。


「LINEまだ見てないよね?」

 ――確かに通知があった⋯⋯ような気がする。

 いつも携帯を見ない私に、朱莉は怒るようなことはなかった。

 朱莉はやっぱり優しい。


 勉強をカフェでするらしい。まだテスト期間でもないし、前回のテスト結果だって悪くなかったのに。本当に頑張り屋だなぁ。

 放課後の約束をすると、ちょうどチャイムが鳴った。



 

 授業が始まり、黒板には歴史の出来事が解説を交えながら書き記されていく。そんな中、私は前に座る朱莉を見ていた。きっちり結ばれたポニーテールが、溌剌としたイメージの朱莉に良く似合ってると思う。


 ⋯⋯触ったら怒るかな?


 手を伸ばせば届くは、朱莉が動く度にゆらゆら揺れて誘っているかのようだ。思わず触りたい衝動に駆られるが、ぐっと飲み込む。私は教科書に目を落とし、自分の気持ちから目を逸らした。




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