第2話


 新しい学校生活にもすっかり慣れた6月半ば。

 わたし――保坂朱莉ほさかあかりは朝のざわめきが広がる教室の扉を開け、誰にともなく「おはよう」と笑顔で挨拶をした。

 教室の入口近くに座るショートボブの女の子が「朱莉おはよー」と挨拶を返してくれる。

 サバサバした雰囲気の彼女は渡辺麻里わたなべまり。麻里は小中と学校が一緒で、同じ高校に入学した友達だ。

 中学の時は別グループではあったけれど、新しい学校で知った顔がいるという事は、とても心強く有難い存在だった。


 麻里と軽く話して自分の席に向かうと、今日も気怠げに後ろの席に座る友達と目が合った。


「深月、おはよう」

「おはよう」


 深月は、眠そうな様子を隠そうともしない。眠そうな声のまま返事をしてくれる。

 

 ――今日も美人だなぁ⋯⋯。

 思わずまじまじと見つめてしまう。

 

 長谷川深月はせがわみづきは抜群に顔が良い。

 涼やかで切れ長な二重の瞳に、綺麗に通った鼻梁。程よく厚みがあり膨らんだ赤い唇も、透き通るような色白の肌も綺麗だ。サラサラとした黒髪ストレートも良く似合っている。

 いつも無表情ではあるが、それすらクールビューティといった感じで人気に拍車をかける。女子校なことも手伝ってか、深月はちょっとしたアイドル扱いだった。

 当の本人は、周りのそんな様子にまったく気づいていない。なんなら、自分の容姿すら無自覚っぽい。


「ね、深月? LINEまだ見てないよね?」

「⋯⋯ごめん、見てない。急ぎだった?」

「いや、急ぎじゃないから大丈夫」

「そっか」

「うん、急ぎだったら最初から電話してるし問題ないよ」


 深月は元々、携帯を携帯しないような子だ。通知に気がつかないなんてもちろん想定内だし、最近は携帯をちゃんと携帯するようになったと褒めている始末だ。

 当然わたしが怒ることもないし、深月も責められているわけではないことをわかっているのか、気にした様子はない。

 深月がバッグから携帯を取り出し、わたしから送られたLINEを確認する。


「――カフェで勉強するの?」

 LINEの用件は、放課後の勉強のお誘いだ。


 わたし達の通う高校は、いわゆる進学校になる。そんな中、深月は入学して初めての試験で上位の成績を叩き出していた。対してわたしは、平均点より少し良かったくらい。


 悪いわけではない⋯⋯と思う。いや、悪くない! 平均点取れてるし、赤点もない! 

 ⋯⋯ふぅ、思わず取り乱してしまった。

 そんなわけで、もうすぐ次の試験。勉強を教えてもらうよう、お願いしていたのだ。


「そうそう。新作ドリンク飲んでみたいし、息抜きにもなって丁度いいかなって」

 正直、勉強だけだと飽きちゃうしね。

 

「それとも、やっぱり図書室がいい?」

「いや、いいよ」

「やった、じゃあ今日はカフェで決まりね」

「分かった」


 放課後の予定が決まった頃、始業を知らせるチャイムが鳴り響いた。




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