第234話 再臨
肉の塊が泡立ちながら、人型としては異端といえる姿をしたハイペリオン・ノヴァの姿をとったその群体から放たれる異様なエネルギー。
すぐそばにイクシーズというありえないエネルギーを保有している存在がいるが、エネルギーの総量で言うのならばそれに匹敵するのではないか、というほどに膨れ上がっている。
一方で大きさはハイペリオン・ノヴァとほぼ変わらない。だが、イクシーズに倒される前と異なり、より生物的な外観のそれは、バックパックの部分を隆起させ、肉の槍のようなものを出現させた。
それは、明確な攻撃意思表明である。
「シルル!」
「ああ。サブ動力回路への切り替えは終わっている。戦闘は可能だ!」
槍のようなものに張り付いていた突起が広がり、それが一斉に射出された。
本体と繋がった突起。それはまさしくネメシスの使用したクラックアンカーそのものである。
「クラックアンカーだと!?」
「形状を再現しただけだ。当たってもこちらの制御が奪われることは……いやそう言う問題でもないな」
流石に相手は生物であるのだから、形状を再現しただけであろうが、そんなものに当たってやれるわけもなく、ハイペリオンは引き続き推進装置を細かく噴射して不規則に動くそれを回避。
途中。どうやっても避け切れないと判断したものを、とっさに両手に重力場を展開して受け止め、力場で絡めとって引き千切り、それを女王群体めがけて投げつける。
「おいおい冗談だろッ!?」
「今度はメガフラッシャーかッ!」
射出されたクラックアンカーは逃げ場を塞ぐためのもの。
本命はこっち。タリスマン達が使うメガフラッシャーの模倣である。
ただし、それが放つ熱量は彼等のそれとは桁違い。当然ながら、被弾してやれるようなものではないし、重力場を展開しての防御もそれを展開しつづけられるほど機体の状態は良くない。
当然、選べるのは回避。
射線上と思われる場所からの急いでクラックアンカーの隙間を縫うように最大速度で離脱する。
直後。女王群体の両肩から閃光が放たれ、自らが妨害のために展開していたクラックアンカーをまとめて焼き払う。
「レジーナのものの2000倍の熱量だぞ、アレ」
「俺、元の熱量をしらねえんだけど!!」
「当たるなってことだ」
「そんなのわかってる!」
メガフラッシャーを撃ち終えた女王群体は背中のコンテナ型の部位を開放し、その中から何かの塊を射出した。
今度はモルガナ・フルパッケージのバックパックの機能を模倣したらしい。
おそらくはミサイルの模倣がそれなのだろうが――数が多すぎる。
「可変速ビームは?!」
「出力にリミッターをかけてあるが、勿論使える!」
自身に迫る肉の塊で出来たミサイルの模造品。
金属でできたソリッドトルーパーなどとは異なり、ロックオンためそれらすべてを手動で照準をあわせて貫通力の高い高速かつ細いビームを連射する。
幸い、直角貝型群体のようにビームを反射するようなことはなく、そのままビームは模造品のミサイルを貫通し、それを高熱で焼き尽くす。
迎撃はできる。その程度の防御力のものを飛ばしてきているのだ、というのは理解できた。
ならば、と数発本体めがけてビームを発射したが――案の定効果なんてものはなかった。
表面が焦げるとか、そういった変化すら見られない。
「やっぱりアレを倒すとなると、ノヴァブラスターしかないか……」
「しかし、だアッシュ。わかってると思うけど」
「今の出力では使えない、だろ。わかってるよ。けど、使えるんだろ?」
「……」
沈黙は肯定である。
だが、それをやれば機体がもたない。それ故に、声に出しては肯定しない。
そういう方面には聡いアッシュも、それを理解している。
だが。最初からアッシュはノヴァブラスターを使うつもりでいる。
シルルもそれを察し、必要以上に言葉を語らない。
何せ、それ以外で自分の持てる手札ではそれ以外での勝ち目がない。
「キャリバーン、援護を!」
『無茶をいうな! さっきのビームみたいなのがシールドを直撃して限界寸前。
「だったらなんでもいい。武器をよこしてくれ!」
『それならすぐに用意する。それまでやられるなよ!』
女王群体の背中のコンテナが変形し、そこから閃光が放たれる。
勿論。それに当たってやることはできないし、防御も選べない。
相手に狙いを絞られないように動き周りながら、バックパックユニットからスモークグレネードを射出。それによって煙幕を展開し、視界を遮る。
広がった煙が互いの間に入り互いの姿を認識できないようにするだけでなく、その煙幕の中にはビームを攪乱物質が含まれており、女王群体の放ったそれがビームと同質のものであれば、それで威力減衰を起こすはずだ。
が、その閃光はスモークグレネードによって発生した煙幕を突き破ってハイペリオンに迫る。
「ッ!?」
『させない』
回避不能のタイミング。どうやっても助からない、とアッシュが覚悟した瞬間。
その真正面にイクシーズが出現。女王群体の放ったビームからハイペリオンを守った。
『この娘との契約だ。我々は、お前を守る』
「この娘って……お前は」
『我々は、お前達が始祖種族と呼ぶ者たちの一派。宇宙の真理にたどり着いた者たちの総意である。今はこの娘の身体を借りて、イクシーズの力を行使することができている』
閃光が止む。それと同時に、女王群体の右前腕部が千切れた。
より正確には、肘の関節が砕けた。
一体何が起こったのか、と混乱するアッシュとシルルであるが、すぐに察する。
ノヴァブラスターの効果だ。
あの時。まだ巨大だった女王群体の身体に命中したノヴァブラスターの毒は、あの時女王群体を構成していたヴァーゲすべてに感染し、その存在の終焉を確定させていた。
だがその終わりを先延ばしにするために、女王群体は周囲に存在していた同族を取り込んで、その身体を維持していたのだろう。
事実。右前腕部を失った女王群体は近くにいた怪獣型群体に背中から生やしたクラックアンカーを突き刺して取り込み、右腕を再生させる。
「これは……」
「まあ、勝ちの目はある、か」
といっても、それは今の女王群体が身体の崩壊を先延ばしにするため、天文学的数字の群体ヴァーゲを全て取り込み、かつ女王群体となったすべてのヴァーゲが死ぬ、という状況まで粘る、という不可能に近いものである。
『……どうすればいい』
「何?」
『今のアレは完全に暴走している。このままでは、
「なら、あの珊瑚型と女王群体以外の群体を焼き払ってくれ!」
『……承知した』
そういうなり、イクシーズは背中に光のリングを発生させ、さらにそのリングから無数の閃光を放った。
放たれた閃光はまた幾筋もの閃光に分かれ、それぞれが意思を持ってうねる生物のように動いて次々と群体に食らいついた。
小さいものはまとめて。大きなものは複数の閃光で貪り食らう。
『残存ヴァーゲ、測定可能領域に到達。さらに減少』
女王群体がまともに機能していないためか、身動きが取れない他の群体ヴァーゲが次々と光の奔流に飲み込まれて消えていく。
それを察知した女王群体も妨害するためにイクシーズに向かってメガフラッシャーを発射しようと両肩を結晶体に変化させていく。
エネルギー総量が同等であるならば、流石のイクシーズもその直撃を受けては耐えられる保証がない。
『アッシュ、武器を射出するよ!』
そのタイミングで、キャリバーン号から武器が射出され、ハイペリオンはその回収へ向かう。
射出された武器の入ったカプセルが外装をパージし、中に収められていた武器が露になる。
それが何であるかを確認すると、即座にそれを右手でつかみ、最大速度で女王群体に向かって突っ込んでいく。
「でああああああああッ!!」
それは、十字架を模した大剣。
かつて、ベルの乗機であった機体、フロレントが使用していた剣が振り下ろされ、女王群体の左肩の結晶体ごと肩を粉砕した。
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