第230話 繋がる希望

 殺到する群体を、エクスキャリバーンに残された火器と甲板に残ったハイペリオン・ノヴァの武装だけで処理していく。

 極力Gプレッシャーライフルは使わず、怪獣型群体が現れた時にのみに使用する。

 それ以外の群体へは、通常の火器だけで十分通用する。

 問題となるのは超高速で飛びまわり、ただの体当たりでこちらを破壊しうる直角貝型群体。これに関しては、接近された事に気付いた時点でアウト。

 仮に捉えられていても、その突撃に反応できるかは別問題。加えてビーム攻撃は通じにくいため迎撃も難しいときた。

 だが、やらねばならない。


「シルル、全部終わるまであと何分だ!」

『ネメシスの準備はできた。今はアストレアとモルガナの準備をしている。短く見積もってあと10分……いや、5分でどうにかしてみせる!』

「それでも長いッ!」


 相手は天文学的数字。倒しても倒してもすぐに新たらしい群体が現れる。

 その状態で5分は長すぎる。

 エクスキャリバーンの火器類もあるとはいえ、すでに両舷のローエングリンはまともに機能しておらず総合的な火力も下がっている。

 実質的に使用可能なのは、キャリバーン号本体の装備と、下部にドッキングしているタンホイザーのもののみ。しかも位置の関係で、タンホイザーの武装は正面にしか使えない。

 どう考えても手数が足りない。


「生きている武装は全部使え! 回路事態は生きてるだろ!!」

「肯定。マルチロック完了。両舷のローエングリン、残存ミサイル全弾発射します」


 ハッチが開き、残っていたミサイルが次々と発射される。

 実際。そのまま残していたとしても、破損しすぎたローエングリン内では火災が発生しており、それを消火するためのシステムも機能不全を起こしている以上、誘爆の危険性があるのだから使い切ってしまった方が良い。

 そしてこれが弾幕となり、群体の接近を阻む。

 時間稼ぎとしてはこれ以上ないものだろう。

 そしてかろうじて動いた2基の有線式ビーム砲『フェイルノート』でさらに防衛網を展開する。


「警告。粒子生成機能に異常発生。フェイルノート及びトリストラムの使用の中断を」

「却下!」


 マコがシスターズの警告を一蹴する。

 そんなことをしている余裕などない。

 何より――。


「どうせもうローエングリンは持たない。だったら、壊れるまで全武装使い切ってやれ!!」


 ローエングリンが狙われたのは、間違いなく陽電子砲を警戒してのことだろう。

 実際、陽電子砲は一撃で女王群体を倒し切る可能性を秘めている。

 それを潰すために率先して直角貝型群体を向かわせたのだろう。

 だが、インベーダー側は人類をあまりにもナメすぎている。


「シルル。悪いが、2隻ぶっ壊すぞ」

『……やってくれ』

「アッシュ。耐えてくれよ」

「おい、まさか……!」

「そのまさかよぉッ!!」


 マコがコンソールを操作し、両舷のローエングリンの艦首にエネルギーを供給する。

 陽電子砲を使うつもりである。

 だがマコ自身が直前に言っていた通り、現状の被害状況では艦にかかる負荷が大きすぎる。その負荷に、間違いなく2隻のローエングリンは耐え切れない。


「リオン! パージと加速のタイミング、任せた!!」

「わかった」


 艦首部の陽電子砲が発射された。

 目標はもちろん、女王群体。

 だがその発射を察知した群体が射線上に集まり攻撃を阻もうとする。

 一瞬で消滅する無数の群体。

 それでも圧倒的な物量で照射が続けられている陽電子砲を受け止め続け、女王群体へのダメージはない。

 このままならば当然、キャリバーン号の両舷に接続された2隻のローエングリンは負荷に耐え切れず自爆するだろう。

 だが、そうはならない。


「せつぞくかいじょ。ぱーじ」


 両舷のローエングリンがキャリバーン号から切り離され、残った推進装置を全開にして陽電子砲を照射しながら女王群体めがけて飛んでいく。


「まとめて吹き飛びやがれ」


 キャリバーン号が後退しつつ、主砲で2隻のローエングリンを撃ち抜く。

 瞬間。2隻は大爆発を起こし、同時に艦首周辺で精製されていた陽電子が四方八方へと散弾のように飛び散り、群体の大群を消滅させていく。

 加えて。戦艦クラスの艦艇の動力炉の爆発という大規模な爆発が発生したことにより、その衝撃波だけで小型の群体は消し飛び、大型の群体ですら爆発の範囲に巻き込まれると、多大な被害を受けてその身を崩壊させていった。


『アッシュ、準備完了だ』

「早かったな」


 実際、5分も経っていない。3分程度、といったところか。


『ウチのスタッフは優秀だからね! さあ、キャリバーンから各部を射出する。敵が体勢を立て直す前に――』

「任せろ!!」


 この時が来た。

 アッシュは覚悟を決め、キャリバーン号の甲板から飛び立ち、艦正面のカタパルトの射線上に移動する。


『ネメシスアーム射出』


 キャリバーン号のカタパルトから、ネメシスの両腕が射出される。

 それと速度をあわせ、ハイペリオンは両腕を自らパージ。その後、レーザー誘導で射出されたネメシスの両腕を装備する。

 大きく容姿が異なるとはいえ、元々同じクラレントMk-Ⅱマークツー。各部のコネクターの規格は共通している。


『続けてフルドレス、射出』


 破損したアストレアから外されたフルドレスユニットが単独で射出。こちらとも相対速度をあわせ、腰にあるコネクターと接続。

 これにより、ハイペリオンのシルエットは巨大な腕と4つの翼を持つ異様なものとなる。

 だがこれで終わらない。

 ハイペリオンは背部の可変速ビーム砲を展開。ウイングスラスターも撥ね上げ、背中のコネクターを露出させる。


『行くぞ、アッシュ。フルパッケージユニット射出!』


 最後に、モルガナの背部に装備されていたバックパックユニットが射出され、それが露出した背部のコネクターを介して接続される。


「さあて、アッシュ。相乗りがベルでないのは残念だろうが、この組み合わせがベストだからね」


 と、バックパックユニットのコクピットに乗ったシルルは、早速接続した各部のチェックを行う。


「ああ。わかってる。それよりベルは……?」

「軽い脳震盪で気を失っただけだ。今は医務室で寝ている。よし、腕部の調整完了。フルドレスはもう少し待ってくれ」

「了解した。ここから反撃開始だ!!」


 ネメシスの両腕を突き出し、重力場を発生させる。

 それも、ただの重力場ではない。

 そのものが重力制御機構グラビコンであるネメシスの腕に加え、ハイペリオン本体にも存在する重力制御機構グラビコンを使った、より強力な重力場。

 超重力場を生成し、それを槍のような形に変化させ、それを射出する。

 放たれたそれは女王群体には当たる事なく、その横を通り過ぎるも、離れていた場所からでも女王群体の身を削る。

 そして、女王群体の背後にいた古代魚型群体βを貫き、丸ごと消滅させた。


「フルドレスユニット、フィッティング完了」

「早えよ!? ならアルゴスビームでグラビティブラストやるぞ!」

「その発想、面白いッ!」


 装備位置と周辺部位との兼ね合いでアタックモードで状態が固定されているフルドレスユニットの拡散ビーム砲が淡い光を宿す。

 アルゴスビーム。本来ならばそう呼ばれる、広範囲拡散ビームが発射されるはずである。

 が、今回は違う。

 ビーム砲の砲門の前に重力場の塊が出現し、そこから無数の超重力場が伸びて射線上の群体を抉り取っていく。

 簡易的なグラビティブラスト。とはいえ、発生させた超重力場はグラビティランチャーやGプレッシャーライフルのそれをはるかに上回る力場である。

 そんなものの直撃を受けては、大型の群体とて耐え切れない。


「これだけやれれば、楽勝かもな」

「バカ言うんじゃあないよ。エーテルコンバーターを搭載したこのバックパックユニットがなけりゃ、とっくにガス欠になってる。しかし、何故だ……いや」


 シルルはこの現象にある程度の察しがついていた。

 宙域によって、霊素エーテル濃度が異なるのは当然のことで、この宙域においてもモルガナ本体のエーテルコンバーターとバックパックに搭載されたものとあわせせて、無尽蔵のエネルギーが確保できていたのだ、と最初は考えていた。

 だが、バックパックのエーテルコンバーターのみでも、ハイペリオンのエネルギーは尽きることがない。

 アルゴスビームのように無数の超重力場を照射したにも関わらず、それを稼働させるための莫大なエネルギーが即座に補給されている。

 つまり、この宙域の霊素エーテル濃度は異常に濃い、ということになる。それもただ濃いというだけでなく、もしかするとこの宙域に存在する目視不可能な物質すべてが霊素エーテルに置き換わっているのではないかと思えるほどの濃度であろう。

 だとするならば、その原因は何だ。


「――とにかく今は、女王群体を」

「ああ。解ってるさ。ノヴァブラスターを使う!」

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