第228話 破壊
エクスキャリバーンとして、はじめての被弾。
それに困惑する間もなく、アッシュとマコは行動を起こした。
マコはコンソールを操作し、被弾箇所――ローエングリン1のメインエンジンへのエネルギー供給カットおよび隔壁での隔離と、被弾し破壊されたエンジンの有るブロックを丸ごと切り離した。
甲板の上にいるアッシュはその後に起きるであろう爆発に備え、重力場による防壁を展開する。
「ッ! 防御術式展開!!」
一瞬遅れてシルルが防御術式を展開。さらにそれに続いてアニマもアッシュ同様重力場による防壁を展開――する直前に、切り離されたローエングリン1のエンジンブロックが大爆発を起こした。
当然だ。直前までエネルギー供給され、フル稼働していたメインエンジンが破壊されたのだ。そのくらいの爆発が起きても不思議ではない。
衝撃波に艦が揺れ、推力バランスが狂ったことで入射角も変わる。
それだけではなく、衝撃波によって磁気アンカーが外れ、
「ローエングリン1の機能低下。今後、この場にとどまってのオペレーションは危険と判断。ローエングリン1搭乗中のシスターズ、キャリバーンへ移乗開始します」
「バックアップはタンホイザーのシスターズが担当します」
「敵接近。なおも増大中」
致命的な個所への被弾に、シスターズも今までのような機械のごとき淡々とした口調ではなく、ややテンポが速く焦りが見える。
実際、ローエングリン1のエンジンブロックを切り離したことで、エクスキャリバーンのパフォーマンスは落ちている。
「このままだとジリ貧だ。物量に押しつぶされる」
「そんなことは解ってる! だが、どうすれば……」
後ろから迫る群体。その迎撃に、艦の装備だけでなく、外にいる機体すべての装備を駆使して迎撃しなければ、エンジンブロック1つどころではない被害に繋がる。
だがこのままではシルルの言った通りジリ貧。何か切っ掛けがなければ、どうしようもない。
『だったら、強引にでも開いて見せます!』
そう言うなり、ネメシスが甲板から離れ、急上昇。エクスキャリバーンの展開した超重力場を回避し、女王群体の前に姿を晒す。
『グラビティブラストスタンバイッ!』
両腕を突き出し、それを女王群体の重力障壁とエクスキャリバーンの超重力場との接触面に向け、両腕に仕込まれた
突き出した腕の間に発生する超重力場。それに気づいたのか、向かってくる群体の一部がネメシスのほうへと進路を変更する。
「無茶だアニマ!」
『我々が行く!』
レジーナを先頭にしたタリスマン部隊がネメシスに迫る群体を迎撃すべく動き出す。
進路変更した群体に対しメガフラッシャーを使い攻撃。最大出力で放たれたそれに焼かれる小型群体。
だが、中に紛れていた怪獣型群体にはほとんど通じていない。
『やはり、我々では足りんか……!』
「クラスターミサイル発射。迎撃します」
怪獣型群体に対し、ローエングリン1および2から放たれたミサイルによって怯まされ、そこへ艦側面から切り離された有線式ビーム砲『フェイルノート』のビームの集中砲撃により撃破。
当然、それですべてを撃破できるわけもなく、怪獣型群体の集団がネメシスに接近する。
『このッ!』
クラックアンカーを射出し、その切っ先に超重力場を纏わせる。
重力場による刃を形成し、クラックアンカーを振り回してそれを使って怪獣型群体を切り裂くが、数体切り裂いたあたりでワイヤーそのものを掴まれてクラックアンカーを引き千切られる。
続けて各部の増加装甲と両脚に仕込まれたマイクロミサイルランチャーからミサイルを発射。以前装備していたものよりも火薬の量を増やした、今回限定の特別製ミサイル。
その威力は致命的なダメージを与えるには至らないものの、怪獣型群体を大きく仰け反らせながら後退させるには十分すぎるほどであった。
『発射ァッ!!』
そして。重力場が照射された。
ネメシスから放たれた重力場は、2つの重力場の接触面からやや照準をずらし、女王群体の重力障壁だけを撃ち抜いた。
すると、エクスキャリバーンを止めていくだけで限界だったのだろう。女王群体の展開していた重力障壁がネメシスのグラビティブラストによる負荷に耐えかねて消失。
同時に、それまで押しとどめられていたエクスキャリバーンが女王群体にそのまま突っ込み、その身体に重力場の切っ先が触れる。
「これでッ……!」
「……駄目だ」
確かに、超重力場は女王群体に少なくない傷をつけた。
だがしかし。当初の予定とは異なる角度での突撃になり、致命的なダメージを与えられないまま、エクスキャリバーンと女王群体はすれ違うことになる。
しかも、甲板から離れたネメシスとレジーナ達タリスマンを置き去りにして。
「戻れマコ!」
「今やってるッ!!」
エクスキャリバーンの各種パラメーターを操作し、イナーシャルキャンセラーによる急制動および方向転換を行い反転。推力バランスをあわせて再突撃を行おうとするが――。
「敵からの砲撃、来ます」
「なっ!?」
女王群体の半透明の身体に包まれた、紅く鈍く輝く結晶体から閃光が放たれた。
それはエクスキャリバーンが纏った超重力場に進路を曲げられ方々へと散る。
そしてその先で古代魚型や怪獣型といった大型の群体を跡形もなく消滅させた。
だが、エクスキャリバーンも無傷ではなく、閃光が当たった衝撃で押し退けられ、姿勢が崩れる。
「今のをシールドだけで受けていたら沈んでたんじゃ……」
なんとか体勢を立て直し、再加速。元いた位置まで戻る。
が。そこで彼等が見たものは、多数のタリスマンであったはずの結晶体と、大破状態のネメシスであった。
「ッ!!」
真っ先に飛び出したのは、ナイアであった。
超高速で移動するエクスキャリバーンから飛び降り、即座にネメシスを回収する。
たった数秒。それだけの時間しか離れていないのに、何があったのかというほどの破損状況。
『そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ボクは』
「だからってなッ……!」
まともな状態で残っているのは両腕のみ。
右の脚はフレームがむき出しで、左脚に関しては膝から下がない状態。
胴体には大きな穴が開き、頭部は左半分がごっそりえぐり取られていた。
こんな状態なのに、両腕だけ無事である、というのもまた奇妙ではある。
だが、その部位だけ動くのならば、まだネメシスは――アニマは戦えるのである。
「
女王群体を通り過ぎたエクスキャリバーンは重力場を使ってドリフトしながら方向転換し、砲門を女王群体へと向ける。
それを視認したナイアは、
その直後に、エクスキャリバーンから超重力場が照射された。
周囲の光を飲み込み、黒い塊が宇宙を走る。
その黒は、まっすぐ女王群体の重力障壁に叩きつけられる。
と、その重力場障壁がひずむ。
「だったらッ!!」
ナイアのクラレント
「ただでさえ負荷がかかってんだ。これだけの出力をピンポイントで受けきれる訳ねえよなあ!!」
6つのグラビティランチャーの重力場が、女王群体の重力障壁を穿つ。
やっていることは直前までネメシスがやっていたことと大差ない。
しかし。決定的に違うことが2つある。
それは、エクスキャリバーンとネメシスによって一度重力障壁は破られているということ。
そして再展開されたそれはエクスキャリバーンが放った
目に見えてわかる。重力障壁を展開する能力が、最初よりも明らかに弱っていると。
――ナイアの選択は正しかった。
砲門の数により、純粋な
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