第227話 被弾

 放たれた重力場に巻き込まれた群体が圧壊していく。

 照射時間わずか5秒。それだけあれば小型の群体を圧壊させるには十分であった。

 が、怪獣型群体はダメージこそ負っているように見えるがその姿を保っている。


「やっぱもう重力兵器に抵抗がついてるッ……!」

「もんだい、ない。しーるどしゅつりょく、いってんしゅうちゅう」


 リオンがシールドジェネレーターのパラメーターを操作。

 シールドを艦首前方に円錐型で形勢。艦全体包み込み、まるごと弾丸のようにしてそのまま突っ込む。

 文字通りの弾丸。あるいは巨大な砲弾。それが重力場の中でも形を保っていた怪獣型群体と接触。それを弾き飛ばすと、群体はあっけなくバラバラに飛び散った。


「特急電車の人身事故ってあんな感じなんだよね……」

「怖い事いうなよメグ!」

『バカを言える余裕があって結構じゃあないか」


 エクスキャリバーンの甲板上に並んだ残存戦力。それらは振り落とされないように機体の各部に装備された磁気アンカーで姿勢を固定し、生身であるレジーナをはじめとしたタリスマン達は各機にしがみついる。


「古代魚型群体タイプβ、Y0時X5時方向及びY0時X7時方向より急接近。体当たりしてきます」

「現在、シールドは正面に集中しているため、そちらの方向へは展開不能。迎撃を」


 全員が一斉に振り返る。

 後方から迫る2つの巨大影。エクスキャリバーンよりも大きな古代魚型群体が、最大速度に近い速度で前進しつづける艦めがけて突撃してくる。

 あまりの巨大さに遠近感覚が狂いそうになるが、逆に言えばそれだけ大きければどこに撃っても攻撃が当たる。


「オレに任せな!!」


 上半身を反転させ、ナイアのMk-Ⅱマークツーがその背に背負ったグラビティランチャーを6門ずつ左右の古代魚型群体に向けて放つ。

 が、動きがなかなか止まらない。

 圧倒的な質量。それをすべて押しつぶすにはたったそれだけの超重力場では足りないのだ。

 それを見て無人機たちもその迎撃に参加する。

 すでに頭がなかったり、片腕がなかったり、片脚が無かったり。あるいは下半身をごっそり損失していたり。

 そんな機体がジェネレーターの限界を超えてグラビティランチャーやGプレッシャーライフルを放つ。

 特に、機体本体のジェネレーターと重力制御機構グラビコンに負荷をかけるGプレッシャーライフルを装備した機体はいつ爆発してもおかしくない状態であるにも関わらず、重力兵器の使用を躊躇わない。

 もし爆発したとして、それはジェネレーターの爆発だ。その程度、今目の前に迫る脅威に比べれば被害規模は小さい。

 確実にそれを撃破しなければ、エクスキャリバーンが沈むのだから。


「左右からも来ます」

『それはボクが!』


 後方の敵はようやく目に見えてわかる圧壊が始まった。そのくらいのタイミングで、左右から古代魚型群体αが大顎を開いて数体まとめて突っ込んできているのを、ネメシスが両腕を広げ艦を守るように重力場の障壁を展開。

 その障壁に勢いよく突っ込んだ群体は一瞬怯んだかのように弾かれるが、すぐさまその重力場を突破しようと突撃を続行する。

 その身体が砕けようとしているにもかかわらず、重力場の中を突き進むそれに対し、ネメシスは重力場を艦に近づけば近づくほど高重力になるように重ねてを展開して抵抗。

 流石に最後の超重力場は突破できず、圧壊する群体。

 すべてを砕いたことを確認したアニマは重力場を後方にも展開。古代魚型群体βを左右から挟むようにし、まとめて超重力場によって押しつぶした。


「ハッ! まるでハエ叩きみてえに潰れてやがる! やるじゃねえかブリキ野郎」

『ボクの人型ボディはブリキなんて使ってないんですけど?』


 小型の群体をそれぞれの機体が迎撃。女王群体への射線は今のところ通っている。


「……仕掛けるか」


 Gプレッシャーライフルを構えたハイペリオンが、クリオネ型のそれの頭に照準をあわせる。


「しーるど、いちぶかいじょ。しゃせんくりあ」

「発射ッ!」


 シールドにできた穴を重力場が通り抜け、女王群体に迫る。

 が、その重力場が何かに阻まれた。

 さすがにその光景は予想外すぎて、その場の全員が驚愕に目を見開き、息をのむ。

 予想していたことではあったが、ついに重力兵器を無効化する力を持った群体が出現してしまった。

 しかもそれがよりにもよって一行が討伐対象にしていた女王群体であり、かつ重力兵器を防げる物理現象は重力操作以外存在しない。

 つまり、女王群体を突破する手段は、エクスキャリバーンやその艦載機には備わっていないということになる。


「まだだッ!!」


 だが、マコは諦めない。

 重力制御機構グラビコンのパラメーターを操作し、シールドの上をなぞるように重力場を展開する。

 それも、超重力場。シールドすら軋むほどの重力場を纏ったまま、速度をあげるエクスキャリバーン。

 超重力場の槍が、正面から迫るあらゆるものを圧壊させながら音速を超えて直進する。


「各機、衝撃に備えて!」


 エクスキャリバーンの超重力場の槍女王群体の重力障壁と接触。瞬間、超重力場同士が干渉し合い、艦全体が激しく揺れ、甲板に立っているソリッドトルーパー隊はみなバランスを崩す。

 特に四肢のいずれかを破損していた機体は艦から振り落とされないように磁気アンカーで固定していただけなので、自分の身体を支え切れずに転倒してしまう。

 そうでなくても、音速を超えた速度からいきなりほぼ静止状態までの減速をしたのだ。

 慣性制御の効いている艦内はともかく、艦の上に立っていた機体はその慣性の影響をモロに受ける。

 磁気アンカーだけでは重量を支え切れなかったカリオペ・デンドロビウムが放り出されるが、それをネメシスがクラックアンカーで捕縛して回収する。


「助かりました……」


 もし、そのまま放り出されていたら、エクスキャリバーンが展開したシールドと衝突する。それだけでも機体には深刻なダメージが発生するし、仮に機体は無事でも中の人間はその衝撃によって悲惨な事になる。

 加えて。機体が無事で、中の人間も無事だったところで、今度は自身が展開した超重力場によって軋みだしたシールドにトドメを刺し、そのまま超重力場に押しつぶされる、何てこともあり得ただろう。


『ですが、ここからどうすれば……』


 直進しようとエクスキャリバーンはメインエンジンの出力を最大にしている。

 だが、互いの超重力場同士がかみ合ったまま、まったく前に進まず、艦全体が激しく震えている。


「後方から多数の群体接近」


 シスターズの報告通り、後ろを向けば視界を埋め尽くさんばかりの群体の集団。

 それに対し、艦のミサイルハッチが開き、クラスターミサイルが放たれ、ある程度の数を減らす。

 だが直前に使用したプラズマ融合弾頭ではなく、通常のミサイルであったため大型の群体は倒せていない。

 残った群体に対して、ナイアのクラレントMk-Ⅱマークツーがプラズマ融合弾頭ミサイルを発射する。

 今回のは、フロントアーマーの裏側に備えられていた左右1つずつで、それがナイア機に残された最後のプラズマ融合弾頭であった。


「今ので最後だ」

『補給は……してる余裕などありはしないか』


 ミサイルによる迎撃。さらにプラズマ融合弾頭による爆発。それらを抜けてもまだ大群が来る。

 むしろ、エクスキャリバーンが一点突破を狙い突っ込み、かつ上下面および側面は超重力場によって守られている為、相手が後方から一斉に襲い掛かってきているのである。

 そして。殺到する小型群体。


『タリスマン隊! 私に続け!!』


 レジーナ達タリスマンが一斉にメガフラッシャーによる弾幕を展開する。

 それでも。すべてを薙ぎ払うことはできるはずもない。


「迎撃ッ!!」

「間に合うものかよ……」


 冷静に、客観的に、アッシュはそう呟く。

 諦観から来る呟き通り、迎撃を抜けてきた直角貝型群体が4体。エクスキャリバーンへの直撃コースを取っている。


「させるかッ!!」


 うち1つにはアロンダイトspec3が3機。その胴体を差し出してようやく止まり、他の2つはモルガナの魔弾ブリットが迎撃。

 だが、残った1つは――ローエングリン1のメインエンジンを貫通した。

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