第224話 押し寄せる波の如く
最初は固まっていたアッシュ達も、次第にばらけ始めた。
意図してやってことではない。敵から逃げるのと、互いの重力兵器の射線に入らないように、と動き回っていると自然とそうなった。
加えて。変に動けば数の暴力で圧殺されかねないのだから、常に動き続ける必要もある。
「キリがない」
そう、ハイペリオンの上に乗ったアストレアのコクピット内でベルは呟く。
Gプレッシャーライフルの連射は機体への負荷が高い。クールタイムを設けて繰り返して使用しているものの、敵の数が圧倒的過ぎていくら倒してもすぐに後続が襲い掛かってくる。
クラレント
よって、致命傷になりそうな攻撃ならば――例えば、先ほどの直角貝型群体の突撃のようなものは防いでくれるだろう。
だが。その出力はどこまで機体単体で賄えるものだろうか。
物理攻撃の威力というのは、物質の重さと衝突する速度に比例する。ベディヴィアを破壊したあの突撃を重力場で防御した場合――最悪、
『ベル機、周辺に三葉虫型群体接近。続いて古代魚型群体も確認』
「アッシュさん!」
「ああ!」
ハイペリオンが急減速をかけ、アストレアはその背から飛び降りる。
減速したハイペリオンは変形しつつ両肩と腰のビーム砲と両手のビームライフルの銃口を前に突き出し、それと背中合わせになるようにアストレアが接近。フルドレスユニットをアタックモードにし、自身等に接近してくる無数の敵をロックオンする。
「片っ端から――」
「撃ち落とす!」
閃光が放たれる。
ハイペリオンは連射。4つの砲門と両手のライフルから次々と異なる標的を撃ち抜く超高熱の粒子を放つ。
OSの補助があるとはいえ、肩に担ぐように展開した可変速ビーム砲の速度を調整しながら周辺を確認し、攻撃対象を選択しているのだから、アッシュの負担は大きい。
もう一方のアストレアはアルゴスビームによって選択した標的すべてを一斉に攻撃する。
拡散するビームである以上、まともに狙う必要もない。加えて、標的を外れたビームも何らかの群体の身体を撃ち抜いて数を減らす。
「こいつらを統率している女王の居場所はまだ割り出せないのか!!」
苛立ちを隠せず、アッシュは叫ぶ。
だがそれに対する返答はない。
つまりは、
尤も。最初からクイーンが存在している、というのも仮定の話でしかない。本当に存在するかすら定かではないものを探しているのだから、もし仮にそれが存在していたとしても、割り出すのには相応の時間がかかる。
『警告。怪獣型群体2体接近。アッシュ機直上およびベル機直下』
「ッ!!」
ビームライフルを使うために腰の後ろにマウントしていたGプレッシャーライフルを手に取り、それを真上に向けて放つアッシュ。
ベルも同様に真下にGプレッシャーライフルの銃口を向けて重力場を放つ。
上下に放たれた重力場により、怪獣型群体が圧壊する。
その様に、アッシュは違和感を覚えた。
「ベル。気のせいかもしれないが聞いてくれ」
「なんですか?」
「……怪獣型群体が圧壊するまでの時間が、さっきより少し遅かった気がする」
「まさか……重力兵器に対応し始めているってことですか?」
「だとしたら厄介なんてものじゃない……エクスキャリバーンの位置は?」
「かなり下のほうです」
大口を開いて迫る古代魚型群体めがけ、ハイペリオンとアストレアがリミッターを解除したビームソードを振り下ろす。
2つの光の刃は、重力制御から解き放たれ発振したビームが減衰する限界距離まで伸びる長大な剣となり脳天から古代魚型群体を切り裂く。
どうも、古代魚型群体の頭部はビームや実弾を無効化している、というわけではないらしく、ビーム射撃のような接触する時間が短いものは防げるが、そうではないビームによる近接攻撃は十分有効打になる。
ようするに、超強力な
『各機に通達。古代魚型タイプβ出現。警戒を』
「タイプβ……って、まさかアレか……?」
それは、全身を光沢のある鱗で覆った巨大な魚のような姿をしていた。
四肢生物の直系の祖先である肉鰭類に、その中でも比較的近年まで生息していたとされるラティメリア――シーラカンスに酷似したそれは、エクスキャリバーンよりもはるかに大きく、それに比べればソリッドトルーパーなど蟻未満の存在だろう。
それが、10体。
口を開けば、その中から今まで見た事のない形状の群体を吐き出す。
『未知の群体を確認。形状から広翼類型群体と設定』
迎撃のためのアルゴスビームは通用しているが、数が多すぎて迎撃が間に合っていない。
「ッ!」
即座にGプレッシャーライフルでの攻撃に切り替えようとしたが、それよりも先にハイペリオンが4つのビーム砲を照射モードにして放ったビームで大群を一斉に薙ぎ払った。
「ビームの通じる相手ならこっちで対応したほうがいい! 下手に重力兵器ばっか使ってると手の施しようがなくなるぞ」
「すいません、ですが……」
「そうも言ってられない、か……」
先ほど、軽く数千はまとめて薙ぎ払ったはずなのに、すでにその穴を新しく合流した群体が埋めている。
「エクスキャリバーンまで退くぞ」
「えっ!? でもこの数を連れて行ったら……」
「ソリッドトルーパーの火力じゃ捌き切れないし、そろそろガス欠だろ」
「それは……そうですね」
ビームソードを振るってできるだけ数を減らしつつ、後退を決断した2機は合流。高速飛行形態へと変形したハイペリオンはアストレアを乗せ、一気にエクスキャリバーンめがけて加速していく。
「こちらアッシュ。粒子が切れる。チャージの準備をしておいてくれ。それと、俺達のいる方向へ砲撃頼む!」
『了解。10秒後に一斉射を行う。射線を表示』
ハイペリオンのコクピットに表示されたエクスキャリバーンからのビーム砲撃の射線予測を確認したアッシュは、ギリギリのタイミングでそれに巻き込まれないような位置へと移動。
逃げる機体を追いかけていた広翼類型群体は、突如として視界から消えたハイペリオンの動きを追おうとスピードを落とす。
瞬間。エクスキャリバーンの砲門から放たれた閃光により群体の大群は消滅する。
「現状、他の機体はどうなんだ」
『各自健在。ただし苦戦中』
「……補給は急いでください」
『了解。ローエングリン2の格納庫へ着艦を』
古代魚型群体タイプβに、エクスキャリバーンの砲門が向く。
そしてその一斉射の直撃を受けるが――被弾したはずのビームははじき返され、方々へと飛び散っていく。
まるで勢い良く噴射した水をぶつけたかのように跳ね返ったビームが予想不可能な軌道で宙域に広がっていく。
敵味方関係なくその閃光が襲い掛かり、あちこちで群体が焼かれ、ベディヴィアやヴェナトルに襲い掛かる。
幸い、それなりの場数を踏んでいる者が操る機体はそのビームのシャワーにも対応し、被弾した者はいないようだ。
『だったら、これでどうだ!』
と、マコの叫びが通信機を通じて耳に飛び込んできた。
直後、エクスキャリバーンから10発のミサイルが発射された。
それぞれが古代魚型群体タイプβに向かい、それを迎撃しようとした広翼類型群体の群れが殺到するが、それを的確にレーザー機銃で撃ち抜いていく。
そして……それらすべてのミサイルはそれぞれの標的に命中し、大爆発を起こした。
『プラズマ融合弾頭だ。流石に堪えただろ』
「やりすぎだバカ!!」
「わたし達を巻き込むつもりですか!?」
『だって、アッシュ達なら避けてくれるでしょ』
「だからってな……」
言い合っても仕方ない。実際、プラズマ融合弾頭の爆発によって目標は半身を吹き飛ばされ機能を失っている。
このわずかな隙に機体の補給。あとは、その間に少しでも休息を。
でなければ、持たない。
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