第223話 不気味な水族館

 ハイペリオンのGプレッシャーライフルから放たれた重力場の塊。射程距離のリミッターを外されたそれは、勝者が続く限り伸び続け、多くのインベーダーを巻き込んで圧壊させる。

 それに続き、エクスキャリバーンからの砲撃が行われ、アッシュ達ソリッドトルーパーの周辺に敵を寄せ付けないように、と牽制する。

 同時に。各艦に搭載していたベディヴィアと量産型クラレントMk-ⅡおよびアロンダイトSpec2を量産仕様にしたアロンダイトSpec3の部隊を展開。

 それらすべてがグラビティランチャーを装備し、その制御をリオンが指揮するシスターズが艦内から行う。

 つまり――すべて無人機である。

 続けて8機のヴェナトルも出撃。こちらはアストラル体による操縦であり、その肩と前腕部に1対ずつグラビティランチャーが装備されている。

 さしずめ、ヴェナトル・キャノン、といったところか。

 全部隊展開。そしてそれらが一斉に重力兵器を使用する。


「適当に撃っても当たるんだ! 狙わなくていい!!」

「んなこと言ったって!」


 各機のレーダーに表示されるインベーダーたちに次々と識別のための名前が割り振られていく中、ナイアは背中のユニットを稼働させ片側6門計12門のグラビティランチャーから重力場を放つ。

 かすめただけでも致命傷になるそれは小型のインベーダーの群れを直撃し、それらを一掃する。


 押している。こちらの攻撃が通じている。

 その実感はある。

 だが――敵が減らない。


『ナイア機、左から古代魚型α接近。警戒を』


 リオンとよく似た声で、シスターズから警戒を促されたナイアは即座に向きを変え、グラビティランチャーを古代魚型と呼ばれる群体に向けて放とうとした。

 その容姿は、板皮類――甲冑魚と呼ばれる事もある古代魚によく似ていた。

 引鉄を引こうとしたが、思いのほか相手の動きが速い。


「ちっ!」


 さっき撃ったばかりで発射体勢が整っていなかった事もあり、ナイアは回避を選択する。

 スラスターを噴射し、大きく横へ移動。その真横を巨体が通り過ぎていく。

 と、ナイアが避けたばかりのインベーダーの身体にエクスキャリバーンから放たれたビームが直撃。大穴をあける。


「なっ……!?」

『通常兵器が通じない相手ばかりじゃない……?』

「……そうか。さっきのヤツは頭だけが頑丈なんだな」


 胴体部分だけがビームに焼き貫かれ、頑丈な頭部はすこし焦げた程度。

 部位によって攻撃の通りやすさが違う、というのは収穫かもしれない。


『各部隊小型群体に注意』

「小型群体?」

『各機のコンソールに詳細を表示する』


 シスターズが各機のコンソールに小型の群体――三葉虫型群体と名づけられたそれを表示する。

 大きさとしては成人男性ほどとかなり小さい。もしこれに張り付かれ、こちらの防御性能では防ぎきれない攻撃力を持っていたとしたら――取り付かれた時点でアウトである。


『三葉虫型群体多数接近中』

「わたしがッ!」


 アストレアのアルゴスビームが三葉虫型群体の群れめがけて放たれる。

 通用するとは考えておらず、進行速度を送らせて重力兵器の再使用までの時間を稼ぐつもりで前に出たベルであったが、実際には放ったビームによって三葉虫型群体は跡形もなく消滅していた。

 やはり、群体ごとに耐久性や攻撃力などにも差があるのは間違いなさそうである。


『怪獣型接近。タイプαおよびβ。多数接近。数、測定不能』

「んなろぉっ! 虎の子のミサイルだ、持っていけ!!」


 ナイアのクラレントに装備された追加装甲。それが展開し、中に仕込まれていたミサイルが放たれた。

 そのミサイルは、プラズマ融合弾頭を装備したミサイルであり、インベーダー相手にも一定の効果があるであろうと推測されたものである。

 事実、ここへ来る前におきたネクサスでの戦闘で、機械と融合した怪獣型群体が爆発を起こした際、その影響で怪獣型群体タイプβと識別されている群体はダメージを受けていた。

 放たれたのは四肢にそれぞれ1発ずつ仕込まれていた計4発。

 ソリッドトルーパーの装甲に仕込める限界の大きさまで小型化されているそれらは4つ同時に目標とした大群に到達。大爆発を起こし、その衝撃波だけで周辺にいた古代魚型群体の身体を吹き飛ばし、三葉虫型群体を消滅させる。


「やった……わけねえよなあッ!」


 爆発の閃光の中で揺らぐいくつもの影が大口を開いてなおも接近してくる。


『止めますッ!』


 今度はネメシスが両腕を広げ、重力衝撃砲グラビティブラストを放つ。

 照射された重力場は射線上の物体すべてを巻き込み圧壊させるが、重力場に押しつぶされる寸前に怪獣型が口から何かを吐き出した。

 それが何か、というのを考えるよりも前に、後方で何かが爆発しあt。


「誰が落とされた!?」

『有人機に被害なし』

『ベディヴィア68番機破損。戦闘続行は可能。しかし増設部の重力制御機構が破損。グラビティランチャー使用不能』

『反応アリ。回避』


 先ほどネメシスが倒した群体が吐き出したものが、大きく弧を描いてアッシュ達に迫る。

 シスターズはそれに直角貝型群体と名称を付けた。

 エクスキャリバーン側で記録した映像から切り出した画像は、確かに古代生物図鑑に載っているチョッカクガイによく似たフォルムのものが映っていた。


「弾幕を張る! あの図体なら、私の機体でもどうにかなるはずだ」


 モルガナのバックパックにある武装をすべて展開し、ガトリングガンとミサイルで直角貝型群体の行く手を阻む。


『シルル機の背後に三葉虫型群体の集団接近。フォローを』

「くそっ。こっちも手一杯だ!」


 ハイペリオンは高速飛行形態でその背にアストレアを乗せて自身等を追いかける古代魚型群体から逃げ回り、そのアストレアはGプレッシャーライフルを照射して広範囲の敵を薙ぎ払っている。

 ネメシスは、というとどうやら現在この場にいる機体の中では最も厄介であると認識されたのか、複数の怪獣型群体を同時に相手にしていて援護などできそうにない。

 ナイアのクラレントは重力兵器を使ったばかりな上、プラズマ融合弾頭の爆発範囲の問題で援護などできそうにない。

 では、無人機やアストラル体の操る機体は、というとこちらもこちらでエクスキャリバーンの直掩について重力兵器のクールタイムを補いながら敵を接近させないようにしているのでこれも無理。


「みなさん、お願いします!」


 だが、その状況でも動ける者も、いるのである。

 カリオペ・デンドロビウムの展開した16基のシールドガンビットに乗ったレジーナを筆頭としたタリスマン達がモルガナの後ろから迫る三葉虫型群体を切断。

 斬られた群体めがけて、メガフラッシャーを放って完全に焼却する。


『なるほど。小型のインベーダーには我々の攻撃でも十分通用するのだな』

「すまない。助かったよレジーナ」

「……ねえシルルちゃん。今気づいたんだけれど」

「手短に頼む」

「機体の残存エネルギーが全然減っていない」

「は?」


 モルガナは惑星エアリアで運用されているエーテルマシンとソリッドトルーパーの特性を掛け合わせた機体であり、その動力はソリッドトルーパーの動力であるプラズマジェネレーターよりもエーテルマシンとしてのエーテルコンバーターの割合が大きい。

 つまり、その機体を駆動させるのはエネルギーはエーテルコンバーターを介して霊素エーテルを変換したものである。

 だが、その機体のエネルギーが一切減らない、というのはありえない。

 ましてや、魔法的な攻撃や推進装置にも霊素エーテルを変換したエネルギーを消費するモルガナでは機体の残存エネルギーを一切消費していないというのはまずありえないのだ。


「何か理由があるとは思うが……ッ!!」


 弾幕をすり抜けてきた直角貝型群体を杖で殴打し、外殻を破壊するなりそこへ電撃を浴びせて消滅させる。


「今は考えている余裕はなさそう、だね」

「その通り」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る