第221話 陽電子砲
2体目のインベーダー。それは、明らかにインベーダーとしても異形であった。
左右に飛び出した機械的な突起。それは、宇宙海賊『ハンマーヘッド』の旗艦であるハンマーヘッド号の艦首そのものである。
その艦首の下から本来の口が生えているという姿が不気味である。
それめがけて、マコはキャリバーン号部分の主砲を操作して先制攻撃を行った。
放たれた閃光は頭部を直撃するが、元々防御力の高かったハンマーヘッド号の艦首ユニットにビームは散らされてしまう。
「ちっ。やっぱ威力が足りないか!」
攻撃に反応し、全身から元々ハンマーヘッド号に備わっていたであろう砲門を出現させ、それらをすべてエクスキャリバーンめがけて発砲した。
「シルル、シールドッ!」
「問題ない。すでにシスターズが動いてる」
状況を把握している各艦に配置されたリオンとシスターズが弾道予測とシールドの出力調整を行い、すべての攻撃に対し適切なタイミングでピンポイントでシールドを展開することにより、ジェネレーターの許容出力内で攻撃を防ぎきっている。
「実弾、ミサイル、ビーム、レーザー……マジでなんでもアリですね」
「相変わらず通信が入ってきてるが……どうする、マコ」
アッシュの問い掛けに、マコは大きなため息で返事をする。
――言わなくてもわかるだろう、と。
『回線を無理やり開けようとしてきてますよ』
「とりあえずそっちはアニマ達アストラル体に任せる。問題はこの状況をどう打開するか、だ」
インベーダー2体が急接近してくる。
1体は純粋に防御力を高めた個体。もう1体は明らかに人工物を取り込んでいる上、その反応からして『ハンマーヘッド』の首領であったモブカ・サハギンの意識まで取り込んでいるようだ。
インベーダーの生態において新たなものが発見できたが……今はそれを考察している場合ではない。
こちらが万全の準備を整えたところで、出現当初のインベーダーの防御力すら通常兵器では突破することができない。
だが、それも絶対ではない。
「シルルは各砲門の角度調節! アッシュさん、トリガーを任せます!」
「了解した」
「ベルさん、メグさんはレーザー機銃で応戦! ないよりはマシです!! アニマさんは」
マルグリットの指示に従い、各自が行動を起こす。
各砲門が一斉にハンマーヘッド号と融合した個体へ向けられ、一斉照射される。
それぞれでは足りない火力であるが、それが寸分たがわず同じポイントに放たれている。
エクスキャリバーンは4隻の戦艦が合体した合体戦艦――いや、高機動戦闘要塞である。
艦艇の持ちうる火力として、エクスキャリバーンの右に出るものはこの宇宙にはいない。
その火力が、一点集中されるのだ。ゾームの荷電粒子砲には劣るだろうが、それでも猫が引っ掻く程度の傷は作ることができる。
「照射止め! 次射用意。目標機械化部位!!」
尤も。今狙っているインベーダーに関しては機械を取り込んだことにより弱体化を起こしている。
インベーダーのみならばおそらく突破はできなかっただろう。
だが機械部位に関しては、おそらく取り込んだ艦艇の防御性能からそこまで強化されているわけではない。
事実。2度目に放たれたビームが直撃すると、その身体を閃光が突き抜ける。
『まぁぁぁこぉぉぉぎぃぃるぅぅまぁぁぁあああああん!!』
そんな断末魔がブリッジに響き渡る。
通信回線への強制介入を防ぎきれなかったようだ。
まさに最期の呪詛。それは、内側から膨れ上がり莫大なエネルギーを放出しながら爆ぜ、一瞬にして視界を覆う閃光と化した。
「っ……!? 何が起きたのですか!」
「取り込まれたハンマーヘッド号のプラズマドライブが爆発したんじゃないでしょうか」
「だとしても爆発が大きすぎませんか!?」
「おそらくインベーダーに取り込まれた関係でその出力も限界を超えた状態になっていたんだろう。でなければ、あの距離でプラズマドライブの波長を検知するなんてことできやしないからね」
残るは、防御力を強化したインベーダー。
こちらには先ほどのようにビームの集中攻撃によって突破するなどという事はおそらくできない。
「それはとそうと、だ。問題が発生した」
「問題? ……あッ!?」
シールドジェネレーターが落ちた。
原因は勿論、規格外の出力で動いていたプラズマジェネレーターの爆発の衝撃波から艦を守ったからである。
ただの爆発程度ならばそんなことになることはない。
それだけ、その爆発の威力がすさまじかった、ということである。
それを至近距離で受けていたはずのインベーダーは、というと――体表が少し焼けた程度で、すでに再生が始まっている。
「つまり、ここからはマコの腕次第ってことだ」
「うーわ。責任重大。でもさ、そっちこそアタシの操縦についてきなよ!」
マコが操縦桿を握りしめ、各種の設定を操作。それが終わるなり、エクスキャリバーンは一気に加速する。
キャリバーン号の時は問題のなかった行為であるが、エクスキャリバーンともなると複数の艦艇がドッキングしたその独特の形状故に空気抵抗の影響をモロに受ける。
真空ならば問題もないだろうが、この宇宙には霊素が満ちている。
それが、わずかながらではあるが抵抗を生じさせ、この空間を飛び交うものすべてに影響を及ぼすため、マコのこの行為は本来ならば空中分解待ったなしの自殺行為である。
だが、それをイナーシャルキャンセラーによる慣性の中和。
今やエクスキャリバーンは、超大型の宇宙用戦闘機と化している。それも、世界最速の、である。
「ミサイルと実弾は使わないで。無駄弾になります」
「それじゃあ、レーザーでいってみようか!」
メグがレーザー機銃のトリガーを引き、眼前のインベーダーめがけて連射する。
貫通力を持つほどの集束率を持つそれは高温を伴ってその外皮を焼くが、貫くには至らない。
「嘘でしょ!? 流石にレーザーが利かない生物なんて……ああ、いたわ。身内に」
「ですが、タリスマン達にも限度はあります。それはあちら側も同じのはずです」
ベルも副砲を使って攻撃を行うが、それも大したダメージにはならない。
ビームも駄目。レーザーも駄目。実弾は当然利かない。
ならばどうすればいいのか。
重力兵器――は今は駄目だ。これを早々に使って、相手に耐性を付けられるのは避けたい。
「ッ! シルル。陽電子砲のスタンバイを!」
「ああ、そうか。あれならば!」
マルグリットの狙いを察したシルルはすぐさまシスターズと連携して艦の両サイドに連結したローエングリンへのアクセスを行う。
ローエングリンの艦首周辺に取り付けられている超高出力の陽電子砲――陽電子砲では呼びにくい、また装備を増設した際に場所を口頭で説明するのが面倒だという理由で『カラドヴルフ』と名づけられたそれを起動させる。
これも一応、インベーダーに通用するとされていた兵器の1つである。何せ、陽電子は反物質の一種であり、被弾すれば問答無用で吹き飛ばす。
それだけではない。反物質ということは、大気中に存在するあらゆる気体にも反応する。それ故に、地上では使えない装備であり、今まで出番はなかった。
だが。宇宙空間ならばそこを気にする必要性はない。遠慮なく、使用できる。
「照準セット完了。アッシュ、やってくれたまえ!」
「トリガーは俺かよ!! だが、任されたッ」
アッシュがトリガーを引く。
エクスキャリバーンの両舷から展開された陽電子砲の砲門から放たれる閃光。
その閃光はインベーダーを直撃し、その身体を跡形もなく消し飛ばした。
同時に、エクスキャリバーンの前にゲートを出現させる。
「跳び込めマコ!! 今のキャリバーンにはシールドがない!!」
「そうだった。了解したッ!!」
陽電子砲が着弾したことによる衝撃波。地球にいたころの人類史において最強の核爆弾の爆発にも匹敵しうるほどの衝撃波を無防備なエクスキャリバーンが受けては耐えることができず、まるで逃げるかのように、エクスキャリバーンの一行は敵地へと飛び込んでいった。
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