第219話 『攻める』という選択肢
惑星アクエリアス周辺宙域に最初のインベーダーが出現した3日後、サンドラッド周辺宙域に同種のインベーダーが出現。
これに対し、惑星エアリアからオームネンドを複数派遣しこれに対処。肉片は空間制御により回収し、ネクサスへと持ち帰って重力兵器による処理を行った。
さらに3日。今度はレイス、ウィンダムに出現。これにもオームネンドを派遣して対処。同様の処理を行う。
そしてさらに3日。今度は4つの惑星宙域に出現。これにも同様の処理を行う。
「……これ、次はどっちだと思います?」
「2倍ずつか乗算かって話? 私は2倍であってほしいと思うけれど……」
「俺は16だと思う」
「だよねえ」
ネクサス本星の官邸に集められたエクスキャリバーンの主要メンバーたちは、インベーダーの動きが活発になってきたことで、本格的に対策を打つ必要が出てきた。
現状、オームネンドによる対処ができているが、その数にも限りがあり、この宇宙すべての惑星に対してその防衛網を構築するのは不可能。
ならば人のいる惑星に限れば――という話でもない。インベーダーがもし惑星に定着してしまえば、単細胞生物であるそれらが爆発的に繁殖し、そこを新たな巣として他の惑星へとその侵略の手を伸ばすであろう。
故に。ネクサスはすべてのインベーダー出現情報に対応する必要性がある。
現在3回。その度に出現するインベーダーの数は増えて行っている。
問題死すべきはその増え方と――出現する度に討伐までの時間が増えていることである。
「まだたった3例。されど3例。直接の国交がない惑星にまで派遣した――というのはまあバレてはないか。アタシ達がオームネンドを運用できることは同名惑星以外には伝わっていないはずだし」
『ですが、エアリアからオームネンドが各地に派遣されていることは、そろそろバレてもおかしくはないですけどね』
「実際、シスからの報告では空間跳躍中にその空間へと侵入しようとする存在を確認したらしい」
「それって……まさかとは思うけど、あの時の連中では?」
あの時の、とはサンドラドを脱出した一行がネクサスへとたどり着くことになった、ハイパースペースまで追いかけてきていた艦艇のことだ。
結局、あれに関しては船籍がアクエリアスの物であるという事以外ろくな情報を得ることができずじまいであり、一応はアクエリアスの海底遺跡の重力場を突破するためにネクサス――当時はまだ『燃える灰』の持つ重力兵器を狙っていたと結論付けたが、どうやら違っていたようだ。
「尤も確証はない。それよりも、今までと同じペースだと次の襲来まであと36時間しかない。そして、討伐時間から計算した1か所のインベーダーに対して必要となるオームネンドの数と、出現固体の増加ペース。そして稼働させることのできる最大数からして、あと5回出現すると対処不能になる」
3日ごとにどこかに現れるインベーダー。そしてその度に宇宙全体での出現数は増える。
それがあと5回で、対処不能となる。つまり、あと13日と半日。それが、それまでの間に対応しきれないと、重力兵器を持たない惑星が滅びる。
重力兵器を持っていたとしても、倒し切れるかどうかはわからない。
いや、そもそも。現状はまだ単独での出現である。
ミスター・ノウレッジの話では、億単位で出現することもあるという話。
これはまだ始まりに過ぎないのだ。
『あちらが現れる場所の逆探知はできているのか?』
「一応はある程度の推測はできている。だからこそ、我々は残り時間でその本拠地を突き止めそれを制圧する」
と、レジーナの質問に対し、シルルはそれに対する回答だけでなくとんでもない事を言い出した。
だが、その発言に驚きはするが、それを否定しようという人間はいなかった。
「現状判明している情報と僕の推測を混ぜるけれど、インベーダーは単細胞生物でありながら群体となることで多細胞生物のように多彩な形状を取る生物だ。そして1万2000周期――要するに1万2000年ごとに出現する、というのは個体数の回復を待っているから」
『そして、各惑星に1体ずつ現れるのは、その惑星の脅威度を把握しようとしているから。億単位での出現もあり得るのは、単細胞生物であるから故だ』
と、メグに続いてミスター・ノウレッジが推測を口にする。
『加えて。億単位の個体をコントロールできる理由として、それを統括する存在がどこかにいる、と我々は推測している』
「人工知能が推測、ねえ」
『何か問題があるかね? マコ・ギルマン』
「いいや。ずいぶんと人間らしいな、と」
『それは光栄なことだよ。永い時を経て、ただの機械である私は、人間のような感情を獲得したということだからね』
「……話を戻すよ。さっきもミスターが言ったように、インベーダーは単細胞生物で、同族と高度な連携を取ったり統率のとれた行動をしたりする点からして、インベーダーには我々の使うハイパースペースリンクと似たような能力を持ち種族全体で巨大な脳を形成しているのではないか、と僕は推測した。その推測の裏付けが欲しいが……インベーダーがオームネンドに倒される度に弱化強化された個体が送り込まれている以上、間違いなく統率者――
メグはそう説明する。それは、彼女自身が語りだす前に言った通り宇宙生物学者としての推測も含まれている。
熟考して、可能性をすべて想定して、現状揃っている情報と照らし合わせて、可能性を絞って推測していった結果、そういう見解に至った訳だ。
正解かどうかは問題ではない。
むしろ問題なのは、メグの推測が一切間違っていない事実であった場合のほうだ。
単細胞生物でありながら、群体となる事で多細胞生物のような姿をとり、かつ驚異的な学習能力で戦闘力を向上させる敵。インベーダー。
もしそれがメグの言う通り、ハイパースペースリンクと似たような方法で仲間同士で情報の共有を行っていたとしたら、どの戦場でも不用意に力を使えばその情報を持ち帰って対策される可能性がある、ということである。
加えて。それらを統括し、全群体から送られてくる情報を自身のグループすべてに中継し、全体としての意思を決定するクイーンとなる群体も存在している可能性もある。
逆に言えば、このクイーンさえ倒せてしまえばあとは何とかなる可能性が高い、ということだ。
そのために、インベーダーがどこから送り込まれたのかを調べ、そこへ乗り込んでしまおう、という事を誰かが言い出すの自然の流れだったのかもしれない。
もしシルルが言わなかったとしても、アッシュやベルあたりはそう言いだしたかもしれない。
「最悪、クイーンが存在せずとも、巣はそこにあるはずだ。それを直接叩き、インベーダーを根絶する」
『しかし、そんなことが可能なんですか?』
『可能だ』
と、アニマは不安そうに尋ねた。だが、それに対して回答したのは、ミスター・ノウレッジであった。
『過去の時代は、インベーダーという存在について理解が進んでいなかった。それ故に防戦に徹してしまい、それらを撃退するに留まった。だが、始祖種族にとっては最後の――つまり、前回の接触においてインベーダーという存在についての情報を残し、それを現代を生きる者たちが解読。得られた情報から今度はこちらから打って出ようとしている。ならば、こちらの手を晒して強化される前のインベーダーならば勝機は十分にある』
「……ちょっと待てよ、ミスター。今の言葉だが」
『何かな。アッシュ・ルーク』
「それはつまり、下手に重力兵器で倒すとそれにすら対抗してくる可能性が高いってことか?」
『肯定だ』
当然ながら、その場の空気は凍り付いた。
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