第208話 交わる閃光、終わり告げる刃

 互いに放つは、光の剣。

 ロンゴミニアドが蹴りと同時に放たれる長大なそれを避けつつ、ハイペリオンは手に持ったビームソードの出力を上げて突き出す。

 突き出された剣を踊る様な動きで回避し、振り返りながら腕からビームを乱射。

 放たれたビームを左腕のビームシールドで防ぎ、手に持っていたビームソードを放り投げてライフルに持ち替え、それを発砲。

 一筋の閃光を回避して再度蹴りを放つために脚を振り抜こうとした直後、ライフルを腰に戻しつつ放り投げたビームソードを掴んだハイペリオンが加速。一気に距離を詰める。


「ッ……!」


 振り上げようとしていた脚を叩きつける用に地を蹴り跳び上がるロンゴミニアド。

 機体は推進器を全開にして上昇し、ハイペリオンの頭上を通り過ぎた。

 それにより突進と同時に横一線に振りぬかれたビームソードは直撃することこそなかった。

 が、その高熱はロンゴミニアドの装甲表面を焦がす。間一髪、というやつである。

 右脚から着地し、それを軸に反転。即座に胸部のビームを一斉に放つ。

 その攻撃を、ハイペリオンは地上にいるというのに変形。地表スレスレまで降下し、攻撃を避けるとそのまま加速しながら正面を向いた砲門すべてからビームを放った。


「邪魔をしないで、アッシュ!!」


 ロンゴミニアドは両手を前に突き出し、その閃光すべてを受け止め、拡散させる。

 それは装甲による防御でもないし、対ビーム用装備によるものでもない。

 重力制御機構グラビコンによる重力場操作。それによってビームの軌跡をねじまげ、防いだのである。


「だがァッ!!」


 ハイペリオンはそのまま重力場を展開しているロンゴミニアドに突っ込んだ。

 その機首部分となったビームシールド周辺には重力場が生成。それによって互いの重力場が干渉し合い、物理的な接触をしたときのように、ロンゴミニアドがくの字になりながらハイペリオンに押されて後退る。


「アッシュッ!!」


 両手でハイペリオンを押し返す。

 全推力を使ってそのまま押し込もうとして来るハイペリオンのビーム砲が一斉に光る。

 その状態であってもビームはねじ曲がり、明後日の方向へと飛んでいく。本体にダメージは与えられない。

 が、意味がないわけではない。

 重力制御には膨大なエネルギーと相当な演算処理が必要になる。そこに負荷を与え続ければ、当然ガス欠なり処理限界なりが訪れる。


「アルビオンッ! 何故お前は、こんなことをする!」

「何故? そんなことは、決まっているじゃないか! ワタシのためだ!」


 重力場を纏ったサマーソルトキックが、ハイペリオンの機首部分を蹴り、機体を弾き飛ばす。

 飛ばされたハイペリオンは空中で変形し、姿勢を整えてライフルの銃口をロンゴミニアドに向ける。


「お前は、自分のためだけに世界を、宇宙中を巻き込んでッ!」

「そう。宇宙全体を巻き込まなければ、ワタシの願いは叶わない! ワタシの願いを叶えるためには、それが必要だから!!」


 2機が同時にビームを放つ。

 互いの放ったビームは真正面から衝突し、まるで花火のように眩い閃光と共に周囲に高熱の粒子をまき散らす。

 それは互いにとっての目隠しとなるが、2機はまるでその閃光が合図であったかのように飛び出し、右旋回をしながら距離を取りビームを撃ち合う。

 互いに当てるつもりで攻撃しているが、同時に当たるわけがないと理解している。

 万が一命中するような場所に攻撃が飛んできても、軌跡が解っている攻撃では重力場がそれを防ぎきってしまう。

 ならば、どうするか。

 攻撃位置を予測して重力場を展開できない近距離戦闘である。

 旋回していたハイペリオンがグンッ、とほぼ直角に加速して距離を詰める。

 いきなり軌道をが変わったことで反応が遅れるアルビオンだが、ほんの僅かなズレを修正するかのように両腕からビームを照射し、それを振り回すことで動きを妨害する。

 が、ハイペリオンは急制動し、垂直方向へ加速。

 それを追いかけるように腕を動かそうとするが、ハイペリオンの動きについていくことはできていない。


「世界を破壊してまで、お前の望むものはなんだ!」

「それはねえ、アッシュ。君だよ!」


 背後をとったハイペリオンがビームソードで斬りかかる。

 が、ロンゴミニアドはその腹めがけて蹴りを放ち、見事に命中させて吹っ飛ばし、距離が開く。


「ワタシは君が欲しい。君のすべてが!」

「ふざけてるのか!」

「大真面目さ。けど、そうするためには……」

「……?」


 声のトーンが変わった。その一瞬、アルビオンから戦意が消えた。

 それを感じ取ったアッシュは違和感を覚えるが……すぐにロンゴミニアドがミサイルを放った為その対処に動く。

 自身に迫るそれらを両肩に展開したビーム砲を連射モードにして迎撃。

 空中で爆発するそれらに紛れロンゴミニアドが迫る。


「このままでは、アッシュが死んでしまう。世界がバラバラなままじゃ、みんな死んでしまう」

「ッ!? お前、まさか……」


 何も聞かされていなかったのならば、アッシュはその言葉の意味を考えもしなかったし、当然気付くこともなかった。

 だが、気付いてしまった。

 気付けてしまった。


「さあ、戦ってよアッシュ。ワタシと、本気で」

「お前は、それでいいのか……」

「数多の惑星を食いつぶし、多くの人間を不幸にした大罪人。世界を裏から操ろうとした大悪党。それを倒す英雄は、アッシュ。君だよ」


 アルビオンの言葉は、繋がっていない。

 滅茶苦茶な事を言っている。それは、アルビオンとしての感情とアリアとしての感情が混ざり合った結果吐露された、心の叫びのようにアッシュには聞こえていた。

 何故こんなに残酷なことを選んでしまったのだろうか。そう、問い質そうにも、きっと相手は答えない。

 ロンゴミニアドはただ静かに脚を振り上げる予備動作をする。


「……このバカ野郎が」


 それに対し、ハイペリオンは両手にビームソードを握りビームを発振させるなり、飛び出した。

 同時に、ロンゴミニアドの脚が振り上げられ、光の剣が天へ向かって軌跡を描くが――その軌跡は、空を切った。

 ハイペリオンの持つ2つの光の剣はロンゴミニアドの胴体を切り裂き、上体が荒れ果てた大地へとズレ落ちていく。

 だがまだコクピットブロックは――カムランは無事。

 このままでは、すぐに反撃が来るだろう。

 地面に横たわる機体に接近し、アッシュは無言で光の刃を向けた。


「アリア。お前は優しすぎるんだよ。だから、そんなに壊れて……」

「ああ、これで……ワタシは……」


 刃は、機体を切り裂いた。

 ウロボロスネストの首領たるアルビオンの機体、ロンゴミニアドはここに討ち取られたのだ。



 ロンゴミニアドの反応が消えた。その瞬間に、エクスキャリバーンを包囲していたベディヴィアの動きが止まって着地。ヴェナトル達も膝から崩れて大地に横たわる。

 戦意喪失。そう言えるような状況に、マルグリットは困惑する。


「何が起きたんでしょうか……」

『わからない。だが、すでに彼等は戦う意思がない、と見える』


 と、ミスター・ノウレッジは分析する。

 そのタイミングでコクピットハッチを破損したアストレアが帰還する。


「これは、一体……」


 異様な光景に、言葉を失うベル。

 だがそれに対しての答えは、意外な人物からもたらされた。


「オレたちの負けだ。降伏する」


 そう言うのは、ネメシスに捕縛された状態のガラティンに搭乗するナイア。

 先ほどまで敵対していた人物からの、まさかの降伏宣言に、目を丸くするマルグリット達。


「それと、ベディヴィアの回収を頼む。アレは、有人機だ」


 気付けば、すでに戦闘はどこでも起きていない。

 この戦いは終わった。ただ静かに、破壊しつくされた街並みだけがそこにあった。

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