第206話 魔弾

 見方からの攻撃を受けた、と混乱するリオンであるが、すぐに状況を把握する。

 いくらリオンがナイアにとって邪魔な存在であるとはいえ、彼女がこの状況でリオンを攻撃するということはありえない。

 そんなことをするような人間ではない、とリオンは理解している。

 故に。即座に答えに至る。

 ――ガラティンは敵の手に堕ちた、と。


「なにを、したの……」


 同時に、湧き上がる怒りを眼前の敵たるモルガナに――それを操るシルルに向ける。


「やり方が汚いって言いたいのかい、お嬢ちゃん」


 そう、眼前の敵は言い放ち、手に持った杖の先をヴィヴィアンに向けて迫る。

 ガラティンの12連装高出力ビーム砲の直撃を受けて足が止まったことで追いつかれてしまったのだが、コンテナユニットを稼働させ、振り下ろされたそれを受け止める。


「バカ言うんじゃあないよ。これは戦いだ。正々堂々なんてものが通用するのは試合だからだ。命のやり取りをする戦いで、綺麗も汚いもあるものか」

「この……!」


 杖での攻撃を受けながら、コンテナからミサイルを発射。

 それらはヴィヴィアンから左右に向けて広がるように飛び去り、大きく弧を描いて方向転換。モルガナの背後から襲い掛かる。

 が、その背中に装備された大型ユニットが稼働。ガトリング砲を露出させ、ヴィヴィアンが発射したミサイルを迎撃していく。


「悪いけれど、こっちは後ろにも目があるんでね」

「それ僕の責任重大だよね?」

「めんどう」


 コンテナユニットを稼働させる出力を上げ、モルガナを弾き飛ばすと、今度はビーム砲を展開。即座に発射する。

 が、それを左手を突き出して発生させた力場によって防ぎ、反撃と言わんばかりに右腕を突き出す。


「攻撃術式・魔弾ブリット!」

「っ!?」


 淡い光の塊がモルガナの右腕から放たれた。それをコンテナユニットで受け止めるが、衝撃を殺しきれずバランスを崩して地上へと落下していく。

 即座に機体を浮かせている重力制御機構グラビコンを調整し、地面と衝突する寸前に姿勢を調整。両脚をしっかりと大地につけて着陸。地面を削って後退りしながら減速し、速度がゼロになった途端に再加速してモルガナに向かっていく。

 コンテナユニットの配置を切り替え、今度はブレードを展開する。

 純粋なブレードではない。単分子で構成された刃の突いたベルトが回転して対象を切断する、チェーンソーのような単分子カッターである。

 物質であるのならば、その単分子カッターで大抵のものは切断できる。


「なんとぉッ!」


 左腕から発生する力場が、その刃を受け止める。


「今だ!」


 瞬間。モルガナの背部のユニットからミサイルが発射され、それが先ほどヴィヴィアンが行ったのと同じように、大きく回り込んで背後からヴィヴィアンに襲い掛かるような軌道を取る。

 背面からの攻撃にはコンテナユニットの素の防御力だけで十分耐えきれる。

 だが、その衝撃からパイロットであるリオンが守られる訳ではない。

 カメラを切り替え、背部から迫るミサイルをすべてロックオン。それらに対して迎撃のためにミサイルを発射。

 迎撃に成功するなり、再度単分子カッターで斬りかかる。

 くるくると周り、踊るような動きで。何度も何度も攻撃。

 それをすべて左腕から発生する力場が防ぐ。


「もう1発ッ、魔弾ブリット!!」

「続けて撃つよ」


 右手を突き出しつつ、また淡い光が放たれ、それによりヴィヴィアンが弾き飛ばされる。

 そこへすかさず、背部のユニットがビームランチャーを展開。それがバランスを崩したヴィヴィアンめがけて放たれた。


「うあっ……」


 コンテナユニットのビームコーティングでなんとか防げたが、本体に直撃していれば勿論撃墜されていただろう。

 それよりも問題なのは、モルガナの右腕から放たれる光の塊。

 一見すればビームのようにも見えるが、それにしては弾速が遅い。加えて被弾時の衝撃が、ビームを防いだ時のそれとは大きく異なっている。


「あれはまるで、えねるぎーをそのままぶつけられているような」


 思考を巡らせ、その答えを探す。

 実弾でもない、ビームでもない。当然レーザーでもない。だったらあれは何なのだ、と。

 だがすぐに、その答えに行き着く。

 この世界に存在する、科学とは異なる技術体系。


「まさか、じゅんすいなまりょくだん……?」

「おや、気付いたか。けど、タネが割れても、対向のしようはないだろう? この科学全盛の時代に、魔法どころかそれよりももっと根源的なものに対処できるはずもないしね!」

「ハイテクが進めばローテクの利点が出てくるってことかなあ」

「メグ、うるさいよ」


 モルガナの持つ杖が光る。

 ここから先は遠慮はしない。そう宣言するかのように。

 機体の周辺に展開される岩塊、氷塊、火球。

 それらが一斉に放たれヴィヴィアンに迫る。

 機動兵器戦とは思えない異様な光景ではあるが、その攻撃が命中すればどうなるか、リオンにはわからない。

 通常の防御機能でそれらを防ぎきれるのか。明確な形をもって襲い掛かるそれらに対し、どう対処すればいいのか。

 そして彼女は思い出す。アクエリアスでの戦闘の事を。


「あのときのあれも、もしかして……」



 魔法を連発するシルル。それを避けるリオン。

 一見すれば、シルルが優勢だが、魔法の行使にはどうしても脳の処理能力を使用する。それに気づかれれば形成は逆転しうるが――それを補うのが、OSともう1人のパイロットであるメグの存在だ。


「ねえ、アクエリアスでやったアレできないの?」

「プロヴィデンススフィア? できなくはないけど、相手の動きを止めなければあんなの当たらないし、ウチのトップはできるだけ死人を出したくないと言っていてね」

「それは敵も、って話?」

「そ。まあ、殺し合わなきゃいけない連中は言われても殺し合うんだろうけどね」


 杖をかざして火球・氷塊・岩塊の順番で精製。直後にヴィヴィアンめがけて発射する。

 機関砲のような速度で放たれるそれらをヴィヴィアンは避け続ける。

 その理由を、シルルは理解できている。

 2発命中させた魔弾バレット。それが土塊や火球のような物質に変換する前の、純粋な魔力とも呼べる状態の塊であると理解したリオンはまともな防御を捨てた。

 それは、彼女の機体の防御機能ではそれを防ぎきれるかわからないから。

 アクエリアスでの戦闘では、直撃しなかったプロヴィデンススフィアと名づけたあの攻撃以外はすべて魔法である。

 その魔法は、結局のところ霊素エーテルをエネルギー変換し、さらにそこから各属性に変換したもので、それらは発生こそ魔法であるが、物体に干渉する際には物理現象となる。

 だが、モルガナの右腕に仕込まれた攻撃術式・魔弾バレットは、それよりもより根源的な状態。

 霊素エーテルが極限まで圧縮された状態で、何か物理的に干渉する際には、物理現象以外のものが発生する。

 それはすでにこの宇宙から消えて久しい現象。同時に、モルガナの兵器としての最大火力である両肩のエーテルブラストが攻撃力を持つのと同様の現象。

 極限圧縮された霊素エーテルが何らかの刺激を受けて爆発のような現象を起こす現象。これを魔導的爆発現象マナバーストと呼ぶ。

 ただこの極限圧縮された状態の霊素エーテルなど、まず自然では発生しえない。

 現代においては、それを扱える兵器も失われて久しい。

 だが、ここに1機存在している。


魔弾バレットはあと6発使える。それで無力化出来ればいいけれど……」

「そうでなかったら?」

「特大の一撃をぶっ放す。ただし、今度はあの時とは違う。全力全開のを、だ。幸い、周辺被害はもう気にする必要はなさそうだしね」

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