第205話 クラックアンカー
エクスキャリバーンとソリッドトルーパー部隊、アッシュ・ベルとアルビオン・アズラエルとは離れた場所で、アニマとナイアの戦闘は繰り広げられていた。
ガラティンの背中の翼から放たれる閃光が大地を切り裂き、その合間をネメシスが地表を滑るように駆け抜けつつ、脚部の追加装甲に装備されたマイクロミサイルをガラティンめがけて放つ。
「チィッ!」
ビームの照射をやめ、両腕に内蔵されたビームガンを連射してミサイルを迎撃しつつ回避運動を取る。
その際、砲身にもなる翼を稼働させて姿勢をコントロールし、最低限の動きでミサイルを回避。そのまま急降下しながらビームガンでネメシスに襲い掛かる。
『そんなものッ!』
ガラティンが腕を向けたのを確認し、左腕に装備されたビームシールドで放たれたビームを受け止める。
腕に対してやや小さめなのは、そのシールドが本来はクラレントのものであるからで、防御面積も機体に対してはやや小さい。だが、その性能は折り紙付き。
ビームに対しては自身の展開するビームよりも出力が低ければ問答無用で受け止められ、事実ガラティンのビームは問題なく受け止めることができた。
防御だけでは終わらない。
突っ込んでくるガタティンに対し背部のクラックアンカーの基部に取り付けられた60ミリ無反動砲で反撃。
それをガラティンは、急上昇して回避し、上空から12門のビーム砲から閃光を放つ。
流石にそれはビームシールドでは受けきれない。
とはいえ回避行動も間に合うようなタイミングではないが――ネメシスには可能であった。
機体の上方に重力場を展開。その重力場によって捻じ曲げられたビームはまるで花を咲かせるかのように四方八方へと散り、地面を焼いた。
「厄介な機能持ちやがって! だが、それもそう連発はできねえよなあ!」
重力場の展開には、相応のエネルギーを使う。
クラレントの時点で機体を飛行させながら展開することができていたが、それでも短期間に何度も使えるものではない。
すべてのクラレント
連続して防御に使えば、パワーダウンを起こす。
事実、実機テスト時にハイペリオンとアストレアがビームの連発と重力場の生成を短期間に行い、墜落しかけるという事態を起こしている。
当然、ネメシスもそれは例外ではない。
『全く……鬱陶しいッ!』
「それはこっちのセリフだブリキ野郎!」
ガラティンの背中にある12門のビーム砲が一斉に閃光を放ち、そのすべてを1か所に集中させる。
それに対抗するように、ネメシスも両腰のサイドアーマーからパイルを地面に突き刺し、右腕に装備されたロングレンジビームライフルを構えると、最大出力でビームを放った。
両者が攻撃を放ったのはほぼ同じタイミング。閃光は真正面からぶつかり合い、周囲に超高熱の粒子の雨を降らせる。
「おいおい、嘘だろ……! なんて出力してやがるんだ!」
『重力兵器を運用するのだから、それ相応にジェネレーターも強化されている!』
とはいえ、次同じことができるか、というとそれは無理がある。
機体のほうは無傷でも、最大出力でのビームの照射というのはかなり武器に負荷がかかる。
次も同じようにすれば、今度はライフルが吹き飛びかねない。
姿勢を固定していたパイルを引き抜き、ネメシスはバックステップで間合いを調整。無反動砲とミサイルでガラティンを追い払おうとする。
ガラティンはその弾幕の中をすり抜け、翼のビーム砲を稼働させてミサイルの迎撃とネメシスへの攻撃を同時に行う。
ビームの攻撃を回避しつつ、アニマは必殺の一撃を放つタイミングを伺う。
重力場による攻撃を行えば間違いなく一撃で仕留められるだろう。
だが、それを感知させる可能性がある以上、確実に攻め込めるタイミングを狙うほうがいい。
それに、だ。
「何を狙ってるか知らねえが、そう簡単にやられるかよ!」
『ッ……!』
通常推進で機体を浮かせ、離陸するネメシス。その際も無反動砲による牽制を行い、回避するであろう方向へ
「ンッ!?」
が、それを察したのか、ガラティンはアニマの予想とは異なり、その場で静止して機体の前面を守るように背中のビーム砲を稼働させてビームを照射。自身に迫る弾丸をすべて焼き切った。
「重力場の異常を検知……なるほどなぁ! 避けてたらそれに巻き込まれて潰されてたってワケだ!」
だが、直後。ナイアは背部からの衝撃を受け、激しく揺らされ驚愕の表情を浮かべる。
何が起きたのか。それを理解できず、ただ困惑。そして……メインモニターにノイズが走り始める。
「何だ、何が起きて……!」
システムが乗っ取られ始めている事に気付くが、その原因となる背部の異常は何なのかと、機体後部を確認するカメラを起動。
そこにあるのは……まるで槍のようなパーツ。それは間違いなく目の前にいるはずのネメシスから放たれたものだ。
だが、いつ。どのタイミングで。
『目の前に集中しすぎですよ』
「何を言って……? まさかッ!?」
だがそれはプランA。当然それが失敗する可能性も考慮されている。
プランB。ある意味こちらが奥の手。本命である、クラックアンカーによる敵機のシステム掌握である。
ただし、クラックアンカーの使用は眼前で行えば当然警戒される。
だからこそ目視できないような、死角から攻撃する必要があった。
タイミングとしては、ガラティンがビームで前面を塞いだ時。
その時にクラックアンカーを射出し、自身で展開した
こうなってしまうともう相手がどれだけ重武装であろうと関係ない。
相手が巨大な艦船や要塞などでもない限り、そのシステム掌握はあっという間である。
「てめぇ……! まともに戦う気はねえのか!!」
『この機体でまともに戦えば、必要以上の被害を出しますからね』
「必要以上の被害……? すでに廃墟じゃねえか!」
『本気でやれば、これよりも広い範囲を吹き飛ばせる、と言っているんです』
「なっ……!? そんなのが、ソリッドトルーパーに搭載されてるってのか? バカじゃねえか!!」
『それに関しては否定しづらいですね……』
システムの掌握が終わり、ガラティンの四肢が力を失ったように垂れ下がり、ゆっくりと降下していく。
当然ながらハッチを開くこともできず、ナイアはコクピットに閉じ込められる恰好になる。
『ちょっと借りますよ』
「は? 一体なにを……」
その直後、ガラティンがナイアの意思とは無関係に動き出し、その背中のビーム砲を稼働させる。
瞬間。何を使用としているのかを理解するナイアだが、当然どうすることもできない。
『ターゲットロック。全砲門、発射』
12門のビーム砲が放たれる。
その閃光はすべて、彼方で交戦中の腕のないソリッドトルーパーに向けられていた。
◆
空を駆けるヴィヴィアンと、それを追いかけるモルガナ。
互いに攻撃を仕掛けるような素振りは見せず、時折思い出したかのように短い攻防を行う。
ビームやミサイルが飛び交うが、その回数は極めて少ない。
「シルルちゃん、止まって!」
「ッ!?」
だが、その均衡を打ち破る閃光が彼方から飛来する。
メグの叫びに反応し、機体をとめたシルル。その眼前でヴィヴィアンが12本の閃光に撃たれるのを目撃する。
それは、明らかに敵機の攻撃によるもの。一見すれば同士討ちであるが――そうではないのだ、とシルルは瞬時に理解した。
「そうか。アニマか」
一方、閃光に飲まれたヴィヴィアンであるが――その中から無傷で現れた。
「なに……?」
味方から撃たれた事で混乱し、機体の動きを止めるリオン。
ビームの直撃を受けても無傷なのは、その機体を覆うコンテナユニットの防御性能だろう。
だが、動きが止まったことで一気に状況が変わる。
「おにごっこはおしまいだ、お嬢ちゃん!」
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