第204話 光の剣

 アストレアを乗せたハイペリオンが地上にいる2機の大型ソリッドトルーパーを見下ろす。

 ロンゴミニアドとタイラント・ルキウス地上から撃墜しようとビームを放つ。

 そのビームの雨の中を縫うように飛び、射角をロンゴミニアドに合わせるハイペリオン。

 その4つのビーム砲が閃光を放つ直前に、タイラント・ルキウスがその射線上に割り込みまたしても左腕から円形のビームを展開してビームを受け止める。


「……さっきもだがアイツ等の機体、おかしいな」


 攻撃を終えるとさっさと急上昇して再度攻撃するハイペリオンのコクピットでアッシュは呟く。

 先ほどのロンゴミニアドとの戦闘において、ハイペリオンは重力場ごと蹴られたり、押さえつけられたりした。

 だが当然ながらそんなことを普通の機体ができるわけがない。やろうとしても、重力場に触れた瞬間その部位が破損する。

 できるとするのならば――あちらも重力場を生成し、こちらの重力場にぶつけてきている。

 それに、タイラント・ルキウスの左腕の防御装置。

 あれに関してはビームを放射状に展開して盾としているのだ、というのはわかる。

 だが。なぜあそこまで完璧なコントロールができている。

 現状、ビームを一定範囲に制限して固定する技術は、重力制御機構グラビコンを搭載している機体に限られ、それ以外の機体では不可能なはずだ。

 だが、タイラント・ルキウスにはそのようなものが搭載されている、といった雰囲気はない。そもそも、重力制御機構グラビコンをソリッドトルーパーに搭載すること自体がシルル・リンベの技術あってこそだ。


重力制御機構グラビコン以外の方法でそれをできるとすれば……」

「始祖種族の技術、ですかね」

「だろうなあ。でなけりゃ……アイツは飛んでくるだろうし」


 空にいる限り、ロンゴミニアドとタイラント・ルキウスは近接攻撃を仕掛けてくることはない。ビームによる攻撃も回避できるし、最悪重力場で防げる。

 かといってこのまま空に居続けてもさっきのようにタイラント・ルキウスに割り込まれて攻撃を防がれるのだから決定打にならない。

 できるだけ早くこの場をどうにかしてアニマやシルルの援護に向かいたいが、まずは目の前のことを何とかしなければならないと、思考を切り替える。

 だがどうやってあの防御を突破する。


「アッシュッ!!」

「ッ!? 降りろベル!」


 ロンゴミニアドがビームを照射しながら蹴りを放つ。

 そのビームを避けるためにアストレアに機体をわざと蹴らせてバランスを崩して高度をさげ、その薙ぎ払いを回避。

 そのまま落下しつつ変形し、ビームライフルで姿勢を崩したロンゴミニアドを攻撃しつつ着地。

 ロンゴミニアドのほうも不安定な姿勢のままスラスターを噴射させてビームを回避しつつ両手から放つビームで応戦。それをハイペリオンはビームシールドで防ぎ、スラスターを全開にしてロンゴミニアドへと突っ込む。


 一方、空中に放り出されたアストレアはディフェンスモードのまま降下していく。

 そこへタイラント・ルキウスの両肩から放たれるビームが直撃するが――全くの無傷のまま無事に着陸。同時に閉じていたフルドレスをアタックモードにし、4つの翼を広げたような姿となる。


「アルゴスビーム発射!」

「むぅっ!?」


 フルドレスユニットが変化した拡散ビーム砲。通称『アルゴスビーム』。

 ユニットを構成するパーツ事に3つ並んだ発射口からいくつもの閃光が放たれ、それがタイラント・ルキウスの巨体へ迫る。

 流石に広範囲に放たれたビームを相手に回避運動は無意味と悟ったのか、左腕からビームの盾を展開し、全身を覆うことでその拡散ビームによる攻撃を防ぐ。


「その体躯で、一体どこからそんな出力が……!」

「軍事機密ですッ!」


 無数の閃光が次第に1か所に集束しはじめ、すべての発射口から放たれた閃光がタイラント・ルキウスのビームシールドを発生させている中央部に集中的に負荷を与え続ける。


「ぐぅ……この短期間で、こうも変わるかッ!」


 流石にこのままではまずい、と判断したのか対艦ブレードを地面に突き刺して腰にマウントしていたレールガンを取り出し、ビームシールドを一部解除。その穴からアストレアを狙う。

 が、そのアストレアはビームランチャーを構えており、ビームシールドに穴が開くことを待っていたかのように発砲。

 放たれた閃光はレールガンを直撃し、まだ未使用の弾丸もろともレールガンを吹き飛ばした。


「ちぃっ……」

「これに耐えられる?」


 アストレアのパワーブースターが起動する。

 その瞬間。すべてのアルゴスビームの出力が急上昇し、その力を真正面から受け止めるタイラント・ルキウスが後退りしはじめる。


「もう1発!!」

「させ、るかッ!!」


 パワーブースターを起動させたことで出力が上がったビームランチャーの追撃。

 その引鉄が引かれる前に、タイラント・ルキウスの右手が対艦ブレードを握り、それを振り上げて地面に叩きつける。

 叩きつけた場所を軸に機体を持ち上げ、強引に浮き上がってビームの奔流から逃れる巨体。

 標的が消失したことで抑えるものがなくなったアストレアのビームは砕けた瓦礫を一瞬にして融解させ、地面に突き刺さったままの対艦ブレードすら溶かし、一直線上に赤熱化した道を生み出す。


「武器を失おうとも!!」


 空中を舞う巨体の両肩が開く。それが何であるか、ベルには即座に理解できた。


「当たるものかッ!!」


 フルドレスをアタックモードからマニューバモードに切り替え、今までビーム砲に回していた全エネルギーを推進力に変換し一気に後退。

 それと入れ違いになる形で、タイラント・ルキウスのビームが放たれ、逃げるアストレアを追いかける。


「以前の機体とここまで違うだと……? 何なのだその機体は!」


 巨体を操る男、アズラエルは狼狽する。

 惑星アクエリアスで戦った時と同じ相手だというのに、機体が違うだけでこうも一方的になるのか、と。

 タイラント・ルキウスも、その時から改修を加えられており、性能は底上げされ、ビームシールドすら装備できているのに、

 まるでスカートのような状態の装備が、アストレアの火力・機動力・防御力の要であるというのは理解できる。

 だがそれにしても、あの装備だけでここまで変わるものか、と。


「フルドレスユニットは、わたしに合わせて作られた装備。それを使いこなせない訳が、ない!!」


 ディフェンスモードではビーム・レーザーを無効化し、物理攻撃も大質量以外は防ぎきれる頑強な盾に。

 マニューバモードでは増設されたエーテルコンバーターとエーテルリバウンダーにより半永久的かつ無制限な加速を可能となる推進装置に。

 そして、アタックモードではすべてを灰燼と化すことすら可能な無数の閃光を放つ最強の剣に。

 それが、アストレアが装備する専用装備。開発者シルル操縦者ベルの戦い方の補助となり、かつそれだけでは足りない火力や防御力を補う事を目的に開発したフルドレスユニットである。

 そもそも。アストレアそのものが、以前ベルが使用していたフロレントの基本的なコンセプトを引き継いでいる。むしろ、以前と異なり大剣を背負っていない分今のほうが身軽に動け、よりベルに最適化されていると言っていい。

 そんな機体に、その性能を純粋に底上げする装備をしていれば――強いに決まっている。


「それと、今思いついた」


 タイラント・ルキウスのビーム照射が終わり、巨体が降下してくる。

 その間に地面に両足を突き立てるようにして制止したアストレアはビームランチャーを天に向けて振り上げる。


「パワーブースター、起動。ビームランチャー、照射モード!」


 天に向かって放たれた閃光。その閃光の意味を――アズラエルは直感的に理解した。

 何故か。それは、その武器は自分も良く知っている機体が使う攻撃方法そのものであるからだ。


「切り裂けえええええええッ!」


 振り下ろされるビームランチャー。その銃口から照射されたままのビームは、まるで光の剣のようになりタイラント・ルキウスへと迫る。


「くっ、おおおおおッ!!」


 回避のタイミングは逃してしまった。

 左腕のビームシールドの出力をあげ、その斬撃を受け止めようとするアズラエルだが――ビームの出力が上がらない。


「何ッ!? パワーダウンだと……!?」


 その瞬間。光の剣がタイラント・ルキウスへと振り下ろされた。

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