第203話 飛び交う閃光
エクスキャリバーンの周りに集中する機動兵器。
だが、あれが早々やられるとは思えない。
あそこにはレジーナたちタリスマンもいるし、量産型のクラレント
ならば。各自は各々が因縁を持つ相手と向き合う。
両陣営そろって8機のソリッドトルーパー。それぞれの相手と向き合い、閃光を放つ。
互いに互いの相手と戦う為に、自然と距離を開けていく。
そして。この場の戦いは――互いの過去を知る男と女が、己の意思を貫き通すため、相手の意思をねじ伏せ否定する戦いである。
「アルビオオオオオオン!!」
「アアアアアアアッシュ!!」
戦いの直前に徹底的に改造されたハイペリオン。そのサイドアーマーには以前は背面に装備されていた高出力ビーム砲がウイングバインダーごと移植され、展開するなりビームをロンゴミニアドへ向かって放つ。
それに対し、ロンゴミニアドはスラスターを全開にして大きく飛び退きつつ、両腕に内蔵されたビームガンで反撃。その閃光はハイペリオンが左手に装備したビームシールドによって阻まれ、さらにその反撃としてハイペリオンのビームライフルが閃光を放った。
「前と姿が違うようだけれど……武器は変わらないみたいだね!」
「お前もただ図体がデカくなっただけか?!」
ハイペリオンがビームソードを抜いて振りかぶると、それに応じるようにビームガンの発射口からビームを刃のような形に形成し、それらをぶつけ合う。
ぶつかり合った光の剣は周囲にビームの粒子を散らばらせ、それに当たるまいと2機は距離を取る。
瞬間。ロンゴミニアドの胸部から4つの閃光が放たれた。
「ッ!?」
反応が遅れたアッシュ。だが、OSが高熱源を感知した瞬間に重力場を機体の前面に展開し、放たれた4つの閃光がそれに衝突。軌跡を捻じ曲げられ四方八方へと飛んでいく。
OSを組んだシルルに感謝しつつ、アッシュは背部のウイングスラスターに内蔵された可変速ビーム砲、両腰の高出力ビーム砲、そして右手に握り締めたビームライフルを一斉に発射した。
正面火力に限るのならば、全宇宙を探してもこれ以上にないであろう火力を向けられたロンゴミニアドであるが、両腕と胸部のビームを放ってビームを撃ち落とす。
反応速度としても異常。ほんのわずかな時間であったが、明らかにハイペリオンが撃ってからロンゴミニアドは攻撃していた。
もしそれがOSによる補助の結果ではなく、パイロットの技量によるものだとするならば……それは異常だろう。
「動きで攻撃がバレるか……」
だが、アッシュは極めて冷静に思考し、その理由に対して自分なりに答えを出した。
背部のウイングスラスターに内蔵された可変速ビーム砲も、背部から腰部に移植された高出力ビーム砲も、それを使う時には砲身を展開してから発砲する以上、実際の攻撃には若干のタイムラグが存在する。
そのタイムラグの間に、ビームの軌道を読み取って反撃してきたのだ、と。
……十分神業である。
「はぁッ!」
ロンゴミニアドの回し蹴り。ただし、その足の裏からはビームが照射され、まるで刃のようになってハイペリオンへと迫る。
それに対し、足を完全に振りぬかれる前に両手にビームソードを持ち、それを最大出力にしてビームの刃を受け止める。
ほとばしる超高熱の火花。アッシュは受け止めたことでわずかにできた時間に思考を巡らせ、機体を操作。身をよじって足裏から照射されたビームを潜り抜け、即座にビームライフルでの反撃を行った。
が、それを振り抜いた足を軸にして放つ後ろ回し蹴りで追撃するついでに回避。
つま先でハイペリオンの胴体を蹴り飛ばす。
「がっ……!」
激しく揺れるハイペリオンのコクピット。
シートが伸びきり、ヘルメットをしていなければ額をキャノピーにぶつけて流血くらいはしていただろう。
だがそれでも、ダメージは最低限。
重力場によって守られた機体そのもののダメージは最低限。だが、その重力場ごと押し込まれた。
「なんて膂力だッ」
「アッシュ、ワタシの邪魔はさせない。絶対に!」
「だが、お前のやることで、不必要な犠牲が出る!」
「この惨状を作ったそっちが言えた事じゃあないでしょうに!」
ビームの撃ち合いの最中、ロンゴミニアドの腰のあたりから突き出た部位が開き、そこからミサイルが飛び出してくる。大きく弧を描いたそれは、次々とハイペリオンに迫る。
急上昇したハイペリオン。それについてくるミサイルに対し、肩の可変速ビーム砲を高速連射モードで使用し、迎撃できるものは迎撃。
その弾幕を抜けてきたものは急降下して地面スレスレのところで急制動。そのまま後退すると、追ってきたミサイルは減速しきれず地面と衝突。次々と崩壊した街並みのアスファルトを吹き飛ばしていく。
「んのおぉぉぉ!!」
その流れで、重力場で身を守りつつ、最大速度でロンゴミニアドに体当たりをする。
直撃した体当たりにロンゴミニアドがよろめくが、両腕を振り上げて重力場ごと地面へと叩きつける。
「この距離なら避けられないだろ!」
「ッ!?」
両肩の可変速ビーム砲が至近距離で放たれようとしていることに気付いたアルビオン。
そこで、両脚部の推進装置の出力を上げ、ハイペリオンを押さえつけて跳び越え、強引に浮き上がってビームを回避。
追撃として、距離を取りながら両腕のビームガンでの攻撃を行うが、それも重力場による防御で防ぎ、地に伏せたハイペリオンは翼を広げ、変形しながら急上昇。機首をロンゴミニアドに向けるなり、この形態で使用可能なすべてのビーム砲を向けて即座に発射する。
「はっ! ソリッドトルーパーが変形できたって!」
「だがこれで、武装を展開する隙はなくなった!」
新装備のハイペリオン。その変形機構は、改修前と変わらない。
しいて言うのならば、翼の形状が変わった事と、腰のサイドアーマーがそのまま以前のウイングバインダーであるため、4つの翼を持っているように見える、というところか。
加えて。その4つの翼すべてのビーム砲が搭載されており、それらを展開した状態で飛行できるため、高速飛行形態でも十分以上の火力を発揮する。
「お前を止める、アリア!」
「……まだ、その名前で呼んでくれるんだね、アッシュ。嬉しいよ」
ハイペリオンの4つの砲門が一斉にビームを放った。
それは完全にロンゴミニアドを捕らえていた。
そのままいけば確実に撃墜できる。そんな攻撃である。
だが、そうはならなかった。
「アルビオン様!!」
巨体が射線上に割り込み、左腕から展開したビームの膜でその砲撃を受け止める。
「なッ!? どんな速度で突っ込んできたんだアイツ!!」
タイラント・ルキウス。その巨体が2人の間に割り込んだ。
それに遅れ、ビームマシンガンを乱射しながらマニューバモードのアストレアが現れ、タイラント・ルキウスに襲い掛かった。
タイラント・ルキウスはその攻撃を鬱陶しそうにバスターブレードを握った右手で払いのけようとするが、アストレアはその一撃をひらりと回避し、ビームマシンガンを連結させたビームランチャーで反撃しようとするが――そこへロンゴミニアドのビームガンによる閃光が妨害に入る。
いや、妨害などではない。明らかに殺意を向けての連続攻撃だ。
「ベル、来いッ!!」
「アッシュさん!」
逃げ回るアストレアの下に回り込む高速飛行形態のハイペリオン。その背に飛び乗り、フルドレスをディフェンスモードに切り替え、全身を覆う。
「ああ。忘れてた。アッシュにたかるハエの事を」
「アルビオン様、今は……」
「いいや、関係ないよアズラエル。アッシュはワタシのなんだ。他の誰にも渡さない」
「悪いが……少なくとも、今のお前とはそういう関係になりたくねえな!」
「アッシュさん、そういう問題じゃあないです!」
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