幕間
幕間 銃の音に魅せられた男の独白
シェイフーという名を名乗るようになって、それなりになる。
それまでの名前はどうか、と思うが――忘れた。今はこの名前が気に入っている。
お嬢と――アルビオンと出会って、彼女の思想を聞き、それに賛同した。
いつか訪れるであろう世界のために、どんな犠牲を払ってでも突き進む鋼鉄の意思。それが、奪う事しか知らない我にとってはとても気高いものに思えた。
だから、我は彼女の隣にいるべきではないのだろう。
我は常に奪う側の人間だ。
スラムで生まれ、親の顔も知らず、生きるためには時に人を殺し、仲間すら売って生きてきた。
そして、あの日たまたま殺した人間が持っていた銃が、我をオレに変えた。
奪った銃は護身用。持っているだけで、自分が強くなったつもりでいたし、ちらつかせるだけであらゆる犯罪をやりやすくした。
だが、ある日袋小路に追い詰めた相手が襲い掛かってきた時、引鉄を引いた。
引いてしまった、という方が正しいか。窮鼠猫を噛むといったことわざがあるように、追い詰めすぎた相手は時として強い相手にも襲い掛かる。
その生に執着し、我を殺してでも生き残ろうとする目。その恐怖が、我に初めて引鉄を引かせた。
一瞬の出来事だった。
弾丸は相手の頭を抜け、そのまま壁にめり込み、我は反動で肩を痛めながら転がり、物言わぬ肉の塊となったそれを見て――笑っていた。
最初は、緊張状態から解放されたことへの安堵だと思っていた。だが、違う。
我は、時壁に穿たれた穴を中心に咲く赤い花を美しく感じ、銃声は甘く囁く乙女の声のように響き、硝煙の匂いは最高級の香水のようであると感じてしまっていた。
その時だろう。
自分が異常者であると気付いたのは。
その時から、本来は生活の糧を得るために銃を使うのではなく、銃を使うために犯罪を繰り返すようになった。
あの声が聞きたくて、あの匂いが忘れられなくて。
お嬢と出会うまで、一体何人無意味に殺したのだろうか。
本当に、無意味に。無価値に殺してしまっていた。
だからお嬢には感謝している。我の殺しに意味を与えてくれた事を。
殺す事にも、意味があるのだと
けれど。我は、我等は知っている。
お嬢は誰よりも優しい。
自らの行いで死んだ人間すべてを悼んでいることを。
だから改めて思うのだ。
優しすぎる彼女の傍に、人を嬉々として殺す我はいてはいけないのだ、と。
だから決めたのだ。
この命、彼女のために使おう、と。
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