第191話 次の戦いへ向けての進軍

 ウィガール要塞の核パルスエンジンに火がともる。

 目的地は、惑星ラウンド。

 奪った機体と艦艇をそのまま戦力に加えたネクサスは、進撃を開始した。

 要塞の核パルスエンジンの推力なら、ラウンドの防衛網にかかるのは1週間、といったところ。


「……シルルさんや」

「何かね、爺さん」

「誰が爺さんだ。いや、それは今重要じゃないんだ。ナニコレ」

「ナニって……カリオペとモルガナのアップデートバージョンだけど? クラレントMk-Ⅱマークツー4号機・カリオペ・デンドロビウム。そしてモルガナ・フルパッケージだ。まあ、作戦中はながったるしいからフルで呼ぶことはまずないだろうな」


 そう言って、作業を終えたばかりのカリオペとモルガナの姿に恍惚の表情を浮かべるシルルに、アッシュは呆れながら機体を見上げた。

 カリオペに関しては、まるで外套とスカートが追加されたような姿になっているが、どう見ても重たいと判るほどの重装甲化。

 モルガナも背部に増設装備が追加されただけだが、そのサブアームで固定された本体と同程度の大きさのある棺型の武装ユニットというのはどうしても目立つし、これもまた著しい重量増加を起こしているのがわかる。


「国家代表の機体だ。防御面をガッチガチにしても足りないだろう」

「それはそうだが……」

「とはいえ、次の戦いはおよそ3日後。それにはカリオペのほうの調整が間に合わない」

「3日……グウェン要塞から部隊が出たのか」

「ああ。現状でも巡洋艦だけで7000は確認できている、とミスターが言っていたね」

「そりゃあまた随分と派手にやるつもりのようで。というか、どれだけの戦力を保有しているんだラウンドは」


 初戦ですら21300隻を投入してきたというのに、要塞1つ落とされてなお、大量の戦力を送り込むことができている。

 人的問題は各艦がワンマンシップ化していれば解決されるのでともかくとして、巡洋艦や戦艦等はどうやっても製造に時間がかかる。それなのにこれだけの大戦力を動かし続けられるということは――はたしてどれだけ長期間にわたって軍事力を蓄えてきたのやら。


「相手は要塞を破壊するつもりだろうから、プラズマ融合弾頭は当然使ってくるだろうね」

「ある程度はなんとかなるだろうが、数が来ると撃ち落としきれないな……」

「そこはまあ、モルガナで何とかなるはずだ。それよりアッシュ。姫様の事なんだが……」

「ベルに任せてある。俺やマコが行くよりは話しやすいだろう」

「そうか。助かるよ。どうも私は配慮というのが苦手でね」

「アレはあの場ではっきり言っておいたほうがいい。後回しにしていざという時に踏ん切りがつかないよりはな」


 そういうものか、とシルルは腕を組んで唸る。

 そこに、タブレットを持ったメグがやってくる。


「ああ、ここにいたのか」

「メグ? どうしたんだ」

「シルルちゃん。頼まれていたタリスマン達の身体機能についての検査結果」

「助かる。これで彼等をどう組み込むかが変わってくる」


 全体の作戦立案はシルルの役割である。

 ウィガール要塞攻略において要塞突入部隊として活躍したタリスマン達。

 その身体の特性は、あの時点でよくわかっていないことばかりであった。

 判っていたいたのは、成長に伴い身体が結晶化していくことと、その身体をある程度自分の意思で変形させることができる事。食事・睡眠・呼吸を必要とせず、宇宙空間でも問題なく活動できる事。そして彼等の食事は光である事だ。


「今回精密検査を行った結果、彼等の両肩部分には発光器官があることが判明した」

「発光器官? 何故……」

「それを訪ねた結果、彼等の間ではメガフラッシャーと呼ばれる器官らしくてね。ごく一部のタリスマンにだけ発現しているようだ。レジーナちゃんもその1人だね」

「メガフラッシャー、ねえ。で、その発光器官がどうしたって?」

「……これ、超高出力のレーザー砲になるんだよ」


 そうメグが言った直後、アッシュとシルルが驚きのあまり固まった。

 今、なんて言った?

 そんな風に顔を見合わせた2人は改めてメグに向きなおる。


「これ、彼女がメガフラッシャーを使用した現場の写真なんだけどね。見てくれえたまえ」


 メグが手に持ったタブレットに、その現場写真とやらが表示される。

 そこには、通路の一部だけ高熱で炙られたのか融解しており、そこから焼け焦げた痕が伸びている。

 一番派手に融解しているのが発射地点に近い場所で、そこから焦げた通路のほうへと発射された、というのはわかる。

 だがメガフラッシャーがメグの言う通りのものならば、こんな威力のはずがない。


「レジーナちゃん曰く、これで1パーセントだそうだ」

「……この要塞の通路の壁面、大気圏再突入可能な戦艦にも使われる耐熱装甲だったはずだけど?」


 それを融解させるレベルで、最大出力の1パーセント。

 とんでもない威力である。


「歩兵として扱っていたけど、これは考えを改めるべきかもだね……」

「ああ。でも使うと一時的に体内の霊素を大量消費するからそう連発できるものでもないらしい」

「霊素を……? それじゃあ……あっ」


 しまった、とシルルが口を塞ぐがもう遅い。

 メグはシルルが自分の言いたいこと、言おうとしたことを察したことに気付いて目を輝かせる。


「そうなんだよ! 彼等は霊素もエネルギー源としている。光と同様にね。この際、どちらが食事でどちらが呼吸であるかはいいが、宇宙生物学的には霊素が酸素の代わりになっている説を僕は提唱している! 事実としてアストロケタス科の宇宙生物は宇宙空間に存在する霊素を取り込みそれを細胞に取り込む事で活動している。それをタリスマンが可能であるということは、これは特殊な能力を持ったベンダー人やエアリア人のように長命になった人類とは別ベクトルでの人類進化の可能性であると言えるねえ!! いや。あるいは我々よりももっと進んだ進化であるのではないか? どう思うシルルちゃん!!」

「助けてくれ、アッシュ――アッシュ?」

「んじゃ、インテリの会話についていけないんで俺はこの辺で」

「アッシュ? アーッシュ!!」

「さあ、語り明かそうじゃあないか。シルルちゃん!」


 話が分かる相手を見つけたメグは嬉しそうにその手をシルルの両肩において揺さぶる。

 ずいぶんと語りたいことがあるのか、その目は輝き、まだまだ語りたいことがある、と訴えてくる。

 その相手であるシルルであるが――流石に生物学は専門外であり、メグの話は興味深いがあまりついていけていない。

 マシンガンのごとき勢いで放たれる専門用語と仮説の数に目を回し始める。

 シルルはただ、ソリッドトルーパーの性能を測るようなつもりでタリスマン達の身体機能の調査を頼んだだけなのに、どうしてこうなったのだ、と若干の後悔をする。

 ――彼女が解放されたのは2時間後であったという。



 エクスキャリバーンは大きすぎてそのままではウィガール要塞に収容できなかったため、艦の左右に取り付けられたローエングリン2隻と分離した状態でゲートに収まっており、それぞれが整備を受けている。

 持ち上がったブリッジで、マコとアニマは現状の戦力の確認をしていた。


「無傷で入手したトゥルウィス級が1721隻。キャスパリーグ級が878隻。スペースクルーザーが821隻。ソリッドトルーパーはずいぶんと減って912機ねえ」

『流石に数が多すぎて、ボク達だけでは操り切れないですね』

「でも、こいつらを使わないと少々厳しいだろうなあ……」

『何かいい案でもあるといいんですけど』


 戦力の頭数は増えた。ワンマンシップ化も進んでいる。

 だが、だからといってそれらを操る人間が絶対的に足りていない。

 何せ。現在この場にいるネクサスの人間はタリスマン達とアッシュ達『燃える灰』の関係者だけなのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る