第201話 灰と蛇と
姿を現したエクスキャリバーンにめがけて都市防衛用のタレットから放たれた砲火が放たれる。
ただ、距離がある。何せ降り立った周辺の防衛設備は、まとめてプラズマクラウドに飲み込まれ、数多の命と共に消滅した。
当然距離があれば、実弾だと到達まで少々時間がかかり、結果シールドによる防御を容易にしてしまう。
「ソリッドトルーパー隊しゅつげ――ああっ! 出撃ハッチを狙撃されました!」
「戦艦の主砲でか!?」
「ミサイル攻撃、第4波、来ます!」
エクスキャリバーンは、飛んでくる砲弾やミサイルすべてにピンポイントでシールドを展開し、エネルギー消費を最小限にしつつ防御。
ならば、と都市部での使用が推奨されないビームでの攻撃は、着弾までに減衰し、装甲に当たったとしても完全体に施された
「ビームはともかく、レーザーまで防ぐだと……!? そんな技術、どこに……いや、
一切の攻撃が通用しない、動く要塞。それがエクスキャリバーンという存在である。
それを悟ったラウンド軍の戦意は急速に削がれていく。
だが、それでももう引き下がる事はできない。何故なら、ここはラウンド本星の首都ペンドラゴン。これ以上、どこに下がるところがあるというのだ。
現状の戦力だけではどう考えても勝てない相手。
ならば、
それもできない。宇宙で展開している部隊は大気圏への突入を想定した装備をしていない。それらの準備をするだけでも相当な時間がかかり、それまでにはこの戦いに決着がついてしまう。
――だが、その状況が一変する。
「衛星軌道上から降下してくる複数の機体を確認!」
「なんだと!? 味方か!?」
「識別では」
「数は?」
「通常のソリッドトルーパーサイズのものが73。大型のものが10!」
それらは流星となって空からペンドラゴンへめがけて降下してくる。
ラウンドの管制室は、ただその味方と思われる存在にすがるしかないのである。
◆
空から迫る何か。ラウンド側同様、エクスキャリバーンでもそれを察知できていた。
だが、対応しようにもマコ1人ではそこまで頭が回らない。
現在艦の支援OSが、今まで蓄積したクルーの技量を模倣し、シールドのピンポイント展開だとか、戦艦の主砲による出撃ハッチへの狙撃だとかを行っており、マコは艦の操縦に集中できている、という状況。
これ以上やることが増えると、パンクする。
なので、思考はできる人間に投げることにした。
「シルルかマルグリット! 判断そっちに回す!!」
『通常サイズのソリッドトルーパーが73機。大型が10機? それがここに来るって?』
『増援……というわけではなさそうですが』
『……いや、残念ながらただの増援ではなさそうだ』
「ミスター?」
会話に割り込んできたミスター・ノウレッジが、各機とブリッジに自身が得た情報を表示する。
『ラウンドの衛星工廠。ああ、無論キャリバーン号の建造されたものとは別だ。そこで開発されていたソリッドトルーパーのデータが、これだ』
『これはタイラント系の機体、ですか?』
『あっ。でもこれボク達が戦った機体より小型化してますよ』
『まさか、これは……! いや、それにもう一方の機体のほうも!』
「タイラントタイプの正式量産機と、あのロリっ子の機体の量産型!?」
タイラント系列の機体の量産タイプと、ヴィヴィアンと呼ばれていた腕のない機体の量産型。
そんなものが、ラウンドの衛星工廠で製造されていた、という事は今重要ではない。
そんなもの、ラウンドとウロボロスネストが繋がっていると判っていたのだから、あり得る事だと割り切れる。
今最も重要なのは、それらが今この場に向かってきている、ということである。
『マコ、プラズマクラウドの残存濃度は――いや、いい。ブリッジのデータをこっちに回してくれ』
「もうやってる!」
『……思ったより霧散するのが早い。奴等の到達までには影響はなくなっているな』
『ならどうする、シル――いや、マルグリット』
アッシュはマルグリットに意見を求める。
マルグリットは沈黙して考えはじめる。時間はまだある。
いくら衛星軌道上だとはいえ、直進でペンドラゴンへと降り立てるわけではない。
惑星が自転している以上、直進すれば降下ポイントはズレてしまう。なので、それを計算した上での突入してきているだろう。
だが、違和感がある。
『ッ!? 違うッ! 直ちに全機出撃!!』
マルグリットは、その違和感に気付いて叫ぶ。
続いてアッシュ、レジーナ、ベル、マコ、シルル、アニマ、メグという順番で彼女の叫びの意味を理解し、マコは即座に各機の出撃ハッチとカタパルトを起動させ、それらが解放されるなり艦内にいた機体はすべて出撃。
その直後、空が割れた。
円形にくりぬかれた空から、いくつもの流星が地上に降り注ぐ。
「やっぱり……!」
大気圏突入による奇襲。それが奴等ウロボロスネストの作戦である、と誰もが考えていた。
だが、違う。
そんなことをする必要はないのだ。
ネクサス側にエクスキャリバーンという、空間跳躍を行える艦艇があるように。
ウロボロスネストの機体にも、単独で空間跳躍を行えるシステムが搭載されているのだから。
◆
いくつもの流星が落着した。
その数、合計83機。
対するエクスキャリバーンから出撃した機体の総数16機と、タリスマンが8人。頭数では24となる。
戦力差では3倍ほどの差がある相手。
これをどうするか、というのは決まっている。
「アッシュさん」
「ああ。解ってる。だよなあ、アリア。いや、アルビオン!」
『また会えて嬉しいよ、アッシュ。今回も相手をしてくれるのかな』
「当たり前だろ」
『では、俺はお前だな。女』
アストレアの前に立ちはだかるのは、タイラント・ルキウス。
同様にネメシスの前にはガラティンが、モルガナの前にはヴィヴィアンが立ちはだかる。
そして――エクスキャリバーンの艦首部に立つカリオペの前には、71機のソリッドトルーパーが。
「確か、ベディヴィアとかいう機体でしたか」
『それだけではないよ、マルグリット。すでに我々は包囲されている』
正式量産されたタイラントタイプであるヴェナトル。それらがエクスキャリバーンを包囲している。
完全に計算された落下位置。
それぞれがそれぞれの獲物を狙い、その近くへと降り立っている。
だが、戦場は動かない。
戦場であるというのに弾丸の1つも放たれることはなく、機体の関節を動かすモーターの音すらない。
完全なる沈黙。
戦争という状況においてあり得ざる光景。
誰もが理解しているからこそ、動かないし、動けない。
この静寂は一時的なものであり、誰か、あるいは何かが動いた瞬間に堰を切ったかのように銃声が響き、閃光が飛び交うことになる。
『メガフラッシャァァァァァァァァ!!』
そして、仕掛けたのはエクスキャリバーン側――否、『燃える灰』であった。
地上から放たれた強烈な閃光が、ヴェナトルめがけて放たれ、それを射線上に割り込んだ5機のベディヴィアが右肩を突き出して受け止める。
『何事だ!?』
「いい仕事をしてくれましたね、レジーナさん!」
地上から閃光を放ったのは、レジーナであった。それに続き、他のタリスマン達も両肩からメガフラッシャーによる攻撃を行う。
「ソリッドトルーパーや艦艇の反応は捉えられても、生物である彼等の反応は見えてなかったみたいだな!」
『……面白くなってきたじゃないか。アッシュ。けど、だからと言ってワタシも引けないところがある。シェイフーが遺したこのロンゴミニアドで、押し通る!』
「ベル、シルル、アニマ。あの時のリベンジマッチだ。気合い入れろよ!」
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