第200話 自ら選ぶ『最悪の選択』
エクスキャリバーンが動きだした。
そのブリッジには、マコだけがいる。
アッシュやベルといたパイロットは勿論、普段はブリッジにいるシルルもメグを連れてモルガナに搭乗。
加えて、今回はついに調整が完了したカリオペ・デンドロビウムにマルグリットも乗り込み、今使える全戦力を投入しての決戦に挑む。
当然、レジーナ達タリスマンもこの戦いには参戦。人間大の彼等ではあるが、単独でもソリッドトルーパー並みの戦闘力を持っているのだ。十分戦力としてはアテになるだろう。
あとは――アストラル体が操る12機の量産型クラレント
それだけが、今彼等が動かすことのできる戦力である。
こうなることは、おそらくであるがラウンド側も想定しているだろう。
そして、エクスキャリバーンがプラズマベルトを突っ切ってくる可能性も考えているはずだ。
「これより各部の密閉の最終確認が済み次第、エクスキャリバーンはプラズマベルト内へと突入する!」
マコは全艦放送でそう告げる。
オートマトンたちが各部のチェックと見回りを行い、次々と報告が上がってくる。
すべての砲門を格納し、カタパルトや搬入口も閉じ、通常の推進装置も停止させる。
艦首が入った途端、そこへとプラズマクラウドの放電現象が襲い掛かってくる。
直撃すれば、それだけで艦艇が沈むほどの威力を持った放電。宇宙でとどろく稲妻。
だが、エクスキャリバーンの外装にはその直撃を受けても問題なく航行し続けることができる。
流石に推進装置を使っているとそこから内部が破壊されてしまうが、慣性飛行や重力推進でその点もカバーできる。
「各部チェックは怠らないでよ。大丈夫だってのはわかってるけど、万が一もあり得るからね。とくに、各艦の接合部分」
常に各艦の状態はモニタリングしているが、それでも万が一が起きてしまえばその時点で――その先は考えたくはない、とマコは首を振った。
もしそうなったら、すべてが終わる。何もしなければ、物量に押しつぶされかねない。
だったら、前に進むだけだ。
「予定深度到達まで、あと120秒。各員準備はできてる? ワープドライブ起動。シールド展開。座標指定……えっ!?」
マコはあらかじめシルルから指定された座標を入力すると、その位置が表示された。
最初から都市部に空間跳躍することはマコも知っている。だからその点は驚かない。
だが、その高度が低すぎる。これでは地上に多くの被害が出る。
「……いいや。そうだね。それでも、やるしかない」
迷いは、捨てた。
そもそも、旗艦であるエクスキャリバーン単独での王宮への進軍は当初の予定通りだ。
ただその過程が、少し変わり、マコがスイッチを押せば、間違いなく取り返しのつかない惨劇を引き起こす事になるだけの話。
それを承知で、彼女は――押した。
「私は一度死刑を言い渡されたんだ。大罪なんざ、いくらでも被ってやる」
◆
惑星ラウンドの首都、ペンドラゴン。高層ビルが立ち並び、まるでそれそのものが森林のようだと表現する者もいるほどだ。
整備された道路はまるで賽の目。紙の上に定規で描いたかのように、仕切られた――ある種、病的な街並み。
そこに暮らす人間の多くは軍人。あるいはその家族。そうでないとすれば、貴族階級といったところ。
首都であるため、当然ながら防備は厚いが――今はその戦力も多くは
理由は当然、目と鼻の先までネクサス軍が迫っているからである。
未だかつてない危機であるというのに、ペンドラゴンの住民はいつも通りの生活を送っていた。
国王ウーゼル・ラウンドの威光は絶対である。そう信じて疑わない。
敗走を繰り返そうとも、所詮は小国の抵抗である、という意識が蔓延していた。
だが、この日彼等はありえない光景を目にする。
空に突如開いた大穴から、何か丸いものが現れた。
それが、何であるかをその時理解できたものはいない。
ただ、中が何かモヤのようなもで満たされた物体。それが降りてきたのだ、と。
同時に。人も物も関係なく、ありとあらゆるものが開いた大穴に吸い込まれていく。
建造物なども当然その影響を受け、大きく揺れ、窓にはめ込まれていたガラスが砕けて、屋内の物もそこから吸い込まれていく。
穴が存在していたのは、その球体がその全貌を表すごくわずかな時間。
その時間だけでも、周辺には多大な被害を及ぼし、まるで局所的な大地震でも起きたのではないかと錯覚するほど、整備されていたペンドラゴンの街並みを徹底的に破壊していた。
そこに情報を加えるならば、吸い寄せられながらも大穴を超えることのなかった人間も多くいた。
が、穴が消えれば、当然その身体を宙に浮かせていた力がなくなるわけで、到底助からない高度まで吸い上げられた彼等はどのみち助からない。
ここまでの騒ぎになったが、軍の動きは遅かった。
無理もない。その戦力の大半を宇宙に上げてしまったのだから、首都防衛のための戦力がそこまで残されていないのだ。
展開の遅れているソリッドトルーパーに代わり、周辺の基地から放たれたミサイルや、都市の防衛用に設置されたタレットからの砲撃が行われる。
だがその球体には傷1つつかず、反応もみせなかった。
だがしばらくして、その球体にも変化が訪れる。
同時に、それを見ていた誰もが悟る。
これは球体などではない、と。
中身である
途端に強烈な選考と共に爆音が幾度も轟き、その
それは、超高濃度のプラズマの塊。いわゆる、プラズマクラウドと呼ばれるものである。
本来は宇宙空間でしか存在しないはずのそれが地上にまき散らされている。
それですらありえない事なのに、そのプラズマクラウドの中から現れたのは、エクスキャリバーン。
ラウンドにとっては、敵国の旗艦が、いきなり首都へと攻め込んできた形となったのである。
◆
椅子に座って眠っていた小さな少女がぴくんと身を震わせて目を覚ます。
「ちじょうに、あらわれた」
「そう。ありがとう、リオン。ラウンド側の動きは?」
「バカみたいに広げた防衛網が無駄になって大慌て、ってとこだな。再突入能力のある艦艇もないみたいだし、ユニットを用意して装備するだけでもあと8時間ってところか」
ナイアは気だるげにそうアルビオンへと報告する。
実際、ラウンド側の想定していたのは、キャリバーン号――もとい、エクスキャリバーン号によるプラズマベルトの強行突破である。
実際、ネクサス側もそれを一度は考えたはずだ、とアルビオンは推測する。
だが現実は全く異なる結果となった。
「やはり、奴等も我々同様、特殊な空間跳躍デバイスを保有している、と」
「アズラエル。機体の準備はできているよね?」
「勿論。それより、運用試験もせずに投入しても……?」
「問題ないよ。
見上げた機体の胸部に収められたカムランに視線を向けるアルビオン。
「なあ、アルビオン」
「何?」
「オレたちだけでいいんじゃねえか」
「ナイア。不敬だぞ」
「……や」
ナイアは視線をリオンに向け、アズラエルはそんなナイアの言葉が気に入らないのか眉間にしわを寄せながらも、リオンの反応が気になるのか視線はそちらを向いている。
リオンはまだ幼い。それ以上に、彼女の事情を考えれば、とナイアは口に出さずともアルビオンに訴えたのだ。
だが、そのリオンはアルビオンにしがみついて離れようとしない。
「と、いうわけだ」
「はいはい。仕方ねえなあ、ったく。オレは先にいくぜ?」
「構わないよ。ああ、それと。アレも使うから」
そう聞いて、ナイアとアズラエルは一瞬驚いたような顔をして、ナイアはにぃ、と口を吊り上げた笑みを浮かべ、アズラエルは静かに目を閉じた。
「全71機のシスターズに、8機の生体制御装置搭載機の投入、か。面白くなってきたじゃねえの」
カカカ、いうナイアの笑い声が響く。
それにつられてか、アルビオンも笑みを浮かべた。
ただ、その笑みは――どこか邪悪なものを孕んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます