惑星間戦争 ラウンド本星決戦

第199話 最善の選択肢を探して

 ウィガール要塞のゲートが開かれ、物資がエクスキャリバーンへと運ばれていく。

 次々と運び込まれる物資を、艦内のオートマトンたちとタリスマン達が所定の場所へと運んでいく。

 外では装甲や武装のメンテナンスのためにオートマトンが走り回っており、これからやろうとしていることに備えて念入りに各部のチェックを行っている。

 やる事は決まっている。

 だが、行動を起こすには少しだけ時間が必要になる。


「注文通りに装備を追加したが……いいのか、これで」

『はい。これで以前のように戦えそうです。ありがとうございます』


 そうアニマは自分の機体であるネメシスに追加された装備を確認し、満足げにシルルに感謝を告げる。

 追加されたのは翼のようなシルエットであるクラックアンカーの下部あたりから60ミリ無反動砲が1対。

 両脚の脹脛ふくらはぎあたりにマイクロミサイルランチャーとそれを防御するための追加装甲。

 右前腕部に折りたたまれたロングレンジビームライフルが取りつけられたユニット。

 サイドアーマーは大型装甲となり、その内部に姿勢固定用のパイル射出装置を備える。

 これらの装備は、本来アロンダイトに装備されていたものであり、その予備パーツをコネクターと増設パーツによって本来規格の合わないネメシスでも使用できるようにしたものである。

 ためしに、と武装の展開テストを行う。

 マイクロミサイルのハッチは問題なく稼働。60ミリ無反動砲は腋の下から前に展開し、ロングレンジビームライフルも瞬時に展開できた。


『流石シルルさんの改造です。問題がまったくありません』

「いやいや。ついでだよ。一応左腕にも何かつけるかい? 今ある素材を流用する形ならばすぐにできるよ」

『では、ビームシールドを』

「了解だ。それと、ベルは?」

『すでにシミュレーターに入ってます』

「それは良かった。次の戦いでは、彼女の機体も仕様が変わっているしね」


 そう言いながら見上げるアストレアの全身はまるで外套を思わせる装甲で覆われていた。

 以前より開発が進められていたアストレア用の追加装備、フルドレスユニットである。

 現在の状態はディフェンスモード。ビームもレーザーも通さない上非常に頑丈な装甲が肩のあたりから延びて機体全体をぐるりと覆っている状態で、この状態ではよほどの大質量をぶつけられない限りはまず機体が破損することはない。

 このほかに機動力重視のマニューバモード、攻撃力を底上げするアタックモードなどがあるのだが、ここでそれを使う意味もないし、物資搬入が行われている今、幅を取る変形をするにはスペースが足りない。


「で、マルグリットの様子はどう?」

『修理と改修が終わり次第、作戦決行だと言っています』

「ならあと8時間だと伝えてくれ。最後の仕事が残ってる」


 格納庫にある4機のクラレントMk-Ⅱマークツーのうち、一切手が加えられていない機体が1機ある。

 それこそ、1号機たるハイペリオンである。

 一応、専用の装備は、ある。ネメシスを除く3機はその開発と並行して専用装備の開発も行われており、ハイペリオンにもそれが存在する。

 だがパイロットであるアッシュがそれを使いこなせるかどうかが未知数で、装備するかどうかは今の今までそれを装備させるかどうかを悩んでいたのだが、さすがのシルルも覚悟を決めた。

 何より、アッシュならば扱いこなせるであろうと信じて。


『8時間ですね。伝えておきます』



 アニマから報告を受けてから7時間半ほど経った頃、エクスキャリバーンのブリッジで、マルグリットはその背をシートに預けて天井を見つめていた。

 今から自分がやろうとしていること。その結果がどうなるか、想像がつかない。

 プラズマベルトの中に突入し、そこでラウンドの大気圏内への直接転移。

 そもそも、惑星大気圏内と宇宙空間とのワープは、前例がなわけではないがその多くは無人の惑星であり、そうでない場合でも周辺に集落が存在しない場所で行われている。

 だが、今回は違う。

 大都市の上空に、宇宙空間と繋がる大穴を開け、そこからエクスキャリバーンで降下。そのまま銃口を突きつけ降伏を迫る。

 それが通じなかった場合は……総力戦である。といっても、こちらの持てる戦力はクラレントMk-Ⅱマークツーが4機。同行してくれるレジーナ達タリスマンが8人。量産型クラレントMk-Ⅱマークツーが12機。そして、エクスキャリバーンである。

 たったそれだけの戦力で、地上の部隊を制圧できるかどうか、と言われると正直分からない。

 幸い、ラウンドの戦力の大多数は防衛戦形成のため、近いものでも衛星軌道上に待機。そうでないものでも、予測できる襲撃ルートをカバーできるように広範囲に展開されている。地上の戦力はそこまで多くはない、だろう。


「……ああ。なんて無様」

「そうかい?」

「うわあっ!? いたんですかメグさん!」

「僕は神出鬼没なのさ。で、君の事だマリーちゃん」


 メグはそう言いながらマルグリットの両頬をひっぱる。


「ひゃい?!」

「君は、この期に及んで自分自身の言葉を迷っている。それが無様だというのだったら、確かにそうかもしれない。けど、この場合は違うだろう?」

「でひゅが……いひゃいいひゃい!」

「自分の生まれ育った国を焼くかもしれない。街を滅ぼすかもしれない。最悪、親を殺すことだってあり得る。それをやろうとしてるんだ。悩んだって仕方ない。むしろ、ここに居る大人全員を不甲斐ないとそしる権利が君にはある」


 ようやく解放された頬をさすり、うっすら涙を浮かべてメグを睨むマルグリット。

 だがそんな彼女の頭に手を置いて、メグはわしゃわしゃと撫でまわした。


「すまない。君にすべてを押し付けてしまって」

「いえ。それは……」

「本来は大人たちが決めるべき事を、君に決断させた。その時点で、僕達大人は、大人失格なんだ。きっと、この艦に乗っている大人はみんなそう言うだろうさ。シルルちゃんやレジーナちゃん、それにアニマちゃんみたく長く生きているコもそうだし、アッシュくんやマコちゃんにベルちゃんも、きっと僕と同意見だろうさ」

「それでも。この戦いはわたくしがやると決断して始まった戦いです」

「それも違う。仕掛けてきたのはラウンドだ。それも大人のやったこと。だからさ。子供の君は子供らしく、全部大人に押し付けてしまってもいいんだぜ?」


 にぃ、と笑みを見せるメグは言うだけ言って、去っていく。

 1人残されたマルグリットは頬をさすりながら、しばし考える。


「状況を変える方法は、きっといろいろあった。けど、今のわたくしにはこれしか思いつかない」


 伸ばした手を見つめ、それを握りしめる。血がにじむほど握り締め、その痛みと共に覚悟を新たにする。

 メグは責任を大人に押し付けろ、と言っていた。

 確かにその通りだ。そうしてしまってもいい。きっと、自分の回りにいる大人たちはそれを受け止めてくれる。

 だからこそ、だからこそ。


「シルル、状況は?」

『艦の整備と物資搬入は完了。各部への運搬は9割ほど。改修はハイペリオンの最終調整を残して完了だ』

「では、艦を動かします。作戦に参加しない方はウィガール要塞へ」

『マルグリット』


 通信を切ろうとした時、ふいにシルルに声を掛けられ、手が止まる。


『ロクな思春期を送らせてやれなくてすまない』

「シルル……らしくないですよ?」

『そうかもな。だが、ひとつだけ約束しよう。私達は、君を死なせないし、自分達も死なない』

「やめてください。余計に死にそうです」


 呆れたように笑いながら、通信のスイッチを切った。

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