第198話 計画修正
マルミアドワーズの自爆によって発生したプラズマクラウドは、発生から1時間ほどでその拡散がようやく収まった。
だが、その間にも広範囲に広がり、新たなプラズマベルトとして宙域に定着した。
範囲は極めて限定的。だがそれでも、それはネクサス側の侵攻を止めるには十分であった。
ウィガール要塞ごと移動するのであれば大回りを余儀なくされ、最低でも2週間は侵攻に遅れが出る。
かといって突っ切れば小惑星として元々あった部分はともかく、あとから追加された機械部分は耐えられない。
特に問題になるのは核パルスエンジン。これが破損すれば勿論、その動力源たる核燃料による核爆発が要塞内で起きることになる。
「やられたね。敵の機体を手に入れるという算段も、要塞で突っ込んで防衛網を突破するという当初の計画もご破算だ」
「エクスキャリバーンだけならいけるだろう?」
「正気か、アッシュ。相手はあの規模の戦闘を何度も繰り返せる連中だぞ」
だよな、と嘆息するアッシュ。
エクスキャリバーンならばプラズマベルトの中を進める。
だが、それができるのはキャリバーン号と、初期に製造したローエングリン2隻およびタンホイザーの、それこそ今エクスキャリバーンを構成している艦艇のみである。
その後に製造されたローエングリンやタンホイザーはいわゆる量産仕様。数を製造できるようにとコストを抑えた結果、装甲素材を変更しており、プラズマベルト内の航行には耐えられない。
「んじゃ、ワープドライブでの奇襲は?」
というマコの提案であるが、それにシルルは首を横に振る。
「それもプリドゥエンのエネルギーチャージが間に合ってないから却下。先の戦闘で結構消耗したし、今まではエクスキャリバーンの縮退炉を使って高速充填していたけれど、エクスキャリバーンが要塞内に収まらないからそれもできない。つまり……」
「エクスキャリバーンだけでラウンドの防衛網とぶつかる事になるってことね。考えたくない」
『待て、縮退炉が搭載されているのはキャリバーンだけだろう? ならば……』
「縮退炉を安定させるためにローエングリンとタンホイザーのシステムも使ってるから駄目なんだ。かつて私とアッシュがタイムスリップした時、あの縮退炉は最大出力の
『何が起きるかわからない、か。なるほど。理解した』
「要点をまとめてください、シルル」
マルグリットに促され、シルルは頷く。
「まず、このまま直進は不可能になった。全戦力で挑もうとするならば侵攻は2週間は遅れる。ウロボロスネストもラウンド側戦力であると考えてれば、その間に攻撃を仕掛けられる可能性が高い。ここまではいいかい?」
『はい。だからエクスキャリバーンを動かして、という話では?』
「流石にエクスキャリバーンでもそれは難しい。さっきアッシュにも言ったけれど、ラウンドの戦力はまだこんなものじゃない。しかも我々が眼前に迫っているとなれば、万全の防衛体制で待ち構えるだろう。その集中砲火に、エクスキャリバーンのシールドは耐え切れない。耐えきれるだけの出力を出そうとすれば、シールドジェネレーターがバーストする」
『あっ……』
「かといって、ワープドライブを使って全戦力で奇襲を仕掛けるにしても、プリドゥエンのエネルギー充填が間に合っていないからできない。そしてエクスキャリバーン以外の艦艇は皆、プラズマベルト内の航行ができないとなれば――」
「俺達だけでなんとかするしかない、って訳だ」
当初通りウィガール要塞ごとラウンド本星へ向かうのならば時間がかかりすぎてしまい、相手に攻められる可能性が高い。
かといって最短距離を行くにしても発生したプラズマクラウドによってエクスキャリバーン以外の艦艇は航行不能。
それではワープによる奇襲、ともいかない。ここからでは通常のワープドライブでは距離が近すぎて誤差が大きくなりすぎ、予定通りの場所に出ることはない。やるのならば、エクスキャリバーンが可能としている空間跳躍によるものだが――それを大容量コンデンサにエネルギーを溜めて再現できるプリドゥエンは先の戦闘で大量のエネルギーを消耗。再充填ができるまで、空間跳躍はできない。
結果、この状況ではどうやってもエクスキャリバーン以外の戦力が足止めを食らってしまっている、というのが結論である。
そしてそのエクスキャリバーン単独での作戦行動であるが、ラウンド本星への侵攻ともなればその防衛戦力は今までの非ではない。
「これ、厳しくないですか?」
「かといって撤退もあり得ません。相手は我々に対して連戦連敗。それも、殲滅を含んだ連敗。圧倒的な戦闘力の差で相手の士気は下がっているでしょう。もし、あれだけの戦力が攻めてきたら、と」
マルグリットはそう言って、両肘をテーブルについて手を組んだ。
「ならどうする、マルグリット」
「攻めますよ。時間をかければ攻めるにしても守るにしても相手に猶予を与えます。まあ、できればやりたくはなかった手を使う事になりますけど」
「……そうか」
アッシュとシルル、そしてマコはマルグリットが言おうとしているのかを察したが、この場にいる人間の大半は首をかしげる。
――メグだけは最初から話を聞いておらず、テーブルに突っ伏しているが。
「だったら作戦は単純化する。けれど、いいんだね。マルグリット。それは、大きな犠牲を伴うぞ」
「……こちらも追い込まれているのです。ここで下がれば、今度は相手を勢い付かせます」
『ちょ、ちょっと待ってください。何をしようとしているんですか?』
『流石にそちらだけで納得して話を進められても困るのだが』
「アタシ達に残されているのは敵の本丸を一点突破。それはわかる?」
『はい。それは……でもそれは難しいって話を今、してたんですよね?』
そのアニマの質問に、アッシュ達は頷く。
プラズマベルトに阻まれ全軍での攻撃は不可能。回り道をしている間に相手の攻撃部隊が再度攻撃を仕掛けてくる可能性や、防備を固める可能性を考慮すれば速攻で攻める以外にないのに、それができるのはエクスキャリバーン1隻だけ。
たった1隻で大群を相手にするのは無理がある、と先ほどまでシルルも言っていた。
だが、今はそれが可能であるかのような流れになっている。
「可能か不可能かでいうと、可能だ。ただ、私はそれを組み込まずにプランニングしていた」
『何故だシルル。こちらのほうが数では劣る。取れるべき手段はとるべきではないか?』
「王都上空に宇宙空間と繋がる大穴を開ける、と言ったら?」
シルルの言葉に、今まで話を聞いていただけのベル、アニマ、レジーナが言葉に詰まった。
「そ、そんなことをしたら……!」
「ゼロ気圧の宇宙空間めがけて周辺のものが吸い込まれる事になる」
最初に言葉を発したのはベルだった。だが、そのベルも言葉が続かない。
今から自分達がやろうとしている事を理解し、それをやろうと覚悟を決めた少女の目を見たから、何も言えない。
だが言いたいことは解る。だからこそ、アッシュはベルの代わりに言葉をつづけた。
「できるだけ地上への被害が少ない高度を選ぶつもりだ。だが……ラウンドの王都は高層建築物だらけだ。被害ゼロ、という訳にはいかないだろうな」
「それに、ゲートを開くのはあのプラズマクラウドの中で、です。そうすることで、地上からの攻撃からエクスキャリバーンを守ってくれるはずです」
その言葉に反応したのか、メグが起き上がってマルグリットを真っ直ぐ見つめて、口を開いた。
「本当に、それでいいのかいマルグリット」
「……はい。この戦いを早期決着させるためには、もう父を止める以外にありませんから」
「……そうか。じゃあもう僕からは何も言う事はないよ」
そう言うと、メグは再びテーブルに突っ伏してしまった。
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