第196話 発砲信号
マルミアドワーズの出現により、戦場は混乱しはじめた。
その存在は一応はラウンド側の戦力に数えていいはずの存在である。
その機体の持ち主であるウロボロスネストは、ラウンドと協力関係にある組織であり、『燃える灰』とは間接的、直接的問わず何度も衝突してきた。
故に、その戦力がラウンド側の艦隊にその援軍が送り込まれるのは当然である。
だが、出現と共に友軍であるはずの艦艇を破壊。
さらにはありとあらゆる砲門を開き、敵味方関係なく攻撃を始めた。
ビームが、レーザーが、弾丸が、ミサイルが。
たった1機のソリッドトルーパーの、規格外の大きさの装備から放たれた攻撃が戦場に走る。
だが――圧倒的にラウンド側の被害が多い。
それも当然の話で、両軍のファーストコンタクト時に起きた混乱で行動不能になったラウンド側の艦艇たちはマルミアドワーズから放たれた攻撃に対する防御手段を一切持っていないからである。
ビーム攪乱幕くらいは展開できるだろうが、だとしてもそれ以外の攻撃はそのまま直撃。
「味方じゃないのかっ!?」
「何をする、やめ――」
そしてその被害は、ラウンド側のソリッドトルーパーにも及ぶ。
艦艇に比べて圧倒的に小さいそれらではあるが、単機でも戦艦に匹敵する圧倒的な火力と制圧力による弾幕。
何かを避けても、また別の何かの射線に入るような密度だ。ただのソリッドトルーパーであるクレストやサルタイアがそれに当たればそのまま蜂の巣か――蒸発である。
そもそも、戦艦クラスの攻撃を受けて、普通のソリッドトルーパーが耐えきれるわけがないのだ。
そんな攻撃がほとんど避けることができない密度で飛んでくれば必然的に撃墜される機体も多くなっていく。
「アイツ、アクエリアスの時でも大概だったが……」
「より遠慮がなくなってますね」
アストレアを乗せたハイペリオンは、その弾幕を速度を落とすことなく進む。
万が一被弾しそうになっても、アストレアが重力場を展開して攻撃を防いでくれるため、アッシュは操縦に集中していられる。
「ビーム発射前の熱反応も、以前より上だ。やはり、あの空間を崩壊させることを恐れてセーブしていたな」
「ミサイルの数も多いですね……」
アクエリアスの海底にあった半球内でも、マルミアドワーズは弾幕を展開しエクスキャリバーンと戦闘していた。
だが今は一切の遠慮がない。
徹底的な破壊の力。戦略兵器としては正しい運用方法。
しいて問題をあげるとするのならば、パイロットに問題があり、敵と味方の分別もなく破壊を繰り返す、制御不能な兵器と化しているということか。
「レジーナの位置は?」
「まだアレに張り付いてます」
「常に位置の把握はしておいてくれよ。こっちの武装はビームばっかなんだから」
タリスマンの身体には光であるレーザーは通用しない。
だが、ビームは別であるし、直撃せずともその高熱は周辺を焼く。流石にその高熱には、タリスマンの身体であっても耐えきれるものではない。
が、ハイペリオンもアストレアも、主な武器はビーム兵器である。
下手な攻撃はできないが――その後ろから遅れてやってきてる機体ならばそれができる。
「すまない、遅れた」
「ちょちょちょ! シルルちゃん近づきすぎ! それ以上は駄目だって!」
モルガナ・フルパッケージ。
この場でビーム以外の攻撃が可能な唯一の機体。
だがその足は遅く、さらには2機のクラレント
それゆえに自身では機体の全コントロールを持っているわけではないメグは生きた心地はしないだろう。
「問題はない。ただ問題があるとすれば――出力調整くらいか。ベル、レジーナの位置情報は?」
「そっちに送ります。あと、レジーナさんとの通信は……」
「しないほうがいいだろうね。通信の電波で気付かれる」
「なら、ビームの発光で合図を送ればいい」
アストレアがハイペリオンから離れ、ハイペリオンも人型に変形する。
「ベル、合わせろ」
「解りました」
「発行信号パターンは……メグ、任せた」
「ああーもう! わかってる。わかってるさ。そういう事のために連れてこられているってことはね!」
◆
マルミアドワーズに張り付いた状態のレジーナは、どうすることできずただそこに張り付いていた。
下手に通信装置を使えば、自分の位置が悟られる。
宇宙空間でも活動できるタリスマンであるが、水晶のような形状と性質を持つが身体は生物のそれである。
金属の塊である艦艇やソリッドトルーパーに対応している機体のセンサー類にはまずひっかからない。
流石にソナーのようなものを使われれば別であるが――この巨体と数々の搭載火器をみるに、それらの制御のために相当なリソースを割いているはずだ。
戦闘に必要のないセンサー類まで積む余裕はない、とレジーナは考えた。
だからこそ……その機体の上に文字通り張り付いているのだが。
『ん……? あれは』
彼女の視界に3機の機体が見える。
弾幕を回避し、時には防御しつつ反撃を行っている。
と、どうもその攻撃に違和感がある。
ハイペリオンとアストレアのビーム射撃にパターンがあるように思える。
しばらくそれを眺めていると、それが何であるかをレジーナは察する。
『後ろに下がれ? そうか。発行信号か』
下手に通信ができないからこその発想の転換。
発行信号ならぬ、発砲信号とでもいうのだろうか。
レジーナはその意図を読み取り少し下がる。
それを確認したのか、発砲パターンが変わる。
『その場を動くな、か。なるほどな』
それを理解したレジーナは片手を刃のようにし、光を反射させて合図を送る。
直後、ハイペリオンとアストレアの前に出たモルガナのバックパックの武装ユニットからミサイルが放たれた。
放たれたミサイルは次々とマルミアドワーズの装甲に着弾し、着実にレーザー機銃やビーム砲といった脅威度の高い武装周辺へ着弾していく。
それに続くように、アストレアがビームマシンガンで撃ち漏らした武装に攻撃を仕掛けるも、マルミアドワーズからビーム攪乱幕が展開され、それらの攻撃は着弾することはなかった。
が、ベルが狙ったのはそれではない。
その発砲には規則性があり、レジーナはそれを読み取ることで早速動き出した。
◆
真の意味で倒すべき相手は目の前の3機だけ。
その奥にあるウィガール要塞は――まあどうとでもない。
むしろ、その手前。エクスキャリバーンを落とす。シェイフーはそのことばかりを考えていた。
強固なシールドがあることは知っている。
だがアクエリアスでの戦闘では出せなかった本気を、ここでは出すことができる。その全火力を叩き込めば、いくら驚異的な性能を持っているシールドであったとしても、耐えきれるものではない。
「きひひぃひぃひぃひひっひっひ!」
狂ったように笑いながら、両手の球体状のコントローラーに手を置き、指の細かな動きと視線で各部の砲門に指示を出していく。
ひっきりなしに動くシェイフーの視線。そこに入ったものはすべてが標的。
敵も味方もなく、すべてが破壊対象。
大雑把な説明にはなるが兵士が緊張のあまり射撃を続けてしまう状態のことをトリガーハッピーと言う。が、彼の場合は
最初に引鉄を引いた時の感覚が、緊張からの開放感が、あの銃声が、そのすべてが彼の脳を刺激し、そのすべてを快楽へと変換させた。
故に。彼は撃つことをやめられなくなった。
それは、生身だけでなく、こうして機動兵器での戦闘においても同じだ。
むしろ、機動兵器での戦闘のほうが彼は興奮できた。
何せ撃てば派手に壊れる。爆ぜる。これほど面白い遊びはない。
――だが。この日は違った。
「ミサイル……? げげげげ、げい、げいげききききぃぃぃぃ!!」
思考の全てを放棄した彼は、常人の何倍もの速度で自機に迫るミサイルを迎撃しようと砲座を動かそうとする。
だが本来起動するはずだった機銃が動かない。
――この時の彼は知る由もないが、ミサイルを迎撃できる角度にあるレーザー機銃の大半は先に2機のクラレント
迎撃が届かず、大半のミサイルが着弾する。
「ぐっ……!?」
振動と共に、多数のレーザー機銃とビーム砲が機能停止したことがコンソールに表示され、シェイフーは苛立ちを見せる。
さらにそこへビームの追撃。
流石にこれ以上の被弾はまずい、とビーム攪乱幕を展開する。
これで、ビームによる攻撃は届かない。
だが、何故だか相手のビーム攻撃が止まらない。当たることはない。効果がないと判り切っているのに。
「……まさかッ?!」
瞬間。引鉄から手を離したことで一気に冷静さを取り戻したシェイフーはありとあらゆるセンサーを起動させる。
近くに何かいる。その核心だけはあった。
同時にシールドも展開し、これ以上攻撃が飛んでこないようにと警戒をする。
だが。その直後に彼は――肉眼で宇宙と、水晶のように透き通る人型の何かを見た。
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