第195話 フルパッケージ、出陣

 戦場に戦慄が走る。

 ネクサス側の視点からすれば、純粋に敵が増えた。

 だらラウンド側の視点から見ても、その増援は想定していないし、何よりもワープアウトする際に友軍艦を沈めている。果たしてこれを増援と考えていいのだろうか、と判断に困っている、といったところか。


 事実、新たに出現したそれはネクサスでもラウンドでもない、第3の勢力――ウロボロスネストのソリッドトルーパーである。

 とはいえ、それをソリッドトルーパーと呼称するには無理がある。

 何せ、あまりにも大きい。

 戦艦ほどの大きさを持つそれを、いくらどう説明されたところで、ソリッドトルーパーであるとは誰も信じないだろう。

 ただ、確かにそれはそう分類されるである。

 この巨体はあくまでも本体に付属する増設装備。言ってみれば、巨大なウェポンコンテナであり、追加装甲であり、増設ブースターである。


 その名をマルミアドワーズ。その制御ユニットとして同名のソリッドトルーパーを搭載した巨大兵器である。


『よぉー雑魚ども。オレが来てやったぜ?』


 そうオープンチャンネルで発信するマルミアドワーズのパイロット。


「アッシュさん、あそこって確か……」

「レジーナの取り付いた艦がいた場所だ。まあ、アイツの反応は拾えてるし、通信が入っている」

『指示を仰ぐ。ここからどうすればいい』


 ラウンド側の各機の通信機からレジーナの声がする。


「レジーナ。君はそのままマルミアドワーズをマークしてくれ。いつでも仕掛けられるような位置でね」

『了解』

「アッシュ、ベル。作戦を一部変更する」

「一部変更?」

「何をするんですか」

「あの機体を、鹵獲する。その為に、コクピットだけを破壊したい」

「……なるほど」


 その意味を理解したアッシュとベルは頷いて応える。


「あのー僕はなんのことだか?」


 コクピットの位置が違うとはいえ、同じ機体モルガナに相乗りしている状態のメグは、シルルの言葉の意味を理解しきれていなかった。


「アクエリアスでの戦いを思い出してくれ。奴等の機体は、単独で空間転移を行っていた」

「それが何か? あのマルミアドワーズという機体ならば――あっ」

「気付いただろう? あの時、マルミアドワーズはその装備をエクスキャリバーンの特攻で破壊され、本体のソリッドトルーパー部分であの空間から脱出した。つまり、ウロボロスネストの機体には通常のソリッドトルーパーに搭載可能なほどに小型化されたワープドライブないし、より高性能な空間跳躍装置が搭載されている」

「なら、どちらかと言えば後者の可能性が高い、か」


 シルルとは分野が違えどメグも研究者である。頭の回転は速い。

 彼女たちが言うように、高性能な空間跳躍装置が搭載されていると考えたほうが、状況がよりしっくりくる。

 でなければ今回のように交戦中を狙ったかのようなタイミングでのマルミアドワーズが出現したのに、納得できない。

 偶然、というのはまずありえない。

 ウィガール要塞が落ちてから3日程度。そんな時間で情報を把握し、機体を送り込んでこれるとは思えないからだ。


「アレに搭載されている空間跳躍装置を必ず頂く。各自、攻撃開始だ」

「了解。ベル、乗れ!」

「はいッ!」


 変形したハイペリオンの上にビームマシンガンを連結させたアストレアが乗り、機首となっているシールドから出現したグリップを左手で握りしめて機体を固定するとビームランチャーを構える。

 機体がちゃんと固定されたことを確認した後、ハイペリオンは一気に加速する。

 その後をモルガナが付いていく。

 といっても速度は圧倒的にハイペリオンのほうがが上。どんどん引き離されていく。

 が、それも当然想定内。

 距離が離されたことで、モルガナにラウンド軍のソリッドトルーパーが集まり始める。


「さあ。じんた……おほん。実験開始だ」

「いや待ってくれ。今何を言いかけた!?」


 人体実験。そう言いかけたのだろうと察したメグは抗議するが、それを無視してシルルは追加されたバックパックの武装ユニットを起動。

 まるで棺桶のような形状のそれの外周部に配置されていたハッチが一斉に開き、そこからマイクロミサイルが四方八方に向けて発射された。

 迎撃されにくくするためか、ロックオンした目標に対して直進するのではなく、不規則な動きで迫る。

 狙いを付けられたサルタイア部隊は回避運動を取る。


「今だ、メグ、頼んだ!」

「はいはい。言われた通り!」


 メグは、いつものように、自分の能力である放電能力をコクピットで使用する。

 ただ違うのは――その能力は即座にモルガナの手に持つ杖に反映され、その杖から電撃が放出された。

 その電撃はモルガナ自身が放ったミサイルを穿ち、その爆発に巻き込まれてサルタイア部隊がバランスを崩す。


「もう一発!」

「あとで滅茶苦茶食ってやる!!」

「はっはっは。ベルに1品多くしてもらえるよう交渉しておこう」


 モルガナの杖から再度電撃が放たれる。

 今度は逃げ惑うサルタイア隊に直撃。推進剤に引火し、各機を爆散させる。

 尤も。推進剤に引火せずとも、超高圧電流によって機体のシステムはダウンしている為行動不能。もしシステムダウンしていなくても、中の人間は感電死しているだろうが。


「えげつないねえ、エーテルマシンってのは」

「エアリアの外に出ない理由がわかっただろう。エーテルマシンとは、操縦者の能力をダイレクトに拡張する増幅装置。だから、こういう事もできるって訳さ」


 放電を終え、自身の周囲にいた機体が爆散したことを確認すると、モルガナは再度加速。艦隊に向かって進んでいく。


「敵機接近。縦11時横10時! 高熱反応アリ!」

「了解。防御術式起動」


 メグの指示した方向に左手を突き出し、術式を起動。

 プロテクトフィールドが展開された直後、そこへ無数のビームが殺到する。

 展開された力場によって阻まれたビームは拡散。その返礼として武装ユニットを展開し、今度はユニット中央のビームランチャーが起動し、閃光を放つ。

 が、それを回避するスラスターの光が見え、攻撃が外れたことを悟る。


「避けられた!」

「問題ない。むしろ、射線が開いた!」


 機体が飛んできた、ということはその方向に母艦が存在するということ。

 とはいえかなりの距離がある。普通の武装ならば届くことはないだろう。

 だが、普通ではない武装では?


「エーテルブラスト起動。出力最大、効果範囲最大。射線上に味方の存在なし。発射ッ!」


 モルガナの両肩の装甲が開き、そこからエネルギーの奔流が放射された。

 ただし、それを認知できる者は存在しない。

 放出されたのは、霊素エーテルを極限まで圧縮した破壊のエネルギー。だがそれは不可視の奔流であり、仮にセンサーで感知できたとしてもその時にはすでに命中している。

 かろうじて、その効果範囲の空間が歪んで見える、という現象が起きるものの――それを確認できるほどの余裕が、ラウンド側にあるわけもない。


 たった1発。放たれた不可視の奔流は多くの艦艇と機体を飲み込んで跡形もなく吹き飛ばす。

 照射を終えた砲口を装甲が覆いつつ、排熱が行われ、その両肩から蒸気が噴き出す。

 それを好機とみたか、クレストの部隊がリニアライフルで攻撃しながら接近してくる。

 後ろにはサルタイアがビームランチャーを構えて、援護を行おうとしている。


「ッ!? シルルちゃん、ごめん!」

「っつぁったぁッ!?」


 メグがモルガナに取り付けられた背部ユニットの推進装置を操作。その推力を最大にして、機体を一気に後退させた。

 直後。

 先ほどまでモルガナがいた場所を極太のビームが通過。そのビームは、射線上にいたクレストやサルタイアまで巻き込んで黒い宇宙を照らした。


「助かったよメグ。で、今のは……」

「マルミアドワーズの攻撃だよ……」


 視線を、先ほどのビームを撃った敵に向ける。


『ひ、ひひひひひひ。ひひゃははははは! お嬢からはできるだけ我慢しろって言われてたが、もぉぉぉぉぉッ! 我慢、できねえ!! ここからはバレットフィリアのパーティータイムだ。ここで帰るなんて寒い真似しねえよなあ!? 死ぬまで踊り続けて、オレを楽しませてみせろッ!!』


 マルミアドワーズの各部の砲門が開き、手あたり次第に発砲し始めた。

 弾丸が、ミサイルが、ビームが、レーザーが。ありとあらゆる武装が次々と戦場にいるすべての存在を消し飛ばさんと放たれた。


「あれ、ただのトリガーハッピーじゃないかな」

「だが、アレのおかげでこっちが手を下さずとも敵艦は沈んでいく。エクスキャリバーンへ。展開中の各員の回収を。ただし、レジーナ以外」

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