第193話 混乱する艦隊
ついに。ウィガール要塞とラウンド艦隊の両者のビーム砲が威力減衰を起こさない距離――最大効果射程とでも言うべき距離へと接近。
その間もラウンド艦隊からは巡航ミサイルによる攻撃が進み続けるウィガール要塞めがけて絶え間なく行われていたが、それらはすべて要塞に備わっているレーザー機銃で悉く処理されてしまって有効打にならなかった。
だが、ここからは違う。
高出力のビームが、金属を一瞬で融解させる超高温の閃光が、ウィガール要塞まで一切減衰することなく届くのである。
それはすなわち、現実的かどうかは別として、砲撃で要塞を破壊することも可能である、ということである。
ここからは、数で押しつぶすことのできるラウンド側が優勢に動きはじめる。
何よりも大きいのは、その距離になった時点ですでに部隊を展開し終えていたラウンド側と、要塞に籠り切りになっていたネクサス側では、初動に差があるという点だ。
「ペイレット隊によるプラズマ融合弾頭を使用した爆撃を行う。各艦、その援護を」
通常のソリッドトルーパーと比較して3倍近い巨体を持つ、頭部を持たない巨体が艦隊から飛び出していく。
トゥルウィス級巡洋艦の格納庫をまるごと1つ潰さなければ収容できない巨体のそれは次々と抱えた圧縮プラズマ融合弾頭を起動させ、それを投射する準備を始める。
1発でも確実に小惑星としてのウィガールを吹き飛ばしてしまえるほどの威力を持った爆弾だ。それを数百機分同時に投射されては、まず籠城を決め込んだネクサス側に勝ち目はない。
「艦長、ワープアウト反応! これは……ペイレット隊の直上です!」
「何ッ!? このタイミングで、いったいどこのバカだ!!」
「この反応は、キャリバーンです!!」
「なん、だと……?」
ペイレットたちの真上。そこに出現したゲートから、キャリバーン号の――否、エクスキャリバーンの艦首が出現し、まっすぐ降下してくる。
が、その艦首がペイレット部隊に接触するよりも早く、機体が何かに潰され、爆散した。
「重力兵器か?!」
「いえ、違います。あれは、桁違いに高出力のシールドと接触したことによるものでえす!」
「接触しただけでソリッドトルーパーが潰され、爆散するほどのシールドだと……!?」
そんなシールドを展開するエネルギーがどこにあるのか。
それよりも、ウィガール要塞からこの宙域にピンポイントでワープアウトしてくるのはおかしい。
ハイパースペースを通るのであれば、どうしても距離が必要になる。
宇宙規模で見れば目と鼻の先ともいえる、互いのビームが交差するような距離へのワープドライブなど無謀もいいところ。
今の状況ならば、いきなりラウンド側の艦隊のど真ん中にワープアウトしたり、あるいはワープアウトした先に存在する艦艇と衝突するかしてもおかしくはないのだ。
だというのに、あの巨大戦艦は狙いすましたかのように、圧縮プラズマ融合弾頭を抱えたペイレットたちの前に出現し、その巨体と規格外の出力を誇るシールドを以て押しつぶして見せた。
「いや、待て。そこじゃない。問題は、そこじゃないぞ……」
「各艦、キャリバーンに攻撃を――」
「闇雲に撃っても無駄だ! 臨界状態でなかったとはいえ、融合弾頭の爆発を至近距離で受けてなお全く傷ついていないあのシールドに生半可な攻撃が通用するわけがないだろう! 攻撃を一点集中させるんだ」
ペイレットを次々と爆散させながら姿勢をラウンド艦隊と向き合うように姿勢を変更させるエクスキャリバーン。
そのブリッジ前には、1機の機体が腕を組んで直立していた。
まるで外套を纏ったような機体。スカートを思わせる装甲も存在し、どことなく女性的な印象を与える。
何より――その装甲に施された派手な装飾はまるでそれが貴人が乗っていることをアピールしているかのようにも見える。
『全軍。攻撃を停止なさい』
オープンチャンネルでの呼びかけ。
その声は、この場にいるラウンドの軍人ならば誰もが知っている声であった。
忠誠を誓った国の、第一王女の声。
その声の発信元をたどると、それはエクスキャリバーンの甲板に立っている機体に行き着く。
「マルグリット様だと……!? いや、確かにネクサスの国家代表であったはずだが、まさかこんな前線に出てくるとは……」
「そういえば、ウィガールから逃げてきた連中がマルグリット様がいたと……」
「だから手を出さないと?! ならば何故、ソリッドトルーパーになど乗っている! 我々を攻撃するつもりだからだろう!」
『わたくしはマルグリット・ラウンド。ラウンドの艦隊に攻撃の停止を命じます』
「各艦、従うな! あれは我々が忠誠を誓った王女ではない。敵国の代表だ。生死は問わぬ。あのシールドを突破し、逆賊マルグリット・ラウンドを捕らえよ!」
改めて、各艦の主砲がエクスキャリバーンに向けられる。
「各艦照準リンク。タイミングあわせ……撃てッ!!」
無数の光がエクスキャリバーンめがけて伸びていく。
その数はまるで空を割く巨大な光の剣。
これならば、と誰もが確信しただろう。
が、そうはならなかった。
光の剣と化した10000隻を超えるはずだった戦闘艦の主砲の攻撃は、一部の艦が攻撃に参加しなかったことで大幅に数を減らし当然ながらエクスキャリバーンの展開した強固すぎるシールドを破る事すらできず、光は宇宙に霧散する。
直後。展開した艦隊のいたるところで爆発が発生した。
「何だ!?」
「友軍艦からの攻撃です! 発砲した艦との通信途絶!」
「まさか、あちら側に寝返ったのか!?」
「いえ、発光信号でコントロールを何者かに奪われたと言ってきています!」
「奪われた? そんなバカな……!」
「他にも、侵入者にブリッジを占拠されたという報告も」
「一体、何が起きているんだ……」
◆
マルグリットの言葉に耳を貸す者はそう多くはない。
その証拠に、先ほどの攻撃に参加した艦艇は全体の9割を超える艦が主砲をエクスキャリバーンに向けてきていた。
「一応確認するが、さっきの攻撃。全艦の砲撃を受けていた時どうなってたんだ?」
機体のシートに座るアッシュの質問に、モルガナのコクピットに座るシルルは冷や汗を浮かべた笑顔で応えた。
流石に10000隻以上の一点集中砲火を受ければ耐えきれなかったようだ。
「ま、まあ。流石にもうその心配はないよ。だって……」
エクスキャリバーンのブリッジと連動しているシルルの携帯端末には、先ほどエクスキャリバーンが空間跳躍を行った際に艦隊のいる座標に転送したアストラル体が憑依したオートマトンたちが艦を制圧したことを知らせるシグナルが表示され、同様の方法で送り込んだタリスマン達も艦を占拠したと合図を送ってきていた。
「ここからはあっちが勝手に疑心暗鬼でつぶし合ってくれる」
「ちょっと悪辣すぎませんか?」
『圧倒的戦力差をどうにかするには手段など選べないだろう』
と、ベルの批判をかわすミスター・ノウレッジ。
『始まったよ』
そうマコがブリッジから敵艦隊の様子を映像として各機のコクピットへと送ってくる。
オートマトンたちが制圧したトゥルウィス級による砲撃が、ラウンド側の艦隊を襲う。
ミサイルなども使用し、とにかく派手に攻撃を続ける。
ビームやミサイルによる攻撃まで行えば、流石に攻撃される側も無抵抗というわけにはいかず、回避行動や応戦という対応をとることになる。
が、密集している艦隊の中で、そんなことを行えばどうなるか。
「あっ……」
回避行動を取ろうとした艦同士が衝突。別のところではミサイルを迎撃しようとして放ったレーザー機銃によって味方の艦を撃ち抜き行動不能にさせてしまい、あるところでは迎撃にビーム砲をつかったせいで味方を沈め、またあるところではビーム攪乱幕を使ったせいで効果範囲内にいた友軍艦が迎撃用のビーム砲が使えずミサイルの雨を受ける事になったり。
「これは、想像以上にひどい有様だな」
彼等は当然、悪意があってそのような行動をとり、味方を巻き込んだわけではない。
ただ避ける、防ぐという目的を各々の判断で行った結果、統制がとれず一気に瓦解しただけである。
『ラウンドは確かに強い。それは圧倒的な物量を以て、相手を押しつぶすことが可能であるからだ。だが。彼等はその強さ故、今までまともな戦闘というものを経験したことがない練度が低い者が多い。一度崩れた統制はそう簡単に立ちなおせない』
そう、ミスター・ノウレッジは告げる。
もし彼に身体があったのならば、それはもう悪い顔をしていることだろう。
「このまま何もなければいいが――」
コクピットで待機するアッシュ達。彼等の出番がなければそれでいい。
だが、アッシュとベル、そしてシルルはこんなに簡単に事が済むとは、どうしても考えられず、思わず操縦レバーを握る手に力が入っていた。
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