第188話 突入部隊
エクスキャリバーンをはじめとする主力艦隊による攻撃と、その反対側から行われたたった4機による背後からの攻撃。
この2つの攻撃によってウィガール要塞側は多大な被害を被った。
具体的には、出撃したソリッドトルーパーの2割ほどが戦闘不能に陥っているのだ。
しかし、完全に喪失したのは損失した2割の内の、さらに1割といったところ。
被害としては少ない。少ないが――それでも数百機はすでに撃破。
攻め込んだ側であるネクサス側の総戦力を上回る規模で部隊を展開しているというのに、これだ。
特に、主力艦隊の反対側から攻めてきたのはたった4機。それなのに、その方面に待機していた部隊は全機戦闘不能に陥った。
「……すごいなあ、アレ」
と、戦場すべてを俯瞰できる場所から眺めていたアルビオンは、カムランのコクピットで呟く。
「どのこと?」
「重力兵器のことだよ、リオン」
カムランの隣に待機するヴィヴィアン。
そのコクピットで、リオンはウィガール要塞周辺の情報を収集している。
具体的には、その戦場にいる機体へのハッキング。
しかし、それ行っているリオンの顔は険しい。
何せシステムに侵入できるのはどれもラウンド側の機体だけ。ウィガール要塞そのものへのアクセスもなぜか弾かれる。
「やっぱりだめ。あくせすできない」
「あちらにはずいぶんと優秀なハッカーがいるみたいだから仕方ないじゃない」
「ちがう」
そう、リオンは強く言い切る。
そう。彼女の言う通り、ネクサス側の機体や艦艇に一切ハッキングが通用しないというのはありえない。
優秀なハッカーが1人いたとしても、リオンの技量と処理速度には対応しきれないはずだ。
なのに、アタックを仕掛けてもそれがすべて弾かれる。いや、むしろ弾く程度で留めてもらっているという感覚が、リオンにはあった。
だからこそ、不愉快。それを隠すこともなく、頬を膨らませる。
「おい、アルビオン。流石に迂闊すぎるだろ。オッサンが頭抱えて、シェイフーが慌てふためいてたぞ」
「ああ、ナイア。流石にもう復活したのか」
ガラティンで迎えに来たナイアと共に、アルビオンはこの場を離れる。
「もういいの?」
「ああ。いいとも。見たかったものは見れたし。ねえ、アッシュ……」
「オレ、時々お前が怖いよ」
◆
閃光弾があがる。
それを合図として、エクスキャリバーンがゲートを開き、プリドゥエンを1隻閃光弾のあがったポイントへと向かわせる。
最初からこれは作戦に組み込まれていた事。
アッシュ達が行動不能にした機体を回収するためであり、同時に4機の補給のためでもある。
当然回収した機体のパイロットは惑星連盟条約に則り捕虜として丁重に扱うつもりであるが……それはそれとして、作戦は次の段階へ移行している。
そもそも。主力艦隊による攻撃も、その反対側からの奇襲も、本命の突入部隊を送り込むための陽動である。
そしてその突入部隊は――すでに要塞に取り付いている。
『全く……無茶苦茶だな』
ハイペリオンが空間跳躍した直後に使用したミサイルコンテナ。その時に放たれたのは推進装置のついたカプセルであり、その中にタリスマン達が隠れており、要塞へのミサイル攻撃に偽装して接近。一定距離まで接近したタイミングで自動的にカプセルからタリスマン達を脱出させ、その後要塞へと突撃してカプセルは自爆。
その後は、タリスマン達が自力で要塞表面に取り付き、半開き状態のゲートから内部へと侵入する。
それが、レジーナ達に与えられた仕事だ。
『各員、戦闘準備。極力殺すな、とは言われているが……』
自分達の水晶のような身体。それを変化させて発生させる武器はどうやっても殺傷力の高いものになる。
だからといって攻撃の手を抜けば、自身の身を危険に晒す。
『マルグリット代表から、自衛のための殺傷は許可されている。その意味は、わかるな?』
宇宙空間に漂う霊素に干渉し、仲間のタリスマンに声を届けるレジーナ。
その指示を受け、各自は頷き、己の武器を生成する。
ある者は槍を。ある者は斧を。またある者は鎌を。
各々の腕を使い勝手のいい武器の形に変化させ、タリスマン達は一斉にゲートから突入する。
目指すは、要塞の司令室と、心臓部たるメイン動力部。
最短距離でいくならば、壁や床を破壊していけばいいが、それでは意味がない。
彼等彼女等の仕事は、この要塞をできるだけ破損させることなく入手すること。
そのために、いくつかのゲートにばらけさせてタリスマン達を送り込んだ。
『私達も行くぞ』
『ハイッ!』
レジーナの部隊も、他の部隊からやや遅れて突入する。
スリーマンセルの部隊が、合計5つのゲートに2部隊ずつ。それぞれのゲートから目的地めがけて進軍していく。
侵入するなり、ゲート内に停泊中の各戦闘艦を無視してそのまま通路へと向かい、進軍していく。
各部隊の侵攻情報は、各自の目元に装備されたバイザーに映し出され、各自の反応と事前入手しておいた要塞内部の図面を照らし合わせることで確認できる。
レジーナ達は最後発であるため、他のメンバーがどんどん先へと進んでいくのを追いかける恰好になり、接敵する事もほとんどない。
『第1班、施設内にて接敵』
『第2班、こちらも接敵。無力化する』
『第3班。銃撃が激しく進軍困難。侵攻ルートをBに変更する』
外に出ている敵の数からして、中にも相当数がいるとは思っていたが、案の定抵抗が激しい。
おまけに要塞内はところどころは広く得物を振り回しやすいが、ただの通路となると話は別。
振り回すスペースがなければ、武器化した腕の本領を発揮することができないのに対し、相手が使用する銃火器は、通路が狭くとも関係ない。
銃弾程度ならものともしない身体を持つタリスマン達であるが、だからといって不快感がないわけではないし、何度も受けていると当然命に関わる。
『あっ』
『どうした?』
第3班から間の抜けた声が聞こえ、レジーナは聞き返す。
『あの、なんか相手の装備、レーザー銃なんですけど……』
レーザー銃。対人用の銃器としては最強レベルの装備であり、その一撃は目視してからでは回避不能。かつ貫通力は言わずもがなで、生物だろうと無機物だろうと容易に貫通してくる。
とはいえ、その本質はピンポイントに集束させた光であり、その熱によって対象を焼き切るというものである。
施設内で使うならば当然その熱に対する対策をしていればいいし、光そのものを散らしたり吸収したりできるのならばそもそも当たったところで問題はない。
そんなものを向けられて、なぜそんな間の抜けた声を出せるのか。
「侵入者発見!」
レジーナ達も接敵。兵士たちの手に握られている銃から一斉に光が放たれる。
が、それをレジーナは避けることなくすべて受け止める。
『なるほど。それはまあ、間の抜けた声も出すな……』
レジーナ達タリスマンはその身体の構造上、光を吸収するし、取り込んで自身のエネルギーに変換することができる。
この特性の発見は、食事を必要としない生命であるタリスマン達がどうやって活動に必要なエネルギーを得ているのか、という疑問に対する答えとなり――発見者であるメグは狂喜乱舞したのだが、それはまた別の話。
閑話休題。
早い話が、レジーナ達タリスマン相手に、レーザー銃は一切通用しない。
「な、なんだアイツ等は!!」
「レーザー銃が当たってるんだぞ? なんで……」
『悪いが、我々は先を急ぐ。そこを通してもらおう』
そう宣言すると、レジーナは両肩の装甲を開放する。
『安心しろ。少し、熱いだけだ』
直後。兵士たちの全身を強烈な光と熱が襲い、絶叫が通路に響き渡る。
『今の何ですか、レジーナさん』
『強烈なフラッシュバンみたいなものだ。まあ、その際に発する熱で全身火傷くらいにはなっているだろうがな』
『……えげつねえ』
悶絶する兵士たちをよそに、レジーナ達は再度侵攻を開始した。
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