第187話 派手な陽動
ハイペリオンが高速で飛び回り翻弄。ネメシスが球状の重力場をいくつも発生させて相手の行動範囲をせばめ、アストレアがビームマシンガンで弾幕を展開し相手の数を減らしつつ、さらに行動可能な範囲を狭め、身動きが取れなくなったところに、カリオペがとどめの一撃を放つ。
連携がとれているのは3機だけで、カリオペはそれについていくというよりは、おこぼれを頂戴しているような恰好だ。
「まったく。僕はこれが初陣なんだけどなぁ……」
センサーが表示する敵と味方の識別信号。その数の差は絶望的である。
そのはずなのに、全く負ける気がしない。
この戦いが初陣であるはずのメグだが、この戦いに一切の恐怖を感じていない。
何せ、機体の性能が良すぎる。
多少狙いが雑でも照準をあわせて撃ってくれるし、少しくらい回避が遅くても自動で重力場の盾を形成して防いでくれる。
アッシュとベルの戦闘データをもとに構築された操縦支援用OSのはずだが――もはや機体に乗っているメグは行動を選択するだけで、あとは勝手にやってくれるような状態。
「これではお手軽にエースが量産されるねえ」
と、メグが機体に対する感想を呟いていると、味方の通信が飛び込んでくる。
『ベルさん。攻撃頻度抑えて! 数を減らしすぎです!』
「すいません、ついクセで」
「アニマも重力場出す場所言ってくれ! さっき突っ込みかけたぞ!」
『ええっ!? そんなこといったってアッシュさんの機体が速すぎるんですよ』
「というかアッシュさんも射線上にわたし達がいても普通に攻撃してますよね?」
「お前等なら避けれるだろ」
『「だからって撃たないでください!」』
ここは本当に戦場なのだろうか、と疑いたくなり、メグは通信を聞きながら呆れた笑みを浮かべる。
なんだかんだと文句を言いあってはいるが、これでも連携が取れている。
それに、この戦いは相手をすべて倒してしまう必要性はない。
撤退させなければいいのだ。
むしろ、ミスター・ノウレッジの語る来る対決の日に備えるには生存者は多い方が良い。
なので――アッシュのように高火力ビームで吹き飛ばすのはよろしくないし、ベルのように毎度毎度コクピット直撃コースばかり狙っていては困るし、アニマのように重力場で圧壊させまくるのも本来は避けたいところなのだ。
「雑談なんだが。インベーダーについてどう思う?」
「ドンパチやりながらする話じゃないねえ。まあ、宇宙生物学者としては――あり得る存在だと思うよ」
自身に迫るバズーカの弾丸をビームソードで斬り払いながら、メグはそう言う。
「そもそも、人類の生活圏が銀河単位で広がっているというのに、そういう不倶戴天の存在が未発見だったことそのものが不自然だったと言えるね」
「サメカラスは?」
「あれは害獣程度の扱いだろう? けれど、僕らはゾームを、オームネンドを知っている。それらを用意しなければ勝てなかった相手。1万2000周期事に現れる生きた災害。ミスターの話を聞く限り、僕はそんな印象を受けたね」
『それがもうすぐ、この宇宙に現れる』
「問題はそれがどこで発生するか、どれくらいの規模なのか、という事が一切わからないことだ。もしかすると、大昔の怪獣映画に出てくる宇宙怪獣みたいなものだったりするのかもしれない。それこそ、恒星を巣にするだとか、ブラックホールの中を泳ぐだとかね」
敵の攻撃を避け、反撃として蹴りを繰り出すカリオペ。
足癖が悪いのは、きっと元の戦闘データが原因だろう。何せ、アッシュは近接時は手よりも脚をよく使う。
まあ、携行武器を入れ替える手間とそのまま殴って破損させることを考えれば蹴ったほうが早いというのはわかるが。
「ブラックホールの中を泳ぐって……そんなのあり得るんですか?」
「確認できていない事をありえないと言い切るのは不可能だよ」
「まあ、そうなんだけどな」
4機のクラレント
コクピットを貫いたベルの攻撃以外はみごとに外れる。
「いや、当てるなって」
「無理です!」
「言い切るなよ。まったく」
呆れながらも、群がってくるクレストとサルタイアをまとめて蹴り飛ばし、両肩のビームソードを抜いてそれらの四肢を切断するアッシュ。
即座に次の目標に向けてビームライフルの銃口を向けて発砲。流石に相手も一方的にやられる訳はなく、その銃口の向きを見て回避――した先にいたネメシスが振りかぶった腕に弾かれて勢いよく戦場から離れていく。
「しかし、アッシュくん。もう少し数を減らしてもいいんじゃあないかな?」
「いや、加減しないとほら……ベルとお前が次々と撃墜しちゃうからさ」
「ああ、うん。そうだね」
ベルはもはや本能とか反射的とか無意識のレベルで相手のバイタルエリアを的確に攻撃し、着実に撃墜数を稼いでいる。そうしなければ、反撃を許してしまい、自分の身を危険に晒す事もある。
ベルの言う手加減できない、というのはそういう事もあってのことだ。
そして、その手加減できない動きというのは、ベルの戦闘データを元にした戦闘支援OSを組み込んだ4号機・カリオペも同様。
メグのパイロットしては技量不足な操縦をOSが支援した結果、ものの見事にコクピット周辺を狙うようになっている。
『アッシュさん。あと200秒で目標到達します』
「了解だ。アニマ。もっと派手にやってくれ」
『いいんですか?』
「200秒だろ。もう十分陽動の役目は果たした。撃ち漏らしは、俺がやる。メグ、ライフルくれ」
「はいはい」
カリオペからビームライフルを受け取るハイペリオン。
その横で、ネメシスが両腕を広げる。
「ベル、戻ってこい」
「あっ、了解です」
前に出ていたアストレアも、ネメシスが両腕を広げたことに気付いて反転し、4機のクラレント
そこへと群がる残存のソリッドトルーパー。といっても、軽く100機くらいはいる。
「さすがラウンド。あれだけの兵力を失ってなお、これだけの戦力を用意できるんだからな……」
『チャージ完了。
ネメシスの両腕の間に発生した超高重力場。それを放射し、効果範囲内の敵機をまとめて圧壊させていく。
流石に発射直前に重力異常が観測されるため、とっさに回避行動をとった機体も多い。
だがそれでも、そのたった1発で接近中のソリッドトルーパーの大半が圧壊。
攻撃を回避した他の機体は何が起きたのか理解し、戦慄する。
先ほどまで発生していた重力場は、効果範囲がせまく、自ら突っ込まない限りは被弾もしないし効果を発揮しないものであった。
だが、今放たれたのは違う。
効果範囲に入れば引き寄せられ、実際に圧壊させる実効範囲に引きずり込まれれば脱出する手段は存在しない。
そんなものを、そんな超兵器をソリッドトルーパー程度の大きさの機体ができるものなのか。
――現実、できている。
「マルチロック完了。全部撃ち落とす!」
生き残った機体も、ハイペリオンのウイングバインダーから展開した高出力ビーム砲と両手のビームライフルの連続攻撃で次々と行動不能に追いやられていく。
威力が高すぎるビーム砲は、下半身を狙い、両手のビームライフルでは頭部や武器を持っている腕などの部位を攻撃。コクピットを破壊せず、的確に相手の行動力と戦闘力だけを削いでいく。
「ベルちゃんの見敵必殺もなかなかえげつないけど、行動力を奪って放置するアッシュくんもなかなかにえげつないねえ。これだけ派手にぶっ壊してたら味方同士での回収もできないだろうし」
「この戦いが終わったら回収してやるんだ。文句はないだろう。そのために、俺達はここで待機だ」
ハイペリオンが右手を掲げて指を曲げ、付け根に仕込まれている発射管から信号弾を放ち、合図を送る。
「あとは、レジーナ達に任せよう」
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