第186話 バックアタック
ウィガール要塞はそのメインシステムがハッキングを受けその機能の大半を喪失。
生命維持機能は生きているが、実弾砲座以外の砲座は全滅。要塞内に格納されていた艦隊はゲートが開かず出撃不能。
かろうじて出撃できたソリッドトルーパー隊は突っ込みすぎた結果――横一列に並んだ新型機――量産型のクラレント
次々と重力兵器を使うソリッドトルーパーと、それらの攻撃が止まった直後に飛んでくる艦艇による重力兵器の攻撃。
幸い、効果範囲と射程はかなり限定的であり、その範囲に巻き込まれなければ問題はない。
が、重力兵器の射線は宇宙空間では目視が困難であり、下手に近付くこともできなくなっていた。
一方的。あまりにも一方的な攻撃だ。
いくら装甲が頑丈であっても、ビームを弾くコーティングが施されていたとしても関係ない。
超重力場による圧壊。効果範囲に入れば中心へと引き寄せられ、実効範囲には入れば指向性を持った重力場により引きちぎられるようにして圧壊する。
ラウンド側の兵士たちも頭ではわかっていたことだ。自分達の国が喧嘩を売った相手はそういう兵器を製造できる技術を持っている事を。そしてその兵器がどれだけ驚異的なものであるかを。
だがその脅威を目の当たりにした戦場の兵士たちは、味方の撃破に怒るでもなく、ただじわじわと後退させられていく。
当たり前だ。
人間は、そう簡単に恐怖を克服できない。
目視困難で、当たれば即死。当たらなくても効果範囲に入ればその時点でアウト。
しかもそれがほぼ間隔を開けずに連射され、じわじわと敵の艦隊が接近してくる状態。
敵前逃亡ともとれる行動であるが、それを非難し要塞の司令官が声を荒げてはみたが、各ソリッドトルーパーのパイロットたちは皆同じ返答をする。
「あんなのにどうやって戦えっていうんだ」
と。
一方。ネクサスの主力艦隊と戦っているほうを正面とするならば、後方にあたる宙域にも、少数ではあるがソリッドトルーパーが展開していた。
こちらもハッチが開かなくなった影響で母艦となる戦闘艦が出撃できず、やむなく機体だけで出撃して警戒を行っているところだが――司令官はここにいる部隊も前に出て戦え、とノイズが激しいながらになんとか生きている通信回線越しに怒鳴ってくるが、そんなことはできない。
この位置からでも、前線の阿鼻叫喚具合が伝わってくるし、あんな場所に突っ込んでは命がいくつあっても足りない。
それに、こちらを手薄にして背後から攻撃を仕掛けられたら、無抵抗でウィガール要塞への攻撃を許してしまうではないか。
敵の艦隊が展開しているほうからの攻撃が今いる場所に届くことはない。
ビーム砲ならば届くかもしれないが――前線の部隊がどうにかしている間は、ソリッドトルーパーのような小さな的に戦闘艦の砲門が向くことはないだろう。
「前線は大丈夫だろうか」
「それより、自分の身を心配したほうがいいぞ。奴等の戦力は異常だ。いきなりこっちから攻撃が飛んでくるなんてことも……」
そう、彼等が話していると、機体のセンサーが
その反応はまるで、何かがワープアウトしてくるかのような反応であった。
瞬間。空気が張り詰める。
援軍か? 否。断じて否である。
味方であるならば、事前に連絡が来るはずであるし、安全のためもっと離れた場所にワープアウトするだろう。
なのに
「来るぞッ!」
霊素が空間を湾曲させ、どこかとどこかを繋げ、ゲートが出現する。
ワープドライブによる長距離航行と同じ現象が、今まさに彼等の目の前で起きている。
ただ、それは彼らが知るそれとは大きく異なり、開いたゲートの向こう側の景色まではっきりと見えた。
「なんだ、あれは……」
「まさかこれって……!?」
それに気づいた時にはもう遅い。
宇宙に開いた大穴から見えるのは、敵の旗艦たるエクスキャリバーン。
その両舷から2機ずつ機体がリニアカタパルトによって射出され、ゲートを通って彼等の眼前に現れた。
1機は戦闘機のような形状をし、後部には何やら巨大なコンテナを取り付けており、そのコンテナはゲートを通り切るなり装甲がはがれ、中に仕込まれていたマイクロミサイルを一斉にばら撒いた。
「散開、散開ぃっ!!」
ミサイルの雨を避けようと、クレストとサルタイアが全身の推進装置を噴射する。
だがミサイルは機体を追いかけることなく、ジグザクに不規則に動きながらウィガール要塞のほうへと飛んでいく。
「なんなんだあの攻撃は……」
「隊長ッ!」
「しまっ」
隊長機であるサルタイアに、異形の腕を持つ機体が迫り、その手で頭部を鷲掴みにして握りつぶす。
ただ潰された、という風には見えない。何せ、まるでその頭を掴んだ巨大な指の形に押しつぶされていったのだ。
それはつまり、重力場による圧壊。
「じゅ、重力兵器を搭載したソリッドトルーパーだとッ!?」
自身等の機体より大雑把に2倍ほどある体躯の機体たち。
両手にビームマシンガンを持った機体が弾幕を展開し、逃げ場に困った機体をほかの3機と比較して地味な機体が、的確に処理していく。
「なんななんだこ――」
言い切る前に、戦闘機型の機体が背後から急接近。衝突寸前で人型に変形し、その肩から抜いたビームソードによって縦一文字に切り裂かれ、残った部分を蹴り飛ばす。
「たった4機だろ! 数で押せばなんとか……!!」
はたして、それはどうだろうか。
彼等、ウィガール要塞駐屯部隊の兵士は、自分達が戦っている相手がどんなものか、という事を理解せず戦っていた。
そもそも。最初から相手のほうが技術力では上であるという事を、知ってはいたがこの瞬間まで理解できてはいなかった。
ラウンドは重力兵器を実現させることができていない。理論はできていたが、その理論も以前の技術開発主任の出奔時に削除されて失われた。
さらにはそれを戦闘艦ではなく、ソリッドトルーパーに搭載するなど惑星国家ネクサスの軍事技術はラウンドの何歩先をいくのか。
それだけでなく、ビームを刃状に発振し続けることはラウンドの技術では不可能であるし、可変機など見たことも聞いたこともない。
「なんだ奴等は。バケモノか」
「戦力を決定づけるのは数です! 数さえいれば……」
たった4機。対するこの場に展開しているラウンド側のソリッドトルーパーは残り120といったところか。
戦力差、30倍。包囲して相手を誘導し固定。その周囲を旋回しながら四方八方から撃ちまくれば、勝ちの目だって見えてくる。
だが、相手が重力兵器を搭載しているならば、当然その望みすら潰える事になる。
しかしだ。
やらねば、抵抗せねば、このまま蹂躙される。そんな確信が、彼らの中にはあった。
だからこそ、全員武器を構えて暗号通信で作戦の伝達と共有を行い、攻撃を開始した。
たった4機であるから、それを追い込むのは容易であった。
1機あたり30機もつければ簡単に自由な場所へと押し込んでいける。その間も攻撃の手を休めない。
「このっ、このッ!」
マシンガンによる包囲しながらの攻撃。それらは防がれたり、回避されたりでまともな効果があるようには見えない。
それが、兵士たちを焦らせる。手を抜くことは即座に死を意味する。
だから手を緩めることなく攻撃を加えるが――攻防は一瞬にしてひっくり返る。
突如として腕の長い異形の機体が両手を掲げた。
その瞬間、球体状の重力場が大量に出現。
その球体に巻き込まれて、機体が砕ける。曲がる。押しつぶされる。
「くそっ!」
戦い慣れている兵士の1人は、幸か不幸かその重力場に巻き込まれつつも、巻き込まれた左腕の肘関節をマシンガンで破壊して離脱することで攻撃を回避することができたが――その直後にビームマシンガンによって蜂の巣にされた。
「なんなんだこれは、どうすればいいんだ……!」
――のちに。この戦場を生き残った兵士はこう語った。
あれは『黙示録の四騎士』だ、と。
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