第185話 三段撃ち

 宇宙要塞ウィガール。

 この恒星系においての第4惑星モルゴスの周辺宙域に存在する資源採掘用の小惑星ウィガールに手を加えて要塞として改造したものである。

 最大径約260キロメートル。最短径約210キロメートル。形状としては瓢箪型、と言い表すのが最も口伝するには適しているだろう。

 当然ながらこんな巨大な物体すべてが施設というわけではない。

 だが、全域を守るための砲台は当然ながら存在するし、至る場所に手が加えられ、いざという時には装備された核パルスエンジンによる推進で移動もできる。

 故に、要塞。

 下手に機械化するよりも、岩石がむき出しになっているほうが防御力に優れ、内部はまだ採掘しきっていない資源もあり、内部の工廠施設を使い、ここでソリッドトルーパーや艦艇、そしてそれらに使用する武器や弾薬なども製造している。

 それは戦える生産プラント。

 惑星国家ラウンドにおける重要な軍事拠点の1つである。


 常駐戦力は最低でもトゥルウィス級巡洋艦500。キャスパリーグ級戦艦200。

 ソリッドトルーパーは軽く見積もっても10000。

 要塞というだけあり、全方位に対応できるだけの武装を持ち、その穴を埋めることができるだけの戦力を常駐させている。

 一見すれば難攻不落。実際、生半可な戦力では容易に叩き潰されるだけの戦力が、このウィガール要塞には存在している。

 故に。ラウンド本星同様、この要塞に攻撃を仕掛けようという者は少ない。

 勿論、戦争ともなれば重要な軍事拠点であるウィガールを攻めない理由はないし、過去に幾度か戦闘になったこともある。

 尤も。その度に勝利してきたのは言うまでもないが。


 が、しかし。今回は相手が悪い。

 先の戦闘で展開を読んでいたかのような布陣で先制攻撃を仕掛けたラウンド側の戦力――21300隻の戦闘艦隊を部隊展開前にたった200隻で壊滅させた惑星国家ネクサス。

 もしそんな相手が、本気になって攻め込んできたら、この要塞など簡単に攻略されてしまう。

 とはいえ、この恒星系とネクサスのある恒星系はワープドライブでも3カ月はかかるため、襲撃が来るのはまだ先である。

 それに、未だ発展途上にあるあちら側がそう簡単に攻撃を仕掛けてくるとは考えられない。

 何せ片道3カ月。往復で半年。それだけの間の食料をどうやって確保するというのだろう。

 1隻ならばともかく、戦争に投入するような艦隊分の食料を半年分も確保するのは容易ではない。

 それに、片道でそれだけかかるということは、その分補給線も伸び、攻め込むほうは物資不足に悩まされる事になり、圧倒的な物量でラウンドに劣るネクサス側は下手に攻めれば物資不足で自滅する事になる。

 ――はずなのだ。


「ワープアウト反応感知! 大質量物体が……いえ、複数の反応を確認!」

「なんだと!? こんなところになにが……まさか、いや。そんな訳がないっ」


 彼等は目にする事になる。

 自分達の常識を超えたところにある、圧倒的な力というものを。



 ウィガール要塞の目と鼻の先にワープアウトする惑星国家ネクサスの主力艦隊。

 旗艦エクスキャリバーンに加え、プリドゥエン15隻。

 ローエングリン10隻、タンホイザー4隻。

 要塞攻略のための戦力としてはかなり少ない。数であり、それらの艦載機である量産型のクラレントMk-Ⅱマークツー60機とクレストが120機を加えてもまだ足りない。

 戦力差は圧倒的にラウンド側の有利。だが、それをひっくり返すだけの戦力が――4機のクラレントMk-Ⅱマークツーの存在が、この戦いの行く先を不明瞭なものにしている。

 1号機ハイペリオン。可変機構を採用した初のソリッドトルーパー。

 2号機アストレア。高機動白兵戦に特化した機体。

 3号機ネメシス。重力制御機構グラビコンを積極的に攻撃に使用することを念頭においた機体。

 4号機カリオペ。標準的な機体を目指した――シルル・リンベが設計した汎用機の、現時点での到達点。


 ネクサスの艦隊は全艦がワープアウトするなり、それぞれが艦載機を放出。

 真正面からウィガール要塞攻撃のために進軍。

 足並みをそろえて迫るそれに対抗すべく、ウィガール要塞側も戦闘艦を次々と発進させようと、要塞各部のゲートを開いていく。

 が、ここで要塞側に異変が起きる。ゲートが開き切らないのだ。


「さすが私の作ったセキュリティーシステムだ。拮抗するまでに10秒かかった」

「要塞のセキュリティーを突破するのに10秒かかってないんだよ」


 エクスキャリバーンから行われたハッキング。それによってウィガール要塞のセキュリティーシステムがダウンし、それと同時に行われた攻撃によって要塞の機能への攻撃を行われ、それによって要塞そのものの機能が停止。

 ゲートは開き切らず、巨大な要塞を守る各砲座も機能しない。無論、有人で操作できる実弾の砲座はともかく、要塞からエネルギー供給を受けるビーム砲やレーザー砲座などは機能不全に陥っている。


『システム掌握率80パーセント。このくらいでやめておこう』

「その残り20パーセントは何が残ってるのさ、ミスター」

『生命維持関係だ』

「なるほど」


 マコは納得し、操縦桿を握りなおす。


「さて、と。準備はいいかな、主力の3人と1人」

『あれ、僕さらっと別の括りにいれられた?』

『まあまあ。とにかくわたし達は露払いをしましょうよ』


 この戦いは、要塞をそのまま頂戴することが目的。

 破壊するだけならば、もうとっくにやっているし、出来ている。

 ミスター・ノウレッジから聞かされた、インベーダーと呼ばれる存在。

 それが本当に存在するというのならば、少しでも戦える力は残したまま戦いを終える必要がある。

 尤も。要塞を攻撃するのだから、当然抵抗は激しくなるし、無傷で制圧することは容易ではないが。


「っと、マルグリット。要塞からソリッドトルーパーが出てきた。戦闘艦を出すのは諦めたみたいだ」

「……」


 いつもはアッシュが座っている席に座るマルグリットは、緊張を和らげるように深呼吸を何度か繰り返し、友軍艦に向けて通信回線を開く。


「全軍攻撃開始! Mk-Ⅱマークツー部隊、Gプレッシャーライフルのロック解除。使用を許可します。 タンホイザー各艦も重力衝撃砲グラビティブラストスタンバイ。Mk-Ⅱマークツー部隊の攻撃の穴を埋めてください」


 60機のクラレントMk-ⅡマークツーすべてがGプレッシャーライフルを装備し、艦隊の左右に30機ずつ展開。

 左右に分かれた機体はさらに10機ごとの横並びで3列に並び、最前列の機体がGプレッシャーライフルを構えて迫る敵機に狙いをつける。


「撃てッ!!」


マルグリットの号令とともに、超重力場が放たれ、それに巻き込まれたソリッドトルーパーが圧壊していく。

 狙わずとも当たる。放たれた重力場の影響圏内に機体があれば、それに引き寄せられて捩じ切られる。

 重力兵器の恐ろしさはこれである。

 直撃せずとも、それが発する引力によって相手を巻き込んで破壊出来てしまう。

 そしてそんなものが今、機体の携行武器として60個も存在している。

 勿論、連射できるような武装ではない。

 だが、それだけの数があれば――射手を入れ替える事で擬似的な連射は可能である。

 最前列の機体が攻撃を終えると、最後尾に移動。

 2列目にいた機体たちがGプレッシャーライフルを構え、再度攻撃を行う。

 そしてそれが終わればまた後列に移動し、後ろの機体が前にでて攻撃を行う。


「Gプレッシャーライフルの三段撃ち。火縄銃ならともかく、重力兵器でやられると恐ろしいね」

「相手に近付かせないようにするのが目的ですからね。今のうちに、アッシュさん達を出します」

「了解。ワープドライブ起動。開いたゲートへ各機射出!」

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