第184話 要塞制圧計画
エクスキャリバーンのブリッジ集まったいつもの5人と1機のバトルドール。
それに加え、レジーナとメグの姿もある。
「さて。ブリーフィングを開始しましょう」
そう切り出すのはマリー――否。マルグリットである。
これはいつもとは違い、国家の代表として今ここにいる。
エクスキャリバーンは、惑星国家ネクサス軍の旗艦となる艦――いや、機動要塞である。国家の代表たるマルグリットがそれに乗り、指揮を執る、というのはおかしい話ではない。
事実。士気を高めるには有効な手段のひとつである。
だが、ネクサスの場合はそうも言いきれない。
「今回の戦いで、最低でも相手の総戦力を2割は削ります」
「無茶苦茶いうねえ」
と、マコの言葉通り、惑星国家ラウンドの総戦力の2割というのはとんでもない規模の戦力である。
先の先制攻撃の際に送り込んできた艦隊でも全体からみれば1割もあるか、といったところで、そんな規模の戦力を相手にするとなれば、どうやっても戦力が足りない。
確かに、送り込まれた艦隊をたった200隻の戦艦だけで文字通り全滅させはした。
だがあれは事前にミスター・ノウレッジから提出された出現予測地点にあらかじめ適切な配置で艦隊を配備できたからと、後続はまず現れない状況での戦闘でだったからできた事である。
今回はいくら相手の情報を得られたしても、敵陣に殴り込みをかけるのだから、現在の惑星ネクサスの総戦力で挑んだところで物量で押しつぶされるのが関の山。
にもかかわらず、相手の総戦力の2割を削る、とマルグリットは言う。
「今回仕掛けるのは、惑星国家ラウンドではなく、宇宙要塞ウィガール。これはラウンドにとっても重要拠点」
「ラウンドのある恒星系における第4惑星モルゴス付近に存在する小惑星ウィガールそのものを使用した宇宙要塞でね。艦艇用ドックや工廠を含む軍事施設。ここを制圧すれば、武器や機体の供給に打撃を与えることができる」
「ちょっと待て。簡単に言ってくれるな、シルル」
「簡単ではないさ。ただ、簡単にする」
にぃ、とシルルが悪い顔をする。
『あー。もしかして防衛網を停止させる、ってことですか?』
「アニマ正解。ただ、これには問題がある」
「問題、ですか?」
「ここのセキュリティシステムを作ったのが私だということだ」
「あっ……」
その言葉で察せられる。
シルルは今、こちら側にいるが、元々はラウンドの技術開発主任である。
それも彼女の年齢から考えれば、ラウンドの発展そのものに深く関わっていた可能性が高い。
当然、要塞のセキュリティシステムを彼女が構築していてもおかしくはない。
「メインシステムを攻撃するためには、まずセキュリティを突破する必要がある。これは私が担当しよう。が、おそらくだがそれで精一杯になる。だからシステム攻撃は別の人間が――と思ったのだけれど」
『そこは私が担当しよう』
と、ミスター・ノウレッジがブリーフィングに参加する。今もラウンド側へ偽りの報告を送り続けているはずだが、そんな余裕があるのだろうか。
しかし彼もまた、始祖種族が遺した遺産のひとつ。人類の生存圏の情報をすべて収集できるだけの記憶容量と処理能力を持っているのだから、基地1つの機能を壊す程度のことは、片手間で済ませることができるのだろう。
「こちらとしては、ミスターのスペックは把握できていない以上あまり無理はさせたくないのだがね」
『問題はない。宙域のジャミングも任せたまえ』
「ウチの戦力ってもしかして異常だったんですか?」
「ベルちゃん。気付くの遅くない? 僕ですら気付いていたよ?」
振り返ってみれば、エクスキャリバーンの縮退炉、オームネンドであるモルド、始祖種族の情報収集用端末であるミスター・ノウレッジと現代の人類の技術で再現不能な技術の結晶が、惑星ネクサスには集まっている。
これを異常だと言わずしてなんという。
それだけではない。現代技術のみで生み出された重力兵器に陽電子砲。
戦力の頭数はともかく、攻撃性能だけでみればラウンドにも負けていない。
「とにかく。シルルとミスター・ノウレッジがあちらのシステムを滅茶苦茶にかき乱している間に、エクスキャリバーン含む主力艦隊は機動部隊を用いてウィガールへ攻撃。その攻撃開始のタイミングにあわせ、タリスマン部隊を投入。レジーナさん。現場の指揮はお任せします」
『ああ。心得た』
「今更だけど質問いいかな?」
「何かな、マコ」
「ぶっ壊したほうが早くない? 重力兵器も、陽電子砲もあるんだしさ」
確かに。制圧するためにタリスマン達を危険な目にあわせるくらいならば、最初から
にもかかわらず、今回の作戦の目標は制圧。基地への大規模攻撃は行わない、というものだ。
こちらとの戦力比を考えれば先手で強烈な一撃をお見舞いして早期に決着をつけたほうが確実であるし安全であるが、わざわざ制圧しなければならない理由とは何か、とマコは尋ねている。
「それについては――ミスター。お願いします」
『来るべき試練の日に向け、人類にとって大きな損失を与えるような行為は避けたいのだ』
「来るべき、試練の日?」
メグの言葉に反応してか、メインスクリーンにどこかの始祖種族の遺跡に描かれている壁画が表示される。
『始祖種族の壁画、か。サンドラッドにもあったが、あれは風化がひどく解読どころではなかったが……こちらはずいぶんと保存状態がいいようだ』
『人のほうは、おそらく始祖種族でしょうけど。もう一方のは……』
アニマが言う通り、構図としては数人に人間が武器を持ち、何かよくわからない黒い塊のようなものに駆けていくような風に見える。
とはいえ文字が存在しない以上、その見方で正しいかどうかはわからないが。
「この壁画は、ミスターが収集しているデータによれば、フォシルにある遺跡のものらしい。尤も、この遺跡は発見される前に戦争で吹き飛んだらしいが」
『そしてこの黒い塊として描かれているものが、未確認領域起源侵略性敵性生命体。1万2000周期事に現れて襲い来る、文字通りの意味での
「ちょっと待ってください。インベーダーということは、この存在はまさか……」
『ああ。そのまさかだベル・ムース。始祖種族が接触した、敵対的な未知の生命体。人類とはどうやっても解り合えず、進んだ科学力を持った始祖種族が宇宙中に超兵器を残した理由。そしてこの侵略者が現れるのが目の前に迫っている。それと戦うために、力は削りすぎてはならないのだ』
そう、始祖種族によって生み出された宇宙最古級の人工知能は語る。
同時に。ゾームのように巨大かつ規格外の兵器が、他の惑星にも存在する可能性がある事を示唆している。
『参考までにだが、そのインベーダーとやらとの戦闘記録は残っていないだろうか?』
『記録は少ないが、ゾームの火力やオームネンドが必要になった、と言えばその脅威度が伝わるだろう』
「……それは」
アクエリアスで眠っていたゾームが地上から大気圏外の目標を狙撃することができるほどの荷電粒子砲を備えているのは、つまりそれくらいの火力がなければ向かってくるインベーダーを倒せなかった、ということだろう。
そのゾームの攻撃にモルドが――オームネンドが耐えられるようにできていたのも、それほどの防御力がなければインベーダーの攻撃に対応できなかっただろう。
そう考えれば、インベーダーという存在が今の人類にとってどれだけの脅威になるのか、この場にいる人間ならば誰もが理解できていた。
「だから制圧なんだ。それに、艦隊のエネルギーチャージのためにも施設を無事に確保する必要もあるしね」
「つまりは……」
「ああ。エクスキャリバーンとプリドゥエンだからできる、超長距離空間跳躍による連続拠点攻撃。そしてそれらの奪還に動いて薄くなった本陣を叩く。時間との勝負だが――その時間は、十分にある。これなら、無謀だとは言い切れないだろう?」
そういってシルルはいつものように、悪い笑みを浮かべるのであった。
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