第183話 攪乱
21300対200。
100倍以上もの戦力差を覆し、ラウンドとネクサスの初戦はネクサス側の勝利に終わった。
しかも、撤退する暇すら与えない一方的な攻撃による蹂躙という形で、ラウンド側は投入した全戦力および人員を失う事になった。
戦闘後にネクサス側から宇宙中に向けての発表があり、ラウンドも帰還者がゼロである事を認め、この戦いの結果は宇宙中の話題となった。
無敗の最強武装国家。その初めての敗戦が、まだ惑星連盟に認可されて日も浅い新興国家との戦闘であった、というのも驚きを以て迎えられたが、それよりも大衆の目は、ネクサスの投入した兵器に向けられていた。
圧倒的な戦力差を覆せるだけの兵器。それをこの短期間で生産できるだけの生産力。
その正体について、大体の見当はついていた。
重力兵器。それを投入したのだ、と。
――実際には、それに加えて陽電子砲なんてものまで投入されている、とは誰も考えなかったようだが。
しかし、この大敗を以てラウンド側は徹底抗戦に舵を切る。
あれだけの人員と兵器を喪失してなお、投入する戦力に余裕がある。流石の軍事大国であるが、それを操る人的資源はどうにもならないはずだ。
だが――ラウンドは全滅を確認した直後にすぐさま部隊を編成してみせ、それが虚言などではないことを知らしめた。
むしろ、大敗という結果を受けて、引き下がることができなくなった、といったところだろう。
ラウンドからネクサスまで、どれだけ急いだところで3カ月はかかる。
当然その逆も同じだけの時間がかかるはずであり、奇襲を受けてなおネクサスはラウンドに攻め込むための部隊を送り込んだ、という事は確認されていない。
少なくとも、ラウンドはネクサスを監視している部隊からのハイパースペースリンクによる高速通信で把握している。
その動きは、非常に不気味である。
反撃をするならすぐにでも動き出してもおかしくはない。にもかかわらず、目立った動きがみられない。
そんなことがあり得るのか、と。
尤も。そのからくりをラウンド側が知る事になるのは――この戦争が終わってから、ずっと後の事になる。
◆
ラウンドとネクサスとの戦闘が起きてから3日経った惑星ネクサス周辺宙域。
そこにラウンドが派遣した偵察部隊の艦艇が本国からの指示を待っていた。
ラウンドの攻撃部隊が全滅したことを本国へ知らせたのもこの部隊であり、同時に現在もほぼリアルタイムでネクサスの動向を監視。その情報を本国へと送り続けている。
最悪、このままネクサス本星へと直接攻撃する事も想定し、ペイレットを艦の両舷に懸架している。
とはいえペイレット――正確にはその胸部に抱えられている規格外の破壊力を誇る高濃度圧縮プラズマ融合弾頭の使用は最終手段。
この部隊はあくまでも敵情を観察するための部隊であり、現状において自衛以外の交戦許可は出されていない。
「……ん?」
「どうした」
「いや、衛星軌道上に何か……」
そう、呟いた時にはすでにことが終わりに向かい始まった。
突如として艦を襲う衝撃。続いてブリッジのモニターにエアロックが開いているという警告が表示され、画面一面を赤く染める。
それだけでも十分混乱するような出来事であるが、ブリッジの前に巨大な人型が現れる。
「な……ッ?! ソリッドトルーパーだと! いつ接近された」
「わかりません! 急に目の前に現れたとしか……というかこいつ、タイラント系ほどじゃないにしろデカくないですか!?」
目の前の巨大なソリッドトルーパーがブリッジに手を置く。
と、それだけで勝手に通信回線が開いた。
接触回線、というものではない。本当に、触れられた瞬間に通信回線がジャックされたのだ。
『久しぶりだねえ。ラウンドの兵士諸君』
「この声……まさかッ!?」
『マルグリットが
「何をいって……」
直後。ブリッジのドアが勝手に開いた。
一斉にブリッジにいた人間がそちらを向く。
そこに居たのは、両手にサブマシンガンを持った修道服の女と、バチバチと指先から放電する女。
ブリッジに入ってくるなり、修道服の女はサブマシンガンを乱射。次々とコンソールを破壊していく。
「次は当てます」
そう宣言する。その言葉には嘘偽りがない。本気で、今度は殺すと言っているのだ。
『ベル。やりすぎだ。コントロールは私とミスターでなんとかなるとはいえ、そこまで破壊されると後が大変じゃないか』
「わたし、手加減できませんから」
「的確に致命的な部分を攻撃する能力は評価に値する、と僕は思うけどね」
『メグ、君は必要以上に放電しないでくれ。システムがダウンしたらすべてが台無しになる』
なるほど。手加減の出来ないシスターと、生きる高圧スタンガン。
正確に特徴を伝えているようだ。
だが所詮は女。ブリッジにはラウンド軍の正規訓練を受けた軍人が12人。
たった2人程度ならば制圧してしまえるだろう。
――と腰のハンドガンに手を伸ばそうとした兵士の眉間に針が突き刺さった。
「お見事だよ、ベルちゃん。ただ、うん。結構ショッキングだからやる前に何か言ってほしかったなーって」
「メグさん、こちらが殺さなければあなたが撃たれてましたよ」
「うげ。マジで?」
と、放電女がよそ見をした直後、1人の兵士が銃を抜いて駆けだす。
一心不乱に引鉄を引く。だが、その弾丸はどちらにも当たらない。
というより、命中する前に放電女の指から放たれた電撃に焼かれて消滅してしまっている。
「すごいですね、それ」
「これ、カロリーを消費するからあんまり長持ちしないんだけどね」
「えっ。それってもしかして……ダイエットの必要が、ない?」
「むしろ食べないと死ぬレベルで痩せるね」
「今、メグさんはこの世の中の女性すべてを敵に回しました」
「一応、僕も性自認は女性なんだけど? ついてるけど」
『あの、さ。2人とも。雑談しながらブリッジクルー全滅させるのちょっと怖いからやめてくれないか?』
2人が雑談している間に、ラウンドの兵士は皆床に伏せていた。
ある者は身体に風穴をあけられ血を噴き出すだけの肉塊に。ある者は、全身を雷以上の高圧電流に焼かれた焼死体に。
生きている者もいる。が、そう言った者も感電してまともに動けないか、かろうじて死んでいない状態かのどちらかだ。
「きさま、らぁ……」
「ブリッジ制圧完了しましたよ。あとはお任せしていいんですよね、ミスター」
『ああ。もちろんだ。徹底的に現場をひっかきまわしてやろうじゃあないか。何より、私の家を荒そうとした罰は、しっかりと受けてもらわなくてはね』
突如としてブリッジに響く、合成音声。
『早速だが――こんなものでどうだろうか』
そしてそのやたら流暢にしゃべる合成音声は、先ほど言葉を発した兵士の声を再現する。
たた一言。それだけなのに、完璧にその音声を再現し、言葉を紡ぐ。
『もうすぐ定期連絡の時間だろう。君たちの代わりに、私が定期連絡を行っておこう』
「まさ、か……」
それが目的だったのか。
ネクサスの情報をラウンドへ送っているこの偵察部隊。それを制圧し、偽りの情報を送る。
それによって、ネクサスに有利なように状況を動かそうとしている。そう、声を盗まれた兵士は考えた。
『君の考えは半分は正解だ。だが、もう半分は――高濃度圧縮プラズマ融合弾頭だ』
「なっ……!?」
自分の声で告げられた言葉に、兵士は目を見開く。だがそこで、彼の意識は消え去った。
『状況終了。2人を回収して本隊に合流する。ミスター、後のことは』
『ああ。任せてくれ』
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