第180話 二重奏

 巨大な、頭のない人型。それが抱えた球体。

 球体部分をスキャニングして得られた結果は――プラズマ融合炉。

 だが、稼働していない。では、目の前の機体の動力はバッテリーなのか、というと絶対にそんなことはない。

 稼働しているプラズマジェネレーターの反応が、2機から確認できている。


「どう見ますか」

「そりゃあ、勿論。図書館ライブラリーにぶつけてドカン、だろ」

「破壊が目的だ、とミスターも言っていましたね」

「その破壊の手段ってのが、プラズマ融合炉のオーバーロードってワケだ」


 さて。どうしたものか。

 センサーを使い、2機周辺を確認する。

 重力場やシールドのような防御用の機能は起動していない。

 だが、ビーム攪乱幕の粒子がまだ周辺に漂っており、高出力ビームでも威力減衰が起きてしまう。

 ビーム兵器しか装備していないこちらとしては、かなり不利。というよりは、面倒くさい、といったほうが正しいか。


「装備の見直しが必要、ですかね」

「まあ、最悪こっちには重力系の攻撃って手もあるさ。こういう風に、な!」


 ハイペリオンがビームライフルを腰にマウントさせ、両の拳周辺に重力場が生成。

 そのまま突撃する。

 その動きに応じる眼前の敵機2機が両腕を前に突き出し、クロ―アームになった手の中央部についているビーム砲で攻撃する。


「射線がわかれば!」


 迫る4つの閃光。それに対しハイペリオンは拳を前に突き出し、重力制御機構グラビコンへ多めに出力を回す。

 予測できた射線上に突き出された重力場を纏った拳。そこにビームが直撃。重力場によって軌道が曲げられぐるりと拳の周りを回って相手に返っていく。

 返されたビームは拡散し、いくつもの閃光として敵機へと飛んでいく。

 ハイペリオンの拳に命中してから反射までの時間、およそ0.000002秒。

 相手からすれば攻撃の直後に反撃されたような感覚だろう。

 ただ、流石に完全に同じ軌跡で相手に跳ね返す、というところまではできず相手に当たらない上、重力場の影響を受けてかビームは拡散。いくつもの細い光の線となって宇宙を駆けた。


「ビーム攪乱幕はさっきの応酬で消えたな。ベル!」

「やってます!」


 ハイペリオンが横にスライドする。

 その背後には、フルチャージ状態のビームランチャーを構えたアストレアが待機しており、ハイペリオンによって隠されていた事によって相手の機体は反応が一瞬遅れた。

 防御姿勢を取ろうとしたが、それよりも先にビームランチャーの引鉄が引かれた。

 放たれた閃光は首のない機体の上半身中央やや左側をごっそりとえぐり取った。

 そして、その際。機体の胸部に抱えられていたプラズマ融合炉が大爆発を起こした。


「ッ!?」


 咄嗟にハイペリオンは変形し、アストレアを回収して一気に後退する。

 なるほど。さっきの衝撃波は、あのプラズマ融合炉が爆発したことによるものか、と納得する。

 が、先ほどよりも明らかに爆発が大きい。

 まさか、と思い再度スキャンをかける。

 と、今度はプラズマ融合炉が稼働している。今は準備段階。エンジンが温まっていない、といったところ。

 今後もっとしっかり稼働し始めたら爆発規模はさらに大きくなる。


「やっぱアレを図書館ライブラリーにぶつけられるのはまずそうだな」


 稼働していない状態ですら戦艦を飲み込めるほどの大爆発。そして稼働し始めたばかりであっても、その爆発を上回る爆発規模。

 発生したエネルギーに比例して爆発が大きくなるのならば、フル稼働状態やおーばおーロード寸前ならばどうなるかわかったものではない。


「ベル。アレはさっさと潰さないと拙い。やるぞ!」


 ハイペリオンがビームソードを抜く。

 それに合わせ、アストレアもビームマシンガンを腰にマウントさせた後、ウイングバインダーからビームソードを取り出し両手に持つ。

 なにせ射撃での攻撃はリスクが高い。

 弱ければこういった大型機ならば当然施しているであろう対ビームコーティングに弾かれる可能性が高い。

 かといって高出力過ぎると、さきほどのように大爆発を起こしてしまう。

 ジェネレーター搭載型のソリッドトルーパーの動力炉を破壊した時と同じ。だが、威力と範囲が桁違い。下手をすれば距離が開いていても爆発に巻き込まれかねない。

 ならどうするか。


「仕掛けます」


 近接戦闘で相手を行動不能にする。

 具体的な攻撃ポイントは四肢。センサーを破壊するのも手のひとつだが――頭部が存在しない以上わかりやすい攻撃ポイントがないから、こちらは今回諦めるしかない。

 あとは、推進剤を爆発させる可能性もあるが、バックパックというのも攻撃箇所としては有効だ。特に、宇宙空間では。


「合わせる。やってくれ!」


 アストレアが両手のビームソードを使って敵機に斬りかかる。

 それをクローアームの爪を閉じて受け止める。

 ビームコーティングによってなんとか耐えられている、といった感じには見える。

 両の爪に防がれる2つの光の剣。

 だが、アストレアの背後から大きく弧を描いて回り込んだハイペリオンのビームソードを振りかぶり、背後から右肩を切断。

 これによってパワーバランスが崩れ、アストレアの左手に握られているビームソードが自由になる。

 即座に左手を突き出し、敵機の左腕の前腕部を切断するベル。

 少しだけ後退してから再加速して蹴りを入れて突き飛ばす。

 距離が開いたところで、ハイペリオンが再度アタックをしかけに戻ってくる。

 同時に。アストレアもまた近接攻撃を仕掛けようとビームソード持った両手を広げて突撃してくる。

 前方と後方からの同時攻撃。

 反撃しようにも武装がない敵機は、回避――むしろこの場から逃げようとしていた。


「逃すか!」


 ハイペリオンは変形し、一気に接近。

 至近距離で再度人型形態へと変形し、敵機の背中を蹴っ飛ばした。

 そして飛ばされた先には――ビームソードを構えたアストレアがいる。

 2つの光の刃は敵機の両膝を斬り裂く。

 これで四肢すべてを切断され、姿勢制御すらままならない機体は胴体部分に残された姿勢制御スラスターでどうにか姿勢を保とうとしているが、続けざまにハイペリオンとアストレアによる連撃を受ける。

 ビームソードはもう必要ない。

 ただ四肢に指向性の重力場を纏わせ、押しつぶすような拳や蹴りで徹底的に叩きつけされ、装甲が変形していく。


「いくぞ」

「はい。せーの」


 2機が対角線上に並び、同時に右脚を振り上げて四肢を失った敵機を蹴り上げる。

 全身をボコボコに殴られ続けたそれは、すでに姿勢制御スラスターの噴射口も塞がれており、姿勢制御もできずくるくると回転しながら吹っ飛んでいく。

 十分距離が開いたと確認したところで、ハイペリオンの高出力ビーム砲が展開。照準を合わせるなり即座に発射。

 が、ビーム砲が放たれる直前。敵は残されていた姿勢制御スラスターだけでなんとか姿勢を整え、胸に抱えていた球体を図書館ライブラリーめがけて射出した。

 直後。ビームが機体を直撃し、爆発が起きる。


「ベル!!」

「間に合えッ!!」


 即座にビームランチャーを組み上げ、それで狙撃を試みるベル。

 パワーブースターも最大出力に設定し、巻き込む範囲を広くしての射撃。

 放たれた閃光は光速にも近しい速度でそれに向かって飛び、命中。

 命中箇所を中心としてごっそりえぐり取られた球体は大爆発を起こし、その衝撃波がかなり距離のある場所にいるアッシュ達にも届く。


「なんとか、なったか……」

「周囲に残敵なし。状況終了、ですかね?」


 出撃していたソリッドトルーパーは全滅させた。

 展開していた艦隊も、爆発の衝撃波で衝突して自滅。

 脱出艇も確認できない。


「……けど、念には念を、だ」

「ええ。私達の事が漏れると拙いですもんね」


 ハイペリオンの高出力ビーム砲と、アストレアのビームランチャーが行動不能になった艦隊に向けられる。

 すでに死に体。ここでの追撃はやる必要がない。むしろ完全にやりすぎだ。

 だが。アッシュ達がここにいたという情報を外部に漏らすのは避けたい。

 生存者がいるのならば、ここでの出来事を持ち帰ってしまうかもしれない。

 だから、ほんのわずかな躊躇いを振り切り、2人は引鉄を引いた。

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